第40話 カール襲撃作戦、いよいよ本番です!
「私が乗り越える壁の近くに植え込みが在ります。皆さんは、ここに隠れて私が壁を乗り越えるのを待ってて下さい」
簡単に描かれた地図を指し示しながら説明を始める。
「まぁ、この植え込みの大きさなら、全員が隠れるのは問題なさそうかな?」
地図を見ながらマニエルさんが言う。
他の皆も頷いており、この部分はクリアだな。
「逃走する方向は各々が自由に決めてくれて構いません。ただ、同じ方向に逃げる人は、途中で別の方向に分かれて下さいね?」
この意見にも異論は無いらしく、全員が頷いている。
「ただし、追手は完全に振り切らないで下さい。追手は逃走先まで誘導します。で、最終的に目指す逃走先は…」
言って私は別の地図を広げ…
「ここです」
ある一点を指し示す。
「「「「ここは…?」」」」
ミハエルさん、ミーナさん、ランディさん、レイチェルさんの声がハモる。
王都の住人であるマニエルさん達は知っていたのか無言。
「王都内に在るカルロスの別邸です♪」
「「「「カルロスの別邸!?」」」」
またもやハモる4人。
「どうしてカルロスの別邸が逃走先ですの?」
当然の疑問を投げ掛けるレイチェルさん。
「ここに逃げ込めば、カール暗殺の首謀者がカルロスだと思わせられるって事か? そんな単純に信じるとは思えないけどな…」
ランディさんの意見は当然だろう。
しかし…
「単純に信じると思いますよ? 最初に流した〝カルロスが確実に王位を手に入れる為にカールを暗殺しようとしてる〟って噂。それからカールの散歩コースでの〝不審な植木鉢落下事件〟に〝鏃に毒を塗った矢が打ち込まれる事件〟。そして今回の〝カールを暗殺しようとした者の逃げ込んだ場所がカルロスの別邸だった事件〟を合わせれば…」
私の説明に頷く一同。
「確かに… これだけカールが襲われた上に、直接手を下そうとした者がカルロスの別邸に逃げ込んだとなると…」
「どれだけカルロスが否定しようと、カールは自分を暗殺しようとしたのはカルロスだと信じて疑わないって事ですわね?」
私は大きく頷く。
「今回演出する暗殺未遂だけなら不自然ですけど、今まで敷いてきた布石がありますからね♪ これで嫌気が差したカルロスが王位継承権を放棄してくれれば良いんですけど…」
私は言いながら指先でテーブルをトントンと叩く。
そんな私にランディさんはニカッと笑いながら…
「実行しない内から上手く行かなかった時の事を考えるなんて、ジェニファー様らしくないぜ? ダメだったら別の作戦を考えたら良いじゃんか♪」
ランディさん、楽観的だな。
でもまぁ、彼の言う通りなのも事実。
やらない内からあれこれ考えても仕方無い。
とにかく今は実行あるのみだ!
「確かに、ランディさんの言う通りですね。まずは実行あるのみ! 明日、カールを襲撃します! 皆さん、頼みましたよ!」
「「「「「おぉ~!!!!」」」」」
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翌日、いよいよカール襲撃を実行する。
全員が私と同じ姿になり、王宮へと向かう。
襲撃するのは昼過ぎだが、出発するのは夜も明けない早朝4時の予定。
潜伏するトコを誰かに見られたら無意味だからな。
「それじゃあ皆さん、頼みましたよ!」
「「「「「おぉ~……」」」」」
前日と違い、私の鼓舞に意気消沈した様子の男性陣。
「どうしたんですか? 昨夜は元気いっぱいに返事したのに…」
「いや… やっぱり、この衣装は…」
「試しに着た時は仲間しか居なかったから気にならなかったけど…」
「逃走中だけの事とは言え、この姿が他人の目に触れるかと思うと…」
女装姿に落ち込んでるんかい…
「でも、顔は覆面で隠れてますし、体型だって胸の詰め物で変わってますからねぇ… 太股と上腕は出てますけど、それだけで誰かは判らないから大丈夫だと思いますよ?」
私の言葉に全ての男性陣が大きな溜め息を吐く。
何故だ…?
ちなみに女性陣はと言うと、胸の大きさを調整するのに四苦八苦していた。
当初の予定ではレイチェルさんより少し大きめにする筈だったのだが…
レイチェルさんの胸がデカいんだよ、どちくしょう!
ただでさえデカい胸に詰め物をすると、不自然な程デカくなるんだよ!
なので結局レイチェルさんはサラシで胸を潰し、その大きさに全員が合わせる事になったのだが…
潰す具合が難しい。
ミーナさんの大きさぐらいが平均的なのだが、それより少し大きい程度ではレイチェルさんが息苦しいと言う。
かと言って、レイチェルさんより少し小さい程度では詰め物が重く、ミーナさんが動き難いと言う。
2人に丁度良い大きさにするのに手間取っているのだ。
必然的に、男性陣は──私もだが──2人の調整が終わるまで胸の大きさを決められないでいた。
結局、全員が同じ姿になってマニエルさん宅を出発したのは、東の空が白み始めた頃だった。
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私達は大急ぎで潜伏場所へと向かう。
まだ通りを歩く人の姿は無いが、家の中では朝食の準備が始まっているのだろう。
窓から明かりの漏れる家が散見される。
そんな街中を誰にも見られない様に全力疾走し…
なんとか夜が完全に明ける前に、全員が植え込みの中に身を潜ませたのだった。
「さ… さすがに疲れた…」
「ギリギリでしたね… もう少し遅かったら、人の目に触れるトコですよ…」
ブー垂れつつも、声を潜めて話す面々。
「これでカールが昼食後の散歩に出てくるまで待つだけですね。私がカールを襲撃したら、打ち合わせ通りに。それぞれ逃走する方向とルートを地図で確認しておいて下さい。ぶっつけ本番ですが、皆さんなら大丈夫だと信じてますので」
最終確認と鼓舞を行う私を、全員がジト目で見る。
「ジェニファー様… なんで… 息一つ乱れて… ないんですか…?」
ミーナさんが仰向けに倒れ、疲労困憊で聞いてくる。
「そりゃ… ジェニファー様は… 幼少期から… 私のお父様でも… バテる様な… 鍛練をして… 平気なんですもの… この程度の距離を… 全力で走ったって… 平気なのは当然… ですわよ…」
同じく仰向けに倒れたレイチェルさんが、息も絶え絶えに説明する。
サラシで胸を潰されて呼吸がし辛いからか、ミーナさんよりバテている様子だ。
「まぁ、本番まで6時間以上ありますから、それまでに息を調えて体力を回復させておいて下さいね? 私は散歩コースに潜んで襲撃に備えますから」
言って私は皆の元を離れる。
背後では、私に対する文句…
じゃないけど、人間じゃないだのバケモノだのと好き放題言う声が聞こえていた。
テメー等、覚えてろよ?
私はカール襲撃の予定地点に到着。
気配を消し、その時に備える。
そして昼が過ぎ、カールが散歩の為に王宮から出てくる。
私と、潜伏している全員に緊張が走る。
その時が来たのだ!




