第38話 カール襲撃計画は、何故か仲間に不評を買った様です
早速、翌日から私達は行動を開始する。
ミハエルさんとミーナさんは王宮に忍び込み、宮殿の屋根の上からカールを狙う。
窓枠に植木鉢を置いている窓も散見されるが、万が一を考えてるらしくカールの散歩コースに同様の窓は無い。
まぁ、窓枠に植木鉢が置ける様に、全ての窓は内開き仕様になっているのだが、それでも何かの拍子に落ちる可能性は考えられるからな。
なので、カールの散歩コースの窓枠には何も置かない事が厳命されているらしい。
そこまで徹底して安全を確保している筈の散歩コースで植木鉢が落ちてきたりしたら…
それも、建物の側に落ちるならまだしも、道の真ん中を歩くカールの近くに落ちてきたりしたら…
誰かが意図的に落としたと考えるのが普通だろう。
当然の様に、カールの近くに植木鉢が落ちた後は大騒ぎになっていた。
だが、こんなのは序の口。
鏃に毒を塗った矢を、弓の扱いに慣れたマニエルさんが撃ち込んだ時は面白いぐらいに護衛達が大慌てだった。
勿論、カール本人も。
ダッシュで王宮に戻り、カルロスに詰め寄っていた。
「カルロス! これは何だ!? 私を殺す気はないと言っていたが、嘘だったのか!? これは私に撃ち込まれた矢だが、調べたら鏃に毒が塗り込まれていたぞ! やはり私を殺して王位に就くつもりなのではないのか!?」
「落ち着け、カール… 前にも言ったが、お前を殺して王位に就いても信用は得られないだろう? 王位に就くなら、皆に認められて就かなければ…」
「自分の預かり知らぬ所で自分を王位に就けようとしてる連中が暴走したとか、何とでも言い訳は出来るだろう!?」
激昂するカールと、宥めようとするカルロス。
だが、完全に疑心暗鬼になっているカールにカルロスの言葉は届かなかった。
その結果、2人は会話する事も無くなり、カルロスもカールを説得するのを諦めようとしていた。
「もう一押しって感じですね♪ ここで私がカールを襲撃すれば、2人の仲は完全に決裂すると言っても良いでしょうね♪」
ここはマニエルさん宅の2階。
マニエルさんと仲間達、そして私達3人が集まって会議中。
私が代表して進捗を説明する。
「まぁ、決裂はするだろうけど、それとカルロスが王位継承権を放棄するかは別問題だろ?」
ランディさんが当然の疑問を口にする。
「確かに別問題ですよ? だけど、カルロス自身が言ってる様に、カールを殺して王位に就いても信用は得られませんよね? 殺しはしなくても、殺そうとしたって噂が広まれば…」
「なるほど… そうなると、いくら王位に就こうとしても、誰からも賛同は得られませんわね… 勿論、カールを殺そうとはしていないのが事実ですけど、それを知っているのはカルロス本人だけ… 現状を周りから見れば、カルロスがカールを殺そうとしてる様にしか見えませんわね…」
さすがレイチェルさん、冷静に分析してるな♪
「そ~ゆ~事です♪ 更に私が暗殺者を装ってカールを襲えば…」
「カルロスがカールを殺そうとしているのが決定的な事実になるって事ですね? 実際は我々の策略であるにも関わらず、誰も真実を知らないから…」
マニエルさんの言葉に私はコクリと頷く。
「警備が厳重である筈の王宮で暗殺者に襲われる… 普通に考えれば、誰かが手引きしなければ不可能ですよね? そして、今までの経緯から手引きを疑われるのは…」
「「カルロスしか居ないって事か…」ですわね…」
ランディさんとレイチェルさんが揃って呟く。
「で、どうします? カールを襲うなら、すぐに手筈は整えますが…?」
さすがマニエルさん、頼れるなぁ♪
だけど…
「しばらくは様子を見ます。カールがカルロスに詰め寄って、それでも暗殺の手が緩まなければ、第三者の関与を疑われますからね。それだけは避けなければいけません。逆に、詰め寄った事で暗殺の手が緩めば…」
「カールには、やはりカルロスが自分を暗殺しようとしてると思わせられるって事ですね? 詰め寄った事でカルロスが慎重になったと…」
私はニッコリ笑って頷く。
「なので1ヶ月前後は動かないでおこうと思ってます。油断を誘うって意味もありますけどね。急いては事を仕損じますから」
「そうですね。じっくり腰を据えて取り組んだ方が良いでしょうね」
マニエルさんも納得して頷いた。
そして私達は、1ヶ月程ノンビリと過ごしたのだった。
いや、サボりたくて提案したんじゃないからね?
─────────────────
そして4週間が過ぎた頃、いよいよ私自身が暗殺未遂を演出する事にした。
その間、カールはカルロスへの疑いを濃くしていた。
無理もない。
カールがカルロスに詰め寄って以降、パッタリと『植木鉢落下事件』や『何処からともなく矢が飛んでくる事件』が無くなったのだから。
当然だが、カールは自身の周りの警備を緩めなかった。
緩めた途端、カルロスが自身への攻撃を再開すると思っていたからだ。
しかし、2週間が過ぎた頃から徐々に警備態勢が緩み始め、現在は通常通りの警備になっている。
それでも10名程度が常にカールの周りを囲んでいるのだが…
私に言わせれば隙だらけなんだよな。
10人前後で囲んでいれば誰も手出しできないとでも思っているのか、真剣に警戒しているのは2~3人。
他の連中は警戒こそしているものの、どことなく気を抜いている様子。
そんな状態なら、私でなくともカールを殺さなくても深手でなくともそれなりの傷を与えるのは容易だろう。
だが、ここは確実を期す為、敢えて私が出張る。
「最近のカールは殆どの時間を宮殿内で過ごしてる様です。ですが、さすがに息が詰まるのでしょう。昼食の後、宮殿の近辺を散歩している様ですね。ほんの十数分程度の短時間ですが…」
「充分ですね。それだけ長時間外出してくれるなら、確実に暗殺未遂を演出できますよ♪」
ミハエルさんの報告に、私は余裕綽々の笑みで答える。
対して私以外は全員が目を丸くしている。
無理もないだろう。
たった十数分しか外出しない、しかも周囲を護衛が囲んでいる相手に対し、確実に暗殺未遂を演出できると言い切ったのだから。
「だけどさ… いくらジェニファー様でも、何から何まで全部1人でってワケじゃねぇよな?」
私はランディさんの問いにコクリと頷く。
「そりゃ~当然ですよ♪ 協力して貰う事も含めての暗殺未遂作戦ですからね♪」
勿論、作戦を確実に行う為には入念な下調べが必要。
逃走の際には追手を撹乱する方法も考えている。
「まずは襲撃する場所から決めましょう。ミハエルさん、カールの散歩コースは毎回決まったコースですか?」
「えぇ。襲撃される事も考えてるのか、見通しが良くて遮蔽物の少ない、広い場所を通るルートを選んでますね。かと言って、全く遮蔽物が無いワケでもありません。およそ10m毎に植えられた木は、人間1人が隠れるのに充分なサイズですし、植え込みなんかもありますからね」
ミハエルさんは王宮の宮殿周辺の見取り図を出し、カールの散歩コースに線を引きながら説明する。
「私が見た感じだと、散歩の中盤に歩く場所。宮殿の裏手に向かう広い道が適してると思うんですよね。突き当たりをカールは宮殿の裏側とは逆… 左に曲がって、塀に沿って歩くんです」
「そこを曲がる少し前に襲撃し、塀を乗り越えて逃走するのが良いって事ですね? 隠れる場所は植え込みか木の上。通り過ぎたカールを後ろから襲撃し、そのまま塀まで駆け抜けて… ってトコでしょうか?」
ミーナさんの考えを読んだ私が続きを話すと、彼女は目を丸くしながら何度もコクコクと頷いていた。
これでカールを襲撃する場所とタイミングは決まった。
次は追手を撹乱しながら逃走する方法について話し合ったのだが…
レイチェルさんとミーナさん以外の全員が難色を示した。
単に私が襲撃する際の衣装とカツラで変装し、追手が掛かった場合に撹乱する為なのに。
何故だ…?




