第37話 王都に到着! 陰謀を巡らせましょう!
翌朝、宿屋の食堂に向かうと、レイチェルさんとランディさんが着席して私を待っていた。
「おはようございます、レイチェルさん、ランディさん。良く眠れましたか?」
儀礼として聞いてはみたが、明らかに2人共眠そうにしていた。
仕方無いと言えば仕方無い。
宿屋に取った部屋は、一番奥にレイチェルさん。
隣に私。
その隣にランディさん。
2人が私の部屋を挟む形だった。
先日の盗賊の親玉の話では、私は意外に有名との事。
間も無く王都という宿場町で、不届き者が私を襲撃しないとも限らない。
なので2人は私を護衛する必要を考え、私の部屋を挟む形で部屋を取ったのだ。
「ジェニファー様に同調する連中が居るって事は、その逆も居ると考えるのが当然だからな… ベッドで横にはなってたけど、気を張ってたからあんまり寝れなかったぜ…」
ランディさん、意外と生真面目なんだな。
グッスリ眠っていた私としては、少しばかり悪い気がする。
「私もあまり眠れませんでしたね… 今夜には王都に着くと思うと、少しですが緊張しますから…」
いや、レイチェルさん…
アンタは違う意味で眠れなかったんでないかい?
「レイチェルさん… 少しは自重して下さい… 指、ふやけてますよ?」
私はランディさんに聞こえない様に声を殺し、ジト目でレイチェルさんに言う。
「えっ? えっ!? そんな筈は…! だって、最後にシてから1時間は…!」
「冗談です… まぁ、シてるのは知ってましたけど… それにしても、明け方までシてたんですね…?」
「き… 緊張を和らげようとしたんですわ! シたら落ち着けて眠れましたの! でも、しばらくしたら目が覚めて… またシたら落ち着けて眠れて… それの繰り返しで、気が付けば朝でしたの!」
顔を真っ赤にしながらも小声で叫ぶレイチェルさん。
まぁ、ランディさんには聞かれたくないだろうからなぁ…
聞こえてても、脳筋のランディさんには何の事か理解できないかもだけど…
「と言うか、ジェニファー様…? もしかして盗み聞きしてましたの? だとしたら、元とは言え一国の王女がはしたないですわ!」
「盗み聞きしなくても聞こえますよ… 私の部屋のベッドは左の壁側、レイチェルさんの部屋のベッドは右の壁側なんですから… 壁を挟んでるとは言え、隣で寝てるも同然なんですからね」
レイチェルさんの抗議に、私は呆れながら答える。
「気付きませんでした…」
気付けよ…
私はテーブルに突っ伏し脱力するレイチェルさんの背中をポンポンと叩き…
「思春期ですから興味を持つのも当然ですし、スるのも当然ですけどね。悪い事ではありませんけど、もう少し声量を抑えて下さると…」
「慰めになってませんわよ…」
レイチェルさんの頭から湯気が出てる様に見えるのは気の所為だろうか…?
「…何の話をしてるのか判らねぇけど、そろそろ朝メシ食わねぇか?」
「そ… そうですわね。ジェニファー様、今の話は忘れて下さいましね…?」
それは無理だと思いつつ、とりあえず頷いておく。
さぁ、朝食を食べたら王都に突撃だ!
大袈裟ですね、そうですね。
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日が落ちる頃に王都に着くと、中に入る為の審査の列に並ぶ。
なんか厳重だな…
てか、ミハエルさんやミーナさんからの情報には、王都に入る為の審査があるなんて無かったけど…
「もしかして、王都に広めた噂の所為なんじゃないか? あれが原因で不審者の取り締まりが厳しくなったとか…?」
「それは考えられますわね… だとすると、私やランディはともかく、名前の知られたジェニファー様は王都に入れない可能性も…」
それは困るな…
だけど大丈夫だ。
前にボコった盗賊の話で自分が意外に有名だと知ってから、身分証でもある〝ハンター登録証〟を夜な夜な偽造していたのだ。
これで名前を誤魔化す。
この世界に写真は存在していないから顔は知られていない。
が、念の為に変装もしておく。
審査待ちの馬車の中で茶髪のカツラを被り、レイチェルさんに手伝って貰って化粧も施しておく。
が…………
「なんか… 変じゃないか?」
「そうですわね… なんと言うか、アンバランスな気が…」
レイチェルさんとランディさんからのダメ出し。
気になった私は鏡を手に取り、自分の姿を確認する。
うん、なるほど…
確かに違和感バリバリだわ…
顔は化粧で大人っぽく仕上がってるが、レイチェルさんより10㎝以上低い身長とお子様体型…
そりゃ変だよ!
アンバランスだよ!
「無理に顔を変える必要、あったのか? ジェニファー様は名前こそ知られてるみたいだけど、顔は知られてないだろ?」
「そうでしたわね… むしろ、化粧している方が不審に思われるかも知れませんわね…」
確かにな…
私はタオルでガシガシ顔を拭き、化粧を落とす。
「これなら大丈夫でしょう。顔は知られてなくても髪の色は知られてる可能性も考えられるので、このままカツラを被っておきます。ただ、お2人も気を付けて下さい。いつも通りに私の事をジェニファー様とは呼ばないで下さいね? 少なくとも王都の中では呼び捨てで構いません」
「あぁ、分かった。で、なんて呼べば良いんだ? 偽名、考えてるのか?」
「名前はジェニファーのままですよ。身分証の苗字は変えてありますけどね。下手に偽名を使っても、何処かでボロが出そうですし…」
「そうですわね… 警備が厳重そうですから街中にも警備兵は居るでしょうし… 名前を言い直したりしたら、怪しまれますわね…」
偽造した身分証でもあるハンター登録証の名前はジェニファー・ベルンハントに変えておいた。
少し変える程度の方が手間が掛からないし、偽造の痕跡も分からないだろう。
特に日が落ちて薄暗い中での審査なら。
かくして王都に入る審査を難なくパスした私達は、協力者のマニエルさん宅を目指したのだった。
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「じゃあ俺達、クビじゃないんですね?」
「良かったぁ~… もう心配で食事も喉を通らなかったんですよぉ~…」
マニエルさん宅で夕食を共にしながら王都に来た理由を話すと、ミハエルさんとミーナさんは安堵して椅子に凭れ掛かった。
「それにしても暗殺未遂ですか… 本当に暗殺するよりリスクは低いですが、それでも危険が伴うのでは?」
「それなら大丈夫ですよ♪ 作戦の大部分は姿さえ見せる事はありませんし。王宮の屋上とかから植木鉢を落としたり、遠くから矢を射かけるだけですからね」
マニエルさんの質問に、私は笑顔で答える。
「ワザと外すって事ですか? それでカールに、本当にカルロスから狙われてる様に見せ掛けると…?」
「そ~ゆ~事ですね♪ その上で私が黒装束で斬り掛かり、ちょっとした傷でも負わせれば、かなり効果的なんじゃないでしょうかね?」
続く私の言葉に、全員が──何故か──硬直した。
「何故ジェニファー様が実行されるんですかっ!? それこそ私達隠密の仕事ですっ!」
「ミーナの言う通りです! 俺達に任せて下さいよ!」
2人の抗議に私は首を振る。
「護衛に囲まれてるであろうカールに傷を負わせるんですよ? 物陰から一気に駆け寄って斬り付けるんですよ? 深手を負わせる必要はありませんが、そこそこの傷を負わせる必要はあります」
沈黙するミハエルさんとミーナさん。
私は続ける。
「護衛が居たから致命傷を負わせられなかった… そう相手に思わせるだけの襲撃を演出しなければなりません。多分、それが可能なのは…」
「ジェニファー様しか居ないって事ですわね…?」
呆れた様に言うレイチェルさん。
「確かにな… それが可能なだけの技量とスピードを合わせ持ってるのは、この中じゃジェニファー様だけだよな…」
ランディさんも同意する。
そして、私達は作戦会議を夜遅くまで行ったのだった。




