第36話 盗賊達は意外にも? 私はアタフタ、ランディさんは通常、レイチェルさんは…?
宿場町に到着すると、盗賊達は半死半生だった。
が、誰も死んではおらず、血塗れになって唸っていた。
「ちっ… 1人ぐらい死んでたら、拷問しなくても恐怖心からベラベラ喋ると思ったのに…」
「なぁ… 今、ジェニファー様…」
「えぇ… 舌打ちしましたわね…」
「それに、拷問って…」
「殺る気満々ですわね…」
ランディさんとレイチェルさんのヒソヒソ話は聞こえなかった事にして、私は盗賊の親玉と思しき男の眼前に刀を突き付ける。
「さて、話して貰いましょうか? 何故、私の事を知っているのか。何故、私がこの馬車に乗っている事を知っていたのか。素直に喋れば、命だけは助けてあげますよ?」
私は相手の恐怖心を煽る様に、如何にも殺人鬼然とした表情を浮かべる。
「わ… 分かった! 話すから! いや、話しますから殺さないでください!」
男は真っ青になり、涙と鼻水を垂れ流しながら懇願した。
「やっぱり悪魔だよな…?」
「間違いなく悪魔ですわね…」
やかましいわ!
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私は宿場町の警備兵に頼み、盗賊を全員牢に放り込む。
親玉だけを別の部屋に連行し、尋問する事にした。
「さ~て… 聞かせて貰いましょうか? まずは、何故私の事を知っているのか」
「自覚してないのか? アンタの名前、知れ渡ってるんだぜ? 齢10歳にして、数万人を従えた異常に戦闘能力の高い子供が居るってな… 各地の盗賊共がアンタを是が非でも仲間にして、打倒帝国を成そうとしてるんだ…」
なんだ、そりゃ…
立場(?)は違うが、打倒帝国を考えてんなら同志じゃんか…
「だったら何故、馬車を囲んで私達を襲う様なマネを? 最初から話してれば…」
「やり方が悪かったのは謝る… けど、問答無用で斬り掛かってきたのはアンタの方じゃねぇか…」
え~と…
「そう言や… 馬車から飛び降りたと思ったら、有無を言わさず斬り掛かってたなぁ…」
「何か話してたみたいですけど、かなり一方的に言いたい事だけを言ってから襲い掛かってましたわね…」
「あぁ、相手の言い分なんか聞く耳持たないって感じだったな…」
「少しでも話を聞いてあげていれば、盗賊達も悲惨な目に遇わなかったでしょうねぇ…」
私が悪いんかい!?
いや、明らかに私が悪かったですね…
「それはまぁ… 私の早とちりと言うか… それより! 打倒帝国を掲げるのは志を同じくする同志なんでしょうけど、私を仲間にするには実力が伴ってませんよ!? 先程の戦いでハッキリしてますけど、貴方達の実力は私達のパシり連中より低いと言わざるを得ません。私を仲間に引き入れるなら、もっと実力を向上させて貰わないと…」
「誤魔化したな…」
「えぇ、誤魔化しましたわね…」
ランディさんとレイチェルさんがヒソヒソ話す。
私は2人を無視して警備兵に紙とペンを用意して貰う。
机を借りて手紙を書き、盗賊の親玉に渡す。
「こ… これは…?」
「この手紙を持って、バルバッツァ──私達の街──に全員で行って下さい。私が斬った腕や脚の筋は魔法で治してあげます。地図に描かれた家に行って、ジュリアって女性に手紙を渡して下さい。悪い様にはしない筈です」
言って私は親玉の怪我を治す。
更に牢へ向かい、全ての盗賊達の怪我を治すと踵を返し、宿屋へと向かった。
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宿屋にチェックインし、荷物を部屋に置いた後、私達は食堂で夕食を摂りながら話す事にした。
「ジェニファー様… あの盗賊達、どうするつもりですの?」
「まさかと思うけど、仲間にする気か?」
「仲間と言うより配下ですね。さっきの戦いで判りましたし、言ったと思いますが、彼等の実力は低いと言わざるを得ませんので」
2人は顔を見合せ…
「確かに… ジェニファー様の動きに全く反応できてなかったよなぁ…」
「ジェニファー様、好き放題に斬りまくってましたわね、悪魔みたいな表情で…」
放っとけ!
真剣での勝負は初めてだから、テンション爆上がりだったんだよ!
「だからって、問答無用で斬り掛かるってのは… なぁ?」
「ランディの言う通りですわね… まず話し合っていれば、彼等も余計な怪我をせずに済んだでしょうに… 少しは自重して下さいませ」
そ… それを言われると…
「と… とりあえず! 明日も早いんですから、もうシャワーを浴びて寝ましょう! 今日の事は忘れて下さい!」
私が立ち上がると…
「「まだ食事、半分ぐらい残ってるぜ?」ますわよ?」
と、呆れた様にテーブルの上を指差した。
私は大急ぎで残りの食事を片付け、部屋へと向かうのだった。
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ジェニファーが去った後、ランディとレイチェルは食事を済ませてからも話していた。
「なんか、足枷を外された野獣って感じだったな♪」
「…ですわね♪ 本人の前では言えませんけど♪」
「それにしても、凄え早さだったな…」
「えぇ… 鍛練の時よりも、更に早く感じましたわ…」
レイチェルの言葉に首を傾げるランディ。
「いや、レイチェル… 俺が言ったのは、〝残った食事を片付けるジェニファー様の食いっ振り〟の事なんだけど…?」
「…えっ? 私は〝ジェニファー様の戦いっ振り〟の事だとばかり…」
互いに顔を見合せるランディとレイチェル。
「いやまぁ… レイチェルの言う通り、戦いっ振りも確かに凄かったけど…」
「う~ん… ランディの言う通り、食べっ振りも確かに凄かったですわね…」
互いに感想を述べながら、コクコクと頷き合う。
そして一頻り笑い合うと、それぞれの部屋へ戻ってシャワーを浴びて寝たのだった。
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「ジェニファー様が来られるんですか… まぁ、工作の進捗を考えると、業を煮やしたって感じですかね?」
ミハエルから報告を受けたマニエルが苦笑しながら言う。
「上手く進んでるとは言い難い状況ですからねぇ…」
「長男と次男の間の溝を決定的にするって事だけど… どうするのかな? 長男を暗殺するなんて論外でしょ?」
ジェニファーからの手紙をヒラヒラさせ、ミーナが尋ねる。
「「う~ん…」」
マニエルとミハエルは腕を組んで考える。
が、暗殺未遂にまでは思い至らなかった。
「まぁ、僕達が考えても仕方無いですね。ジェニファー様が来たら話してくれるでしょう」
「ですね。ジェニファー様が何を考えてるかを考えるより、何を指示されても対応できる様に準備を調えましょう」
するとミーナが更に手紙をヒラヒラさせて言う。
「でもさぁ… ジェニファー様、レイチェルとランディって実力者? …を連れて来るみたいだけど?」
「「えっ?」」
目を点にしてミーナを見るマニエルとミハエル。
「それじゃあ…」
「もしかして俺達…」
「「クビ…?」」
青くなるマニエルとミハエルだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都直前の宿場町で、私達は打ち合わせをしている。
そして、私がカルロスに危機感を与える為の方法を伝えた2人の反応は…
「子供騙しじゃないか? なあ?」
「ですわね… 王宮内を歩くカールの近くに植木鉢を落とすとか、誰かに狙われてる様に見せ掛けるとか…」
まぁ、そんなモンだろうな。
「それで充分なんですよ。他の貴族達はともかく、カールはカルロスに対して疑心暗鬼になってますからね。最後のひと押しをしてやれば…」
ランディさんとレイチェルさんは互いに顔を見合せ、頷き合う。
「それでもカルロスが王位継承権を放棄するかは…」
「分かりませんわよねぇ…?」
そりゃ、分からないよ。
けど…
「そこで脅迫です♪」
「「脅迫!?」」
カールに対し、出所不明の脅迫状を送る。
もしくは直接的に脅迫を行って、王位継承権を放棄する様に迫る。
そんな事が続けば、ますますカルロスは立場が悪くなる。
「それなら更にカールはカルロスを疑い、嫌気が差したカルロスは王位継承権を放棄する… かな…?」
「カールや周辺には、常に『このままだとカルロスがカールを殺すかも知れない』と思い続けさせるんですのね? カルロスはカールだけでなく、周囲からの信用も失くしていく… それは精神的に参ってしまうでしょうね…」
「でしょ? それに、それだけの事を私だけで行うのは難しいんで、お2人に来て貰ったってワケです♪」
2人は頷き…
「解った。じゃ、後は王都でマニエルさん達と打ち合わせだな。俺は明日に備えて早く寝るよ。じゃ、お休み~♪」
「私も… 寝るとしますわ… 明日から忙しくなりそうですしね… お休みなさい…」
言って2人はそれぞれの部屋へ戻っていった。
ランディさんは普通に寝そうだが、レイチェルさんは何か考えてるみたいだな…
私は部屋に戻ると、隣のレイチェルさんの様子を伺う事にした。
…やっぱりな♡




