第35話 王都に向かう途中、意外に自分が有名だった事が判明しました。
王都にカール暗殺の噂を流して十数日が過ぎた。
噂は確実に広がり、王都中の酒場はその話で持ち切りである。
「これだけ噂が広がれば、王宮は大騒ぎでしょうね」
マニエルがミハエルとミーナに聞くと、2人はニヤニヤと笑いながら頷く。
「どうやって噂を揉み消すかで、連日の会議ですよ♪」
「王都周辺の街にも広まっちゃったし、何の解決策も浮かばないみたいなのよねぇ♪」
2人の話にマニエルは肩を竦める。
「ここまで噂が広まれば、簡単には消せませんよね。けれど、このまま放っておけば、いつかは消えてしまいます。完全には消えないでしょうけど、噂は噂に過ぎないと思われるかも知れませんね…」
マニエルの言葉に、ミハエルとミーナは腕を組んで考える。
「そうなると… さすがにマズいよなぁ…? カール自身はまだカルロスを疑ってるみたいだけど、それぞれの派閥がなぁ…」
「そうねぇ… 会議ばっかりで、長男派の貴族が次男派に鞍替えしたって話も聞かないし…」
「えぇ… このままだと、第二段階の『カルロスに王位継承権を放棄させる』事はできませんね…」
「「うぅ~ん…」」
ミハエルとミーナは、声をハモらせて悩むのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジェニファー、今日も手紙が届いてるわよ」
ミハエルさん達が作戦を開始してから、毎日の様に報告が届いている。
少しずつだが、確実に王都全体にカルロスがカールを暗殺しようとしているとの噂が広まり、更には王都周辺の街にも同様の噂が広まっているとの事。
「思った以上に順調なんじゃない? このまま噂が広まれば、カルロスは王位継承に嫌気が差すんじゃないかしら?」
「そう上手く行くとは思えませんね… 噂を聞いた長男派が次男派に寝返ったって情報は無いみたいですし、このまま放っておけば噂自体が尻すぼみになる可能性も考えられますけどね」
「そうなると、計画自体が水の泡じゃないか?」
「ですよねぇ… 同じ手は通用しないでしょうし…」
私がジュリア姉様に言うと、ジャック兄様とジョセフ兄様が心配そうに考え始める。
やっぱり、私が動いた方が良さそうだな…
私は椅子から立ち上がり、3人に宣言する。
「暗殺未遂計画、実行に移します。自身が王位に就く為、カルロスは実の弟を手に掛けようとした… そんな状況を作れば、長男派も彼を見限るでしょう。やはり噂は本当だったのかと、世論も思うでしょうね。そうなれば、カルロスは王位を継ぐ立場に嫌気が差すかも知れません! …多分…」
最後の一言は、聞こえない様にコッソリ呟く。
だって、確実とは言えないんだから仕方無いじゃん…
「暗殺未遂計画… って事はジェニファー、お前…?」
「この目は本気ですね…」
「止めても行くんでしょ? まぁ、本当に暗殺するワケじゃないからカールに近付く必要は無いし、適当に危機感を煽るだけで充分よね?」
そ~ゆ~事♪
適当に脅してやるだけだから、ミハエルさん達に任せても良かったんだけど…
私に活躍の場が無いってのも、なんか腹が立つんだよな…
私は旅支度を調えると、急いで王都に向けて出発した。
─────────────────
ガタゴトと揺れる定期運行の幌馬車に乗り、私達は一路王都を目指している。
「で…? 何故、私達まで同行するんですの…?」
疲れた様にレイチェルさんがボヤく。
「私1人じゃ、手に負えない事もあるかも知れませんからね♪ それに、背中を任せられる仲間が一緒の方が、心強いじゃないですか♪」
背中を任せられるの一言に、顔を赤くするレイチェルさん。
「ジェ… ジェニファー様に、そう言って貰えるのは光栄ですわ…♪ ランディも、そう思いますでしょ?」
「えっ? あぁ、そうだな…」
ランディさんは、どこか上の空の様だ。
何か気になる事でもあるのかな?
「気の無い返事ですわね…? 何か考え事ですの?」
「考え事って言うか… ジェニファー様って、意外と有名なんだと思ってな…」
私が有名?
そんな話もは聞いた事がないんだけど…
「何の話ですの? 今の私達の会話と何の関係が…?」
「…気付いてないのか? 盗賊に囲まれて馬車が止まってるし、その盗賊が『ジェニファーを出せ』って騒いでるぜ?」
そう言えば、いつの間にか馬車の揺れが止まってるな…
私は馬車の幌をを少し捲って外の様子を確認する。
なるほど…
確かに囲まれてるな…
しかし、これは…
「鈍くなったってワケじゃ無さそうだな… そう。こいつら、数に物を言わせただけの烏合の衆ってトコだ。俺1人でも余裕で… って、ジェニファー様!?」
ランディさんの言葉が終わる前に、私は馬車の外に飛び出していた。
何故この盗賊達が私の事を知っているのか?
何故この馬車に私が乗っている事を知っているのか?
そんな事はどうでも良い。
私が前世でやってみたかったけど出来なかった事を行えるチャンス♪
キ○ガイと思わないで欲しい。
誰でも一度は思った事がある筈だ。
手段はどうあれ、人を殺してみたいと思った事は。
高校生レベルではあるが、剣を極めたと言っても良い私も例外では無い。
竹刀で防具の上から叩くだけで勝敗を決するのに、不満を感じないワケが無いだろう!
命を賭けた斬り合いをしてみたいと、常々思っていたのだ♪
前世では『生まれる時代を間違えたんだろう』と、よく親に言われたっけ…
事故で死んだのは悔しかったけど、この世界に転生して良かった~♪
さぁ♪ 存分に斬り合い、殺し合いを楽しもう♪
「私がジェニファーです♪ 貴方達が何故、私を知っているのか… 何故、この馬車に私が乗っているのを知っているのかは知りません。興味もありません。ただ、私を狙っているのなら… 容赦しませんので、そちらも遠慮しないで下さい! さぁ! 斬り合いを楽しみましょう!」
私は叫んで盗賊達に斬り掛かったのだった。
─────────────────
「下の中ってトコでしたね… 実力的にはパシりの連中より低いです… 38人も揃えておきながら連携も成ってませんし、私を襲うには千年早いですね…」
私は数分で盗賊達を戦闘不能にし、刀を鞘に納めながら言う。
ちなみにだが、今回の戦闘では誰1人殺してはいない。
腕や脚の筋を斬り、戦闘能力を奪うに留めた。
連中の目的や、何故この馬車に私が乗っている事を知っていたかを聞き出す為だ。
「これ… レイチェルがジェニファー様の背中を守る必要、無いんじゃねぇか?」
「むしろ、お荷物になるんじゃないかとさえ思ってしまいますわね…」
いやいや。
こんなレベルの低い連中、援護も護衛も必要ないから。
「お2人の力が必要になるのは王都に着いてからですから♪ 今は温存しておいて貰わないと♪」
言ってウインク一つ。
だが、2人は私をジト目で見つめるだけだった。
何故だ…?
─────────────────
盗賊達をロープで縛り、拷問も兼ねて馬車で引き摺る。
私は馬車の後方に座り、盗賊達に話し掛ける。
「何故、私の事を知ってるんですか? それと、何故この馬車に乗っていると?」
盗賊達は答えない。
いや、答えられないと言った方が正しいか。
なにしろ御者に頼んで馬車の速度を限界近くまで上げさせた状態での質問である。
盗賊達は、私に脚の筋を斬られている為、立って走る事もできない。
ただ叫び声を上げているだけ。
「答えないと、宿場町に着くまで引き摺られるだけですよ? それまでに、何人が生き残ってますかねぇ? 私としては、貴方達が1人でも生き残っていれば聞きたい事は聞けますので、何人死んでも気になりませんからね♪ 死にたくなければ、さっさと答えて下さいね~♪」
ニコニコ笑顔で話し掛ける私を、レイチェルさんとランディさんはジト目で見つめていた。
「悪魔だな…」
「まだ悪魔の方が慈悲の心があるんじゃないかしら…?」
ど~ゆ~意味だ、テメーら…




