第33話 これって策謀ですか? 違いますか、そうですか…
「なかなか難しいと言うか、ややこしいと言うか、微妙な感じですねぇ…」
私はミハエルさんとミーナさんから届いた報告書を読みながら、兄様達と姉様に話し掛ける。
「…どうかと聞かれれば、ややこしい感じかな?」
「…いや、微妙でしょう」
「…難しいんじゃないかしら…?」
3人の反応もバラバラだな…
「比較的、長男のカルロスと次男のカールが似た様な考えを持ってるって事だけはハッキリしてますけど… 娘のカレンの考えだけが判明してないんですよねぇ…」
私は報告書をテーブルに置き、腕を組んで考える。
「この報告書の日付は2週間ぐらい前よね? だったら、今頃はカレンの考えも判ってる頃だと思うけど… 次の報告書って、いつ届くの?」
報告書を手に取り、サッと目を通しながらジェニファー姉様が聞く。
「何か判った時点で報告書を寄越す様にって言っておきましたから、そろそろ作成してる頃じゃないですかね? ですから、何か判った事があれば、数日の内に届くと思いますけど…」
「何も判ってなければ、当分は届かないって事ね…?」
まぁ、そうなんだけどね…
「慌てるなよ、ジュリア。まだまだ先は長いんだからな♪」
「兄上の言う通りだぞ。僕達… と言うよりジェニファーかな? やろうとしてる事は、一朝一夕には成し得ない事なんだからさ♪」
兄様達に言われて、ジュリア姉様はムスッとした表情になる。
「そんな事、解ってますよ… でも、やっぱりヤキモキするじゃないですか…」
…まぁ、気持ちは解るな。
「誰を倒して国を興すかで、気分も変わってくるでしょう?」
そっちでヤキモキしてるんかい…
まぁ、娘の考えが判らないから、気持ちは理解出来るけどな。
とにかく私達にできる事は、ミハエルさんとミーナさんからの報告を待つ事だけだな…
もどかしいが、こればっかりは仕方が無い。
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「娘のカレンは息子2人に比べてマトモだな… 1人だけ若いってのも関係してるのかな…?」
「そうねぇ… 息子達は40歳を超えてるけど、カレンは20歳前? 随分と差があるわねぇ…」
王宮の屋根裏で相談するミハエルとミーナ。
「カレンの母親は、息子達とは違うんですよ。息子達の母親は、カレンが生まれる3年程前に病死しています。カレンの母親は後妻ですね。60歳近くなってから生まれたカレンを、国王は溺愛していましたので… だからでしょうか… カレンは国王の考えに、かなり近い考えを持っている様ですね」
一緒に潜入したマニエルが、2人の疑問に答える。
調査途中ではあるが、カレンの『侵略した国家への対応』は国王の『融和政策』に近い考えとの結論だった。
女だからか、男である国王よりも更に柔和と言っても良かった。
侵略した国家の王族や貴族は、現段階では全てが平民に落とされている。
が、カレンは『辺境貴族』の地位なら与えても良いのではないかとの考えだった。
それは、現状よりも元王族や元貴族の立場が良くなる事になる。
「カレンが次期国王になる事だけは、絶対に阻止しないといけませんね。そんな事になったら、ジェニファー様の計画しているクーデターが起こせませんよ…」
「そうよねぇ… でも、今のままだと国王自身が次期国王にカレンを推しそうよねぇ… いくら息子達でも、国王である父親の決定には逆らえそうにないかも…」
ミハエルとミーナの意見に、マニエルは考えながら答える。
「仮にカレンが次期国王になった場合… 少なくとも後を継いだカレンが崩御するまでの間、クーデターを起こせなくなる可能性が高いですね… カレンの政策にも依りますが、現時点でのカレンの考えを思うと… 侵略した国家の王族や貴族に対する対応は、現状より良くなりますよね… そうなると、クーデターを起こす大義名分が無くなってしまう可能性は否定出来ません…」
ミハエルとミーナは青褪める。
「じゃ、カレンが次期国王になったら数十年はクーデターが起こせないって事!?」
「いや… 数十年どころか、俺達が生きている間は起こせないかも… カレンが20歳だとしても、ミーナやジェニファー様とは5歳しか変わらない… 5歳なんて年齢差、どっちの寿命が先に尽きるかなんて判らないじゃないか…」
是が非でもカルロスかカールが後を継ぐ様に世論を操作する必要があると、3人は心に誓ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先の報告書が届いてから2週間が過ぎ、待望の最新情報が私の元に届けられた。
私が報告書を開くと、ジュリア姉様が私を押し退ける様に読み始める。
おいおい…
「…マズいんじゃない? 報告書を読む限り、現国王の考えに近いカレンが次期国王に成る可能性が高いわよ…?」
ジュリア姉様が冷や汗を流しながら言う。
「う~ん… 確かにジュリアの言う通りかもな… クーデターを考えてる僕達はともかく、他の元王族や元貴族はカレンの政策を支持するんじゃないか?」
「ですよねぇ… ジェニファー、お前はどう思うんだ? 下手すると、クーデターなんて夢のまた夢だぞ?」
豊臣秀吉の辞世の句かよ…
露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速のことも 夢のまた夢
知る人ぞ知る、有名な辞世の句だな。
まぁ、知る人ぞ知るってのは、知ってる人は知ってるけど、知らん人は知らんって事だけど…
そう言う私も、たまたま知ってるだけに過ぎない。
意味は知らん。
なんとなく解る気はするけど、無理に知りたいとも思わないし、知ったから何なんだって気もする。
この世界で豊臣秀吉の辞世の句を知ってても、何の意味も無いし…
そもそも俳句や和歌なんて無い世界だからな…
って、そんな事はどうでも良いんだよ。
問題なのは、カレンが次期国王になるのを如何にして阻止し、新国家を興す為のクーデターを起こせる様にするかって事なんだからな。
「確かに、今のままだとカレンが次期国王にって流れになりそうですけど… 仮に現国王がカレンを推したとしても、アンドレア帝国の貴族達が賛成しなければ国王には成れませんよね?」
「「「あ………」」」
私の一言に、3人は顔を見合わせる。
「アンドレア帝国の貴族達は、長男のカルロス派と次男のカール派に分かれているんですよね? カレン派は居ないか、居ても少数なんじゃありませんか? 世論が誰を次期国王に望んでいるかは判りません。けど、現段階では女王を望む声は挙がっていない様にも思えますね。かといって、楽観視するのは危険ですけど…」
更に私が続けていると、練武場で鍛練を終えたレイチェルさんとランディさんがリビングに入ってくる。
「なんか、ややこしそうなトコに来ちまったかな…?」
「そうみたいですわね… 私は先にシャワーを浴びてきますわ…」
「ちょっと待ったぁああああっ!」
去ろうとする2人を私は制止する。
「レイチェルさんとランディさんの街は、誰が次期国王に成る事を望む声が多いですか?」
「へっ? 次期国王!?」
「それって… 何の話ですの?」
なるほど…
レイチェルさんの街もランディさんの街も、ここと同じく辺境だから情報が伝わってないんだな…
「実は…」
私は2人に知り得た情報を伝え、現在の状況を説明する。
「そうだったんですのね… 現国王の容態が…」
「それで、長男と次男のどちらかを… できれば次男を次期国王にして、クーデターを起こし易くしようってのか…」
「現状、カレンを推す声は挙がってませんし、アンドレア帝国の貴族達はカルロス派とカール派に二分されてる状態なんで… 普通に考えるとカレンが次期国王に成る可能性は低いですけどね」
私の説明に、2人は考え込む。
簡単に答えが出る問題でもないと思うけどな…
「確かに難しい問題ですわね… それにしても次期国王… できれば次男に継いで貰った方が都合が良い事だけは確かですわね…」
「カルロス派の連中に金でもバラ撒いてカール派に鞍替えして貰うか? …ってのは冗談として、ミハエルとミーナ… それにマニエルと協力者達だっけ? 連中に王都の民衆を扇動して貰って、カルロス派の連中から民衆の気持ちが離れていく様にできねぇかな? 民の人気取りに必死なセコい貴族連中なら、あっさり鞍替えするかもな♪」
「ランディ… 貴方ねぇ…」
ランディさんの何気無い冗談めかした意見に呆れるレイチェルさん。
だが…
「それ、採用!」
私はランディさんの適当とも思える意見を採用。
すぐにミハエルさんとミーナさん宛に手紙を書き、速達で届ける事にしたのだった。




