第32話 思惑通りに運んでいる様で、思惑を超えてるのかも知れません。多分…
「ただいま戻りました~っ♪」
やたら元気にミーナさんがドアを開けて飛び込んでくる。
「ミハエルさんとの調査は順調ですか? とりあえず、現時点で判明している事を報告して下さい♪」
マニエルさん達からも手紙で報告は受けているが、生の意見も大事だからな。
「は~いっ♪ 次期国王候補の2人ですが、どちらが国王になっても同じ様な感じですね。勿論、今の段階では、です。引き続き兄が調査を進めてますので、私も卒業式が終わり次第王都に向かいます。ところで一つ問題がありまして…」
「まぁ、調査を始めて数日で戻ってきてるワケですから、情報は殆ど無くて当然ですよね… で? 問題と言うのは?」
私が促すと、ミーナさんは身を乗り出して言う。
「物価ですっ!」
「は? 物価?」
「そうです! 王都の物価は高いんです! この街なら小銀貨1枚で買える串焼きが、小銀貨2枚もするんです! 単純に考えて、渡された資金では予定の半分の日程しか活動できません! ジェニファー様! しっかりとした調査を続ける為にも、追加の資金をお願いしますっ!」
テーブルに突っ伏して懇願するミーナさん。
「なるほどねぇ… ジェニファーって金銭感覚が無いモンねぇ… まぁ、仕方無いわよ。必要な物はお父様やお母様に言うか、でなければ侍女やメイドに言えば手に入ったんだから…」
いつの間にか現れたジュリア姉様が淡々と語る。
放っといてくれ。
お小遣いが貰える様になるのは学園に入ってからって事だったし、学園に入った途端に戦争が始まって、それどころじゃ無かったし…
だから、この世界の貨幣価値を知らないんだよ!
まぁ、今回の事で勉強にはなったな。
今後は気を付けるか…
「…それは申し訳ありませんでした。では、これなら足りるでしょうか?」
言って私は懐から3枚の金貨を取り出す。
最初に渡したのが金貨1枚だったから、3枚追加したら大丈夫だろ。
「こ… こんなに…! これだけあれば、当初の予定の倍は調査できます! いや、調査を日程通り進めて良いなら、毎日美味しい物を好きなだけ食べられるのねぇえええええっ!!!!」
「無駄遣いする前提で考えるなぁあああああっ!!!!」
私はテーブルを飛び越え、ミーナさんの顔面に全力の飛び蹴りを炸裂させたのだった。
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(フム… 長男と次男では、次男の方が良い感じだな… ジェニファー様がクーデターを起こす大義名分を得るには、次男が王位を継いだ方が都合が良い様だ… 問題は、どうやって長男の方を失脚させるかだな…)
ミーナが王都を離れて数日、それが調査を続けていたミハエルの出した結論だった。
長男の方は、次男に比べて侵略した国家に対して僅かだが柔軟な姿勢を見せていた。
現国王の方針は、少なくとも侵略した国の王族には最低限の生活と費用を保証し、元貴族に対しても職業を斡旋する等の便宜を図っていた。
長男の考えは、王族も職業を斡旋する等して、元王族だからと特別扱いは止めるべきとの考えだった。
次男の考えは更に厳しく、侵略した国家の王族も貴族も等しく我が国の平民として扱い、職業の斡旋すらも止めるべきとの考えだった。
ジェニファーがクーデターを起こす大義名分を得るには、次男が王位を継いだ方が都合が良いのは明らかだった。
(こりゃ、ミーナが戻っても調査を続ける必要は無くなったかな? 後は、如何にして次男が王位を継げる様に世論を扇動するかかな…?)
一応の結論に達したミハエルだったが、それでもミーナが戻るまでは調査を続ける気でいた。
長男と次男の気が変わるかも知れないし、長男の方が次男より厳しい考えに変わる可能性もあるとの思いからだった。
(それにしても、親と子で考えが違い過ぎるよな… 真逆と言っても良い考え方なんて、どんな教育してたんだよ…?)
ミハエルの疑問も当然だった。
親である現国王は、侵略した国の民が反乱など起こさない様に懐柔策を採っていたが、次期国王候補の2人は威圧する方向に舵を切ろうとしていた。
(性格的なモノかも知れないけど、俺達… いや、ジェニファー様にとっては都合が良いかな…?)
調査対象が寝室に戻った為、この日の調査を終える事にしたミハエルもマニエルの家へと帰ったのだった。
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「…では、諸君の未来に幸多からん事を! 卒業、おめでとう!」
やたら長い学園長の卒業祝いの話が終わり、精神的に疲れ果てた私は、ストレス解消の為に練武場で暴れまくった。
お陰で体術鍛練用のサンドバッグ3つと剣術鍛練用の打ち込み人形──鋼鉄製──2つを潰したけど…
「ちょっとは手加減しなさいよ… 学園長の話が長いのはジェニファーも知ってるでしょ? 皆が頑張って稼いだお金で作った鍛練用具を簡単に壊しちゃって… 弁償しなさいよ?」
呆れ顔&ジト目で私を見つめるジュリア姉様。
「まぁ、これからは私もハンターとして稼げますし、この程度はご愛敬って事で♪」
暴れまくってスッキリした私は、姉様に最高の笑顔を向ける。
「愛敬で散財しないで欲しいわね… それより、きっちり後片付けしときなさいよ?」
言って練武場を後にするジュリア姉様。
あ、やっぱり手伝ってはくれないか…
仕方無がないので、私は自分が潰したサンドバッグと打ち込み人形を裏の粗大ゴミ置き場に運んだのだった。
「う~ん… ストレス解消の為とは言え、さすがにやり過ぎたなぁ… ギルドに行って、魔物か魔獣の討伐依頼でも適当に探してみるかな…?」
「賛成ですわね♪ 私達もご一緒させて貰えませんかしら?」
「だな♪ 1人より、パーティーの方が大きな依頼が受けられるからな♪ その分、稼ぎもデカくなるぜ?」
不意に声が掛かり振り向くと、そこにはレイチェルさんとランディさんがドヤ顔で立っていた。
「ど… どうして…!? いや… そりゃ、嬉しいですけど…」
混乱する私に、2人は最高の笑顔を見せてくれる。
「俺の学園、卒業式が半月前だったんでな。終わってから急いで来たんだよ」
「私の卒業式も半月前でしたわ♪ 居ても立っても居られなくて… 大急ぎで準備して来たんですの♪」
感極まった私は、思わず2人に抱き付いたのだった。
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「ふ~ん… 息子2人がアホなのは解ったけど、どっちが王位を継いだ方が都合が良いかは微妙かぁ… なるほどねぇ…」
ミハエルから話を聞き、考えるミーナ。
「あぁ… まだ調査を始めて1ヶ月ちょっとだからな… まだ結論を出すのは早いが、現時点では似たり寄ったりだな」
「誰が王位を継ぐかを決める会議は、再来月の半ばに開かれるそうです。候補は長男のカルロス、次男のカール… ですが、一部では娘であるカレンを推す声も聞かれる様です」
マニエルの言葉に、ミハエルとミーナは驚愕の表情を浮かべる。
「女帝を擁立するって事ですか? それは歴史上、前例が無いのでは?」
「でも… そのカレンって娘が長男と次男を上回るアホなら、ジェニファー様にとっては都合が良いですよね? 場合に依っちゃ、カレンが王位を継げる様に世論を操作する必要も考えなきゃねぇ…」
マニエルの呼び掛けで集まった面々も、ミーナの意見に黙って頷く。
その後、まだ結論を出すのは早いとのミハエルの意見を採用し、引き続き調査を続行する事に決定した。
ちなみにミーナは、金銭感覚が欠落しているジェニファーから当初の予定を遥かに超える調査費用を受け取っていた。
その事を知ったマニエルの意見で、その資金を使って上手く民を扇動する方法も考える事になったのだった。




