第30話 クーデターを成功させる為に、後継者問題を調べましょう!
取捨選択?
優生劣廃?
断捨離?
適材適所?
篩に掛ける?
どんな言葉が適切なのかは判らないけど、ハンターや冒険者に向かない連中──主にパシり連中──を排除して…
いや、排除と言うとイメージが悪いな。
実戦に向かない連中が補助や経済面で役立つ様に、所属するギルドを振り分けたと言うべきか。
ランディさんやレイチェルさん達も同じ事をしてると思う。
…思いたい。
反乱を起こす準備を始めて5年近くが経ち、私も学園を卒業する時期が近付いてきた。
そして、反乱を起こす時期も近付いているのかも知れない。
アンドレア帝国の国王は、2~3年前から体調が思わしくないらしい。
ここで問題になるのが次期国王の存在だ。
噂では、王宮内で長男派と次男派で対立が起きてるらしい。
「よくある話ですよねぇ… 長男と次男で何が違うのかまでは知りませんけど」
「普通なら長男が後を継ぐと思うんだけどね…」
普通ならな…
問題なのは、長男と次男が双子である事だろう。
一つでも年齢差があれば、後継者問題は起きなかっただろうと思う。
性格は違うだろうが、それが派閥を生む原因になってるのかもな…
あるいは、どちらも自分こそが国王に相応しいと野心を抱いてるのだろうか?
「調べてみた方が良さそうですね… で、私達が反乱を起こすのに都合が良い方が王位を継承する様、世論を操作するとか…」
「ジェニファー… あんた、相変わらず策士よねぇ… で、何をどうやって調べるわけ?」
ジュリア姉様の問いに、私はニマッと笑って答える。
「元・男爵位の同級生が、何名か王都に住んでるんです。勿論、彼等だけでは心許無いので、私の部下を送り込みます。私の部下の中に隠密の子女が居ますので、同級生の家に居候させて調べさせましょう♪」
「そんなのが部下に居たんだ… てか、調べさせるって事は、それなりの手練れなのよね?」
姉様の質問に、私はパチンッと指を鳴らす。
すると…
「「私共にお任せを!」」
「うわあぉおぅっ!」
私の左右に一組の男女が現れ、姉様が素っ頓狂な声を上げる。
「ど… 何処から現れたのよ! それに、その格好は何!?」
姉様が驚くのも無理はないか…
種明かしをすれば、最初から居たのだ。
私の隣にしゃがんで潜み、気配を完全に消して…
ちなみに2人の姿は忍者装束。
当然だが、異世界では馴染みが無い。
「私の考えた衣装です♪ 全身黒ずくめで眼の部分だけが出ています。闇に紛れて行動するには、うってつけでしょう?」
「昼間とか人の多い所では目立って仕様が無いでしょうけどね…」
ジュリア姉様の指摘にギクッとする2人。
おいおい、説明しただろが…
「勿論、日中や街中では普通の格好をしますよ? この姿は日が沈んでから目立たない様に行動する時の衣装です♪」
「「あ…」」
「覚えてなかったんですか? 何度も説明した筈ですけどねぇ…」
2人の忍(仮)は、しゃがみ込んで床に『の』の字を書いて反省していた。
をいをい…
この2人、隠密のしての能力は申し分無いんだけど、ちょっとヌケてるんだよなぁ…
人としては好意が持てるんだけど、隠密として肝心な時にヌケた事をされては困るんだけど…
「失礼しました… ジェニファー様の為、王宮内部を備に調べて参りましょう」
「そして、反乱を起こすに都合の良い側が王位を継承する様、世論を扇動して参ります」
言って、2人の忍はフッと姿を消した。
「突然現れたと思ったら、突然居なくなるのね… さすがは隠密ね…」
感心するジュリア姉様。
いや、まだ居るんですけどね…
単に私の隣にしゃがみ込んで、気配を消してるだけですから…
言えんけど…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アンドレア帝国の王都『アドル』を歩く兄妹が居た。
2人は地図を手に辺りをキョロキョロと見回し、何かを探していた。
「で、お兄ちゃん… ジェニファー様が言ってたライザック男爵… 元・男爵の家って何処なの? もう随分と街の中央まで来たみたいだけど…?」
「えっ? もう、そんなに来ちまったのか? おっかしいなぁ… ジェニファー様から渡されたメモには、商業区画と工業区画の間… 青い屋根の一軒家で、扉だけが赤い家って… 無かったよなぁ…」
兄の方がメモを見ながら首を傾げる。
すると、妹の方が一軒の家を指差し…
「あれじゃない? 青い屋根で赤い扉… この辺じゃ、あの家しか無いわよ?」
「あ… あれっ? もしかして、気付かなかったのかな…?」
妹の方が呆れた様に肩を竦める。
「もう… しっかりしてよね? でもまぁ、間違ってるかも知れないから聞いてみよっか?」
そうして尋ねた家は、間違いなくジェニファーに教えられた家だった。
……………………………………………
「なるほど… では、そろそろジェニファー様は行動に移そうと考えてるんですね? それにしても、反乱を起こすのに都合が良い方を次期国王にする為に民を扇動ですか… 相変わらずジェニファー様は豪気ですね♪」
兄妹から話を聞いた若者は、クスクスと笑う。
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕はマニエル・ライザックと言います。ジェニファー様には学園に入学する前から鍛られまして… お陰様で、今ではBランクのハンターに成れましたよ♪ で、お2人は…?」
マニエルに言われて2人も自己紹介する。
「申し遅れました。オレはミハエル・ロッドと言います。こちらは妹のミーナ・ロッドです」
「私はジェニファー様の同級生で、兄は2歳上です。しばらくの間、厄介になります」
マニエルはニコリと微笑み、2人に手を差し出す。
「ジェニファー様の夢、ベルムート王国を再興… いや、新国家を興す為に頑張りましょう!」
その手をミハエルとミーナは固く握り締め、3人揃って力強く頷き合った。
「まずは情報収集ですね。オレとミーナは日が沈むのを待って王宮に忍び込みます。何か掴めたら報告しますので、王都に居るベルムート王国出身の人達を集めておいて下さい」
ミハエルの言葉にマニエルが頷く。
「任せておいて下さい。とりあえずは3日後で如何ですか? 場所は… この家の2階。僕の部屋が良いでしょう」
「了解しました。では、我々は少し街を散策します」
「万が一に備えて、逃走ルートなんかも確認しておかなくちゃですからね♪ 日が沈む前には戻ります♪」
言いつつ出掛けていくミハエルとミーナ。
その後ろ姿を眺めながら、マニエルは不安そうな顔をしていた。
(あの2人… 王都は初めてだよね… 彼等はジェニファー様の所… 辺境から来たワケだけど、大丈夫かな…?)
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「ねぇ、お兄ちゃん…」
「言うな、ミーナ… 言わなくても判ってる…」
街中のベンチに俯いて座り、ミハエルとミーナは力無く言葉を交わす。
「ううん、言わせて! きっと間違い無いわよ!」
ミーナは顔を上げ、悲しげな表情でミハエルに訴えかける。
「だから判ってるんだ! お前の思ってる通り、オレ達は道に迷ってるんだ!」
頭を抱え、周りには聞こえない様に小さく叫ぶミハエル。
「や… やっぱり迷ってるのね…? 少し… ほんの少しでも違うと思いたかったけど…」
「オレも違うと思いたかったけどな… どう考えても迷ってるとしか思えないんだ… 日が落ちて方角も判らないし… 適当な店で晩メシ食って、今夜は野宿かな…?」
野宿の一言に、ミーナがブンブン首を振る。
「王都に来るまでに何回も野宿したけど、それは何も無い街道だから仕方無いわよ!? でも、さすがに王都の街中での野宿なんて考えられないっ! せめて宿屋を探して…」
やはり周りに聞かれるのは恥ずかしいのか、小声で叫ぶミーナ。
それをミハエルは手で制し、懐から皮袋を取り出す。
「いいか、ミーナ… これがジェニファー様から渡された調査資金だ… これにプラスして、オレも多少の金は持って来てる… だがな、何日も王宮に張り込んで調査する前提だから、持ち合わせとしては多くないんだ…」
皮袋の中を見て、ミーナは理解した。
下手に宿屋に泊まろうモノなら資金が足りなくなり、帰りの道中を考えれば調査期間を短くする必要が出てくる。
そんな事になれば調査が不十分になり、肝心な民の扇動に支障を来す可能性が高かった。
それではジェニファーの期待を裏切る事になる。
また、足りない資金で予定通りの調査期間を全うすれば、間違い無く帰りの道中は食事抜きになる。
その事を理解したミーナは、泣きたくなるのを堪えて野宿を承諾した。
すると…
「こんな所に居たんですね? 日が暮れても戻ってこないから、もしやと思って探してたんですよ」
2人が道に迷ってる事を危惧したマニエルが迎えに来てくれると、ミーナは堪え切れずに号泣したのだった。




