第29話 鍛えてもダメな連中には引導を渡しましょう! ~他で役に立って貰います!~
「まだまだですねぇ… 一番良い人でも50周走れないなんて…」
何かと言えば、Fランクのパシり連中が息を上げずに走れる周回数の事である。
連中を鍛え直し始めてから早くも2ヶ月が経過しようとしてるのだが、まるで成長が感じられない…
ちなみにEランク以上──パシり以外──の人達は、私が最低ラインに設定している1周150mのグラウンドを200周走っても息切れしていない。
むしろ、まだ走り足りないって感じで余分に走ったり、互いに剣術や体術の相手を探して稽古を続けている。
そう言う私も、それなりの相手を探して捕まえては上達させるべく稽古をつけている。
その所為か、Eランクの何人かはDランクに昇進する事ができていた。
だが、Fランクのパシり連中は相変わらず昇進できないまま…
もしかしたら、ハンターには向いてないのかな…?
「貴方達、実家は何か商売でもしてるんですか?」
「ジェニファー… それ、何か関係あるの?」
私がパシり連中に質問すると、ジュリア姉様が訝しげに聞いてくる。
「関係ある… かも知れませんよ? パシりの皆さんは全員がハンターギルドに登録してますが、いつまで経ってもFランクから脱却できませんよね? このグラウンドを息切れせずに50周も走れれば、普通ならEランクに上がる最低限の体力は付いてる筈なんです」
私が言うと姉様はパシり連中を見渡し…
「殆どが息切れしまくってるわね… こんなに体力が無いんじゃ、確かにハンターとしてはランクアップなんて無理かも…」
諦めた様な表情で溜め息を吐いたのだった。
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その後の調査で、パシり連中の実家は商店だったり食堂だったり、バトル系とは無縁だった事が判明。
そんな環境で育ち、そこそこの剣術、体術、魔法が使えたら…
そりゃ天狗にもなるか…
となると、伸びた鼻をへし折ってやって正解かな?
あのまま調子に乗って増長してたら、大怪我してたかも知れないからな。
自信を持つのは悪い事ではないが、過信は自らを危険に曝す事になりかねない。
それに、自分1人が危険な目に合うのは自業自得だが、クーデターや国を興す為の仲間を巻き込まないとも限らない。
「じゃあ、どうするの? 商業ギルドとかに転籍させて、そっちで貢献させる?」
「その方が無難だろうな。ジョセフでもジェニファーの言う最低限の体力を付けてるのに、連中ときたら…」
「兄上… 僕を引き合いに出すのは止めて下さいよ… まぁ、言いたい事は理解してますけどね…」
兄様達や姉様は、私の考えを解ってくれている様だった。
それだけパシり連中が戦闘力として不甲斐ないって事なんだけど…
そして、この辺りが分岐点なんだろう事も、私は理解している。
戦力にならない者を戦力にしていては、いざ戦闘となった時にそこから全体が瓦解しかねない。
やる気の無い者、努力しても戦力として使えない者は、切るべき時に切らなければならない。
人の命が懸かっているのだから、躊躇してはいけないのだ。
「ハッキリ言ってあげた方が良いかもですねぇ… 貴方達は新国家を興す戦いには不向きですって… で、親の商売の後を継ぐなりして、経済面で新国家建設に協力して貰いましょう」
「ま、それが無難かもね…?」
だよなぁ…
無能な味方は優秀な敵より恐ろしいって言うし。
ハッキリ引導を渡してやった方が彼等の為だろう。
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「えっ…? 俺達、クビ…?」
「どうしてだよ…!? 頑張ってたじゃん!?」
「理不尽だぁあああああっ!!!!」
非難囂囂…
いや、仕方無いだろ…
いくら頑張っても結果が出ないんじゃあ…
「息切れせずにグラウンドを200周… その程度のノルマを2ヶ月経っても果たせないんじゃ、私達と一緒に戦えませんよ? 剣術、体術、魔法の実力は認めますが、体力が無いんじゃ肝心な時に役に立てないじゃないですか。むしろ足手まとい… 貴方達が私達の弱点になるんですよ? 戦いに負ける原因になって、負けた責任は取れるんですか?」
私の言葉に黙り込むパシり連中。
互いに互いをチラチラ見るが、何を言って良いのか解らない様子。
「ですので、貴方達は商業ギルドとかに転籍して貰います。実家の家業を継ぐなりして、裏方として新国家を支えて下さい。こっちも重要ですよ? 戦いに必要な武器や防具や食料… これが無ければ新国家を興す為の戦い自体が起こせないんですからね? ある意味では、直接戦闘に参加するより重要なんですから!」
そう言うと、途端に目をキラキラと輝かせるパシり連中。
「そ… そうなのか…?」
「縁の下の力持ち的な…?」
縁の下の力持ちって言葉、この世界にも在るんかい…
「それなら、ウチの雑貨屋も役に立てるのかな…?」
「ウチは食堂だから、食料を提供できるぜ!」
「俺の家も八百屋だから、食料は任せて貰えるよな!」
「俺ん家は加治屋だからな! 武器や防具の手入れは任せて貰うぜ!」
口々に言うパシり連中。
チョロいな…
まぁ、裏方としては充分に役立ちそうだな…
今すぐに必要ってワケでもないし、新国家を興す為の戦いが始まるまでに家業を継いでくれていれば問題は無いだろう。
「…で? これでパシり連中は良いとして、新国家を興す戦い… クーデターの予定はどうなってんの? 確か、今の国王が崩御してからとか言ってたわよね? 今の国王には良くして貰ってるからとか何とか…」
そうなんだよなぁ…
アンドレア帝国の国王にはベルムート王国を滅ぼされたけれど、命は助けて貰ったし…
辺境の地とは言え、それなりに大きな家を与えて貰ってるし…
お父様や兄様達が働かなくても生活できるだけの資金も提供してくれてるし…
そこまで優遇してくれてるアンドレア国王に対して、反旗を翻すのは道理に悖ると言うか…
「まぁ、ジェニファーの言う事も理解できるけどね… ここまで至れり尽くせりの生活をさせてくれてる人を相手に反乱を起こしたりしたら、正当性を疑われても仕方無いわよね…」
「それがネックなんですよね… ちなみにですけど、今の国王が崩御したとして… それで直ぐに新国家を興す戦いを起こせるかと言うと、そうでもないんですよねぇ…」
「…どういう事?」
あ、さすがに姉様もそこまでは考えが至らなかったか…
「国王が崩御すれば、基本的に次の国王は長男が継ぎますよね? その新たな国王が同じ様に私達を優遇してくれたら、クーデターを起こす大義名分は失われるんですよ。逆に、攻め滅ぼした国の王侯貴族に対して優遇措置など必要無い! …とか言ってくれたら、何の気兼ねも無しにクーデターを起こせるんですけどねぇ…」
ジュリア姉様は少し考え…
「あぁ、そう言う事ね… それは少々、厄介かもね…」
どうやら理解してくれたみたいだな…
クーデターが成功して新国家を興しても、それが恩を仇で返すみたいな形だとすると…
周囲の国に警戒されたり、国交を結ぶのを躊躇されたり…
躊躇ならまだしも、国交を拒否される可能性は充分に考えられるからなぁ…
そんな事になったら、何の為に新国家を興したか解らなくなってしまう。
いや、まだ興してないけど…
「今からあれこれ考えても仕方無いでしょ。アンドレア国王が崩御してから考えても良いんじゃないの?」
私の隣でパシり連中の様子を見ていたジュリア姉様が言う。
だよなぁ…
確かアンドレア国王は80近い老人って事だから、そう遠くない未来に行動を起こす事になるな…
勿論、新たなアンドレア国王が私達みたいな立場の者を、ぞんざいに扱ったらって前提だけど…
逆に、次期国王が現国王を見習って私達みたいな立場の者を丁寧に扱ったら…
クーデターの計画は頓挫…
とまでは行かないかも知れないけど、見直す必要は出てくるな…
そう思っていた矢先、私達にとって微妙な報告が届いたのだった。




