第28話 パシり連中を鍛え上げましょう!
やる気の無いパシりの連中には、とりあえず発破を掛けておく。
「貴方達、このままじゃ死ぬまでパシりですよ? それが嫌なら、少しはランクを上げて下さい! 貴方達より歳下の方が上位ランクなんて、恥ずかしくないんですか!?」
私に言われてパシり連中は俯く。
だったら少しは努力しろよ。
「…俺達とジェニファーじゃ、実力が違い過ぎるじゃねぇか…」
「そりゃそうでしょ。4歳の頃から、学園の一年生で課せられる基礎練習を超える練習量をこなしてるんですから。貴方達、普段のトレーニングをサボってるでしょ? 基礎をしっかりやらないから、実力が付かないんですよ?」
技術を身に付ける前に体幹を鍛え、最低限の体力を付ける。
そこからがスタートなのだ。
必要最低限の体力と筋力を付けてから、技術を覚えて身に付ける。
体力も筋力も無ければ、技術を覚えても使いこなせない。
「わかったよ… 皆、走るぞ。まずはグラウンドを50周だ」
「私の下に付いたからには、最低ラインは100周です♪ この学園のグラウンドなら、200周走っても息切れしなくなるのが目標ですね♪」
「「「「お前は悪魔かぁっ!」」」」
「人聞きの悪い事を言わないで下さいよ… 私だって、不可能な事は言いませんよ? 私にも出来るから言ってるんです。私、このグラウンドなら500周は軽いですね♪」
「「「「お前は化け物かぁっ!」」」」
励ましたつもりが、パシり連中にはかなりの不評だった。
解せぬ…
─────────────────
「アンタを基準にしちゃダメでしょ、ジェニファー… 自分が人の領域を超えてるって思ってないんじゃないの?」
ジュリア姉様…
人の領域を超えてるって、ど~ゆ~意味ですかね…?
「何を言ってるのって顔ね? アンタ、自分の体力とか筋力とかって理解してる? たかが10歳の女の子が20㎞以上走っても息切れ一つしないとか、5mの綱登りを10回以上連続でこなして平気だとか… そんなの、どう考えても普通じゃないでしょ?」
放っといてくれ。
最強の剣士を目指してるんだから、その程度は軽くこなせて当然なんだよ。
いや、軽くこなせなきゃ、最強の剣士なんて夢のまた夢だろ。
私の考えでは、今の私の実力ですら最強の剣士を目指す為のスタート地点に立っただけなんだから。
前世でのインターハイ完全優勝…
私は個人・団体共に、有効すら取らせずに全試合一本勝ちだった。
それでも上には上が居ると思っているんだから。
なにしろ世界は広いんだ。
日本国内でトップに立ったと言っても、高校生レベルでの話。
オリンピックや世界大会でメダルを獲得する様な選手と比べたら、私なんて軽くいなされる筈だ。
「私なんて、まだまだですよ。姉様は私を買い被り過ぎです。世界は広いんですから、私より強い人なんて星の数ほど居るでしょう。最強の剣士になる為には、まだまだ努力しなくてはなりません!」
私は拳を握り締めて力説する。
そんな私をジュリア姉様は、これ以上無い程のジト目で見つめていた。
何故だ…?
「謙虚な事だな、ジェニファー。だが、それで丁度良いだろう。自分の実力を過大評価して驕り高ぶり、後に更なる実力者に叩きのめされて沈んでしまう者も多い。ジェニファー、お前は大丈夫そうだな」
お父様が話しながらリビングに入ってくる。
「自分で言うのも変ですけど、私の実力はそこそこだと思ってます。弱くはないけど強くもないって感じですね。まだ私は10歳なんですから、私より強い人が居ないと思う方が変ですよ」
「そうだな、それで良いと思うぞ?」
言ってお父様は私の頭をワシャワシャと撫でる。
「お父様… ジェニファーが体術ではカーマン侯爵に、剣術ではマルグリッド伯爵にすら簡単に勝ってるのにですか? お二人共、ベルムート王国ではかなりの実力派だった筈ですよ? ジェニファーが驕らず謙虚なのは確かに良い事ですけど、逆に実力を過小評価し過ぎではありませんか?」
「んっ? いや、それは…」
ジュリア姉様に言われて、お父様は腕を組んで考え始める。
いや、そこは考えずに言い返してくれませんかね?
それはベルムート王国だけでの話だとか、ベルムート王国を滅ぼしたアンドレア帝国には、更なる実力者が存在してる筈だとか…
「それに、個人の能力が高くても、戦争となれば団体での戦いになりますよね? となると、何千何万の中で数人の能力が高くても、全体の能力が低ければ勝てる筈がありませんよね?」
ジュリア姉様は歯に衣を着せぬ意見を述べる。
辛辣過ぎんだろ…
だが、ジュリア姉様の意見は間違い無く正論。
さすがにお父様も言い返せない。
しかし…
「だからこそ、一緒に戦う人達の実力を底上げしてるんですよ。私自身が謙虚になれば、やる気の無いパシり連中も少しは実力を向上させようと思うでしょ? 勿論、それでも実力を向上させようとしない連中は、死ぬまでパシりとして使い潰すだけですけどね♪」
ニッコリ笑って言う私にジュリア姉様は…
「やっぱりアンタ、悪魔だわ…」
と、私をジト目で見ながら溜め息を吐くのだった。
何故だ…?
─────────────────
翌日から、放課後にはパシり連中をシゴく事にした。
まずは体力強化として、グラウンドを200周走らせる。
「ホラホラッ! 50周程度で息を切らしてちゃダメでしょ!? そこっ! ダラダラ走らない! この剣で尻を突ついてあげましょうか!?」
私は特別仕様で作って貰った剣を振り回し、後ろを走りながらダラけた連中に発破を掛ける。
ちなみに私の剣は日本刀を模して作った物で、伝説の蜻蛉切り──古今無双の名槍──にも負けない切れ味の刀である。
刃を上にして、そこに紙を落とせば簡単に切れてしまう。
普通の刀なら、落とした紙が切れる事はない。
そんな刀で尻を突っつかれたら…
私が後ろから刀を振り回しながら追い掛けると、パシり連中は全員が青褪めて真面目に走り始めた。
「ジェニファー… アンタ、やっぱり悪魔じゃない…」
私の後ろを軽々と走りながら呟くジュリア姉様。
「何を言ってるんですか!? 1周150mのグラウンドを50周程度で息を切らす方が悪いんです! 200周は軽く走れないと、必要な体力が付いたとは言えません! 姉様だって私に付き合ってトレーニングしてたから、息切れせずに走れてるんじゃありませんか?」
「そりゃ、そうだけどさ…」
事実、姉様は息も乱れず私と話す余裕もあるのに、パシり連中は顎が上がって足を引き摺る様に走っている。
誰かと話す余裕など無く、目も虚ろだ。
10㎞も走ってないのに情けない…
「ホラホラ! そんなペースじゃ200周走る前に日が暮れますよ! この剣で尻を突っつくってのがただの脅しだと思ってたら、本当に突っつきますよ!」
言って私は少しペースを上げ、最後尾を走るヤツの尻をマジで突っつく。
勿論、ブスッと刺すワケは無く、チクッと刺すだけだ。
それでも効果はバツグン♪
次々と最後尾はダッシュし、私から逃げようと必死になって走り出した。
そのお陰で、なんとか日が沈む前に200周を走り終えたのだった。
もっとも、走り終えたパシり連中は全員が体力を使い果たしており、家路に向かう姿はゾンビの様だった。
そして翌日は全員が下半身の筋肉痛で動けず、学園を休みやがった。
「こんな事になるなんて… もっと厳しく鍛え直さないといけませんね…」
「ジェニファー… アンタ、悪魔でも逃げ出すわよ…」
私は魔王かよ…




