第27話 新国家建設への第一歩は踏み出せたんでしょうか?
ランディさんとレイチェルさんが帰って数日後、二人から無事にハンターギルドに登録できたとの手紙が届いた。
「お二人共、合格なさったんですね? 他の皆さんからの手紙はまだの様ですが、全員が登録できると良いですね♪」
「まぁ、手紙を送ったのが二人を見送った後ですからね。場所に依ってはまだ手紙が届いていないでしょうし、全員からの返事はもう少し先でしょうね」
シンシアさんに柔軟運動を手伝って貰いながら、私は全員の合格を祈った。
学園に入る前から王宮の中庭で一緒に鍛練してたから、まず間違いなく全員が合格するとは思うけどな。
問題があるとすれば、今の学園の生徒達だ。
10歳からハンター登録可能と言う事は、10歳の身体能力や知識でもハンターに成れる事を意味するが…
それは飽くまでも登録が可能なだけに過ぎない。
最低ランクのFランクでは、魔獣や魔物は勿論ハンティングできない。
野生動物でも、単独でのハンティングは禁止されている。
当然だが、襲われた場合の反撃は話が別。
単独で野生動物のハンティングが許可されるのはEランクから。
勿論、危険な肉食獣は許可されない。
魔獣や魔物を単独でハンティングする許可が下りるのはDランクからだが、相手の種類や数で制限が加わる。
例えばゴブリンなら単独でハンティング許可が下りるのは1匹だけで、コボルトなら5匹まで。
ホブゴブリンだと、1匹に対して5人以上のパーティーじゃないと許可されない等だ。
私のBランクだと、ホブゴブリンでも3匹までなら単独でハンティング許可が下りる。
ちなみにAランクだと、単独でもホブゴブリンやオークぐらいなら数に制限は無い。
さすがにオーガは3匹までに制限されるが…
更に上のランクのSランクなら、その制限も無くなる。
勿論ドラゴンが相手となると、さすがのSランクでも単独でのハンティングは許可が下りないけど。
「では、ジェニファー様はSランクを目指してらっしゃるんですね?」
「正確にはSSSランクですけどね♪」
「SSSランク?」
SSSランクと聞いて、首を傾げるシンシアさん。
「SSSランクってヤツですね♪ Sランクより上のSSランクの更に上って事ですよ♪」
気の所為か、なんだかシンシアさんの頭上に大量の???マークが見える気がするんだけど…
「えぇとですね…」
私はシンシアさんにSSSランクの説明をする。
前例が無いので大部分は推測での説明になったけど…
いや、一応は前例があるらしいんだけどね。
千数百年前に存在したと言われる勇者がSSSランクだと言われてるらしいんだよ…
あまりにも古い話なんで記録も正確とは言い難いし、話が盛られてる可能性も否定できない。
けど、現代でSSSランクに認定されたら…
簡単な道のりではないだろうが、目指すだけの価値はある!
「なるほど… ジェニファー様は、現代で伝説の勇者を目指すと言う事ですね? ならば私も、その夢を現実のモノにするべく協力いたします!」
そうしてシンシアさんが張り切って私の柔軟運動を手伝った結果…
私は数ヶ所の筋断裂──部分断裂──を起こし、しばらく松葉杖の世話になったのだった。
張り切り過ぎだよ…
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「うん♪ これで元・ベルムート王国の子女の皆さんは、全員ハンター登録が完了しましたね♪」
最後に届いた一番遠い地域からの手紙を読み終え、それをシンシアさんに手渡す。
シンシアさんは手紙を文箱に仕舞い、安堵の表情を浮かべている。
「新学期が始まって1ヶ月… ジェニファー様の筋断裂も治りましたし、これで新国家を興す第一歩が踏み出せたんですね♪」
「まだ、ほんの一歩ですけどね。次は各学園の生徒達のハンター登録です。問題は上位ランクのハンターに合格できる生徒が何割居るかですが…」
「それって結構、難しいんじゃないかしら? ランディやレイチェルでもCランクなんでしょ? その下の連中の実力なんて、たかが知れてるんじゃない?」
何故か私の部屋で寛いでいるジュリア姉様が、辛辣な一言を放つ。
「それは想定の範囲ですよ。でも、中には才能のある人も居るでしょう? 努力して上位ランクに合格する人も居るでしょうし… 希望的観測かも知れませんけど、少しは期待したいじゃないですか♪」
「まぁ… そうかもね… それより、こっちの学園はどうなの? 生徒達にハンター登録、促したんでしょ?」
それなんだけど…
「意外と言うか、何と言うか… パシりの連中以外は3分の1がDランク、3分の2はEランクに合格しましたよ…」
「…パシりの連中は?」
「口だけだったのか、やる気が無かったのか… パシりは全員Fランクでしたね…」
ジュリア姉様は勿論、シンシアさんまでもが大きな溜め息を吐いたのだった。
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気付けば生徒達だけでなく、OBやOGまでもが合宿所建設の為に資金稼ぎを頑張ってくれていた。
勿論、全員がハンター登録している事はなく、冒険者ギルドに登録している者、商業ギルドに登録している者、人それぞれだ。
中にはハンターギルドに追加で登録してくれた人も居る。
そして、それぞれが自分にできる範囲で協力してくれている。
私の住んでる街は、それなりに大きいが辺境であり、住民達はかつてアンドレア帝国に侵略された国の国民がバラバラにされて集まっている。
だからこそ、私の新国家建設に協力してくれていると言える。
「うん、良い感じですね♪ 何処の学園も似たり寄ったりですが、全員が無事にギルドへの登録が完了した様です♪」
「結構、バラけてるわね… ハンターギルドや冒険者ギルドに登録していないのも居るじゃない?」
「それは人それぞれだから仕方無いですよ。ハンターや冒険者に向いてない人を、無理に登録させられませんからね。出来る範囲で頑張ってくれたら良いんですよ♪」
それに、必要なのはハンターや冒険者だけじゃないからな。
国を造るには商人や技術者だって必要なのは当然の事。
ハンターや冒険者しか居ない国なんて、そもそも国じゃないからな。
とにかく、これでやっと第一歩が踏み出せたって感じだな。
まだまだ先は険しいだろうけど、やってやるぞ!
決意を新たにする私を、ジュリア姉様はポテトチップスを頬張りながら見つめていた。
少しは緊張感を持って下さい…




