第23話 胸の悩みは大きくても小さくても…
「ジェニファー様、そろそろ元に戻ってくれよ…」
「そうですわよ… いつまでも落ち込まれていては、鍛練になりませんわ…」
ランディさんとレイチェルさんからクレームが入る。
あれから数日、まだ私は落ち込んでいた。
「俺にハイキックを食らわせた時も見えたけど、全く落ち込まなかったじゃんか。なんで今回はそんなに落ち込んでんだ?」
「あの時は一瞬だったじゃないですか… 今回はマジマジと見られたんですから…」
ランディさんは、腕を組んで考える。
「女がパンツを見られるって、そんなにショックなのか? 俺には解らないけど、レイチェルはどうなんだ?」
「まぁ、恥ずかしいとは思いますけど、ここまで落ち込みませんわね… 成人してたら話は変わるかも知れませんけど…」
私は成人してんだよ!
今は10歳だけど、前世では18歳で死んだから実質28歳なんだよ!
言えんけど!
「そう言えばジェニファー様って、ジュリア様から淑女教育を受けていたそうですね? もしかしたら、それが影響しているのかも…」
「なるほどな… それで羞恥心がレイチェルより強くなったって事か?」
ムッとした表情でランディさんに木剣を突き付けるレイチェルさん。
「ちょっと… 私に羞恥心が無い様な言い方は止めてくださる?」
「そう言う意味じゃ無ぇって! ジュリア様の教育で、レイチェルよりジェニファー様の方が羞恥心が強くなったのかなって意味だよ!」
レイチェルさんはランディさんから木剣を外し、自分の肩をトントンと叩きながら私を見る。
「まぁ、考えられない事もありませんわね… それでも…」
「あぁ、そろそろ立ち直って貰わないとなぁ…」
簡単に言うなよ…
10歳のガキがパンツ見られるのと、28歳の大人がパンツ見られるのとじゃ、精神的なダメージが違うんだよ…
「しょうが無ぇなぁ… じゃあ、俺もパンツ一枚で鍛練するから、レイチェルもパンツ一枚で鍛練しろよ。そうすれば一蓮托生って感じでジェニファー様も気を取り直すだろ♪」
私とレイチェルさんは、無言でランディさんを木剣で散々にボコり倒したのだった。
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「いくら何でも、やり過ぎだろ…」
シンシアさん達メイド勢に、湿布を全身に貼って貰いながらブーたれるランディさん。
「バカな事を言うからですよ」
「そうですわよ… その程度で済んで、むしろラッキーだったと思ってくださる?」
レイチェルさんの怒りは解る。
パンツ一枚でと言う事は、レイチェルさんの10歳とは思えない豊満な胸を曝け出すという事だ。
ペチャパイと言って差し支えない私でも、胸を曝け出して鍛練しろと言われたらキレるだろう。
自分で自分の胸をペチャパイと言うのも悲しくなるが…
とにかく、言ったヤツはボコり決定だ。
ボコったけど…
「ジェニファーって、4歳頃から筋トレしてたわよねぇ…? もしかして筋肉の付け過ぎなんじゃない? 女性の胸って脂肪でしょ? 筋肉を付けると脂肪が付き難くなるって言うし… 筋肉量に反比例して脂肪が減って、その所為でペチャパイなのかもね?」
冷静に失礼極まりない──私にとって──発言をするジュリア姉様。
「でもジュリア様、私も筋トレは行ってますわ? なので、筋肉量とジェニファー様のペチャ… とは関係無いのでは?」
「胸の筋肉… 大胸筋だっけ? その付き具合が違うのかもね? ジェニファーの胸の筋肉と、レイチェルの胸の筋肉を触って比べてみなさいな? 多分だけど、発達具合がまるで違うと思うわよ?」
姉様に言われたレイチェルさんは、自分の胸を触って筋肉の具合を確かめる。
「……………フム…………」
何かに納得した様なレイチェルさん。
そして、おもむろに私の胸を触ってグニグニと指を動かす。
「こ… これは…!」
「レ… レイチェルさん…!? ちょっ… 止めっ… んにょわぁああああああっ!!!!」
ランディさんはサッと顔を逸らして見ないフリ。
目だけ動かして見てんだろ…
シンシアさん達メイド勢は、いそいそとお茶の準備をし始めた。
ジュリア姉様はニヤニヤしながら私達の様子を眺めている。
絶対ワザとだろ!
ワザとレイチェルさんが私の胸を揉む様に仕向けただろ!
しばらく私の胸を触ったレイチェルさんは、納得した様に頷く。
「確かにジュリア様の仰る通りでしたわ。ジェニファー様の筋肉の付き方は、私の筋肉とは別物でした… これでは私の胸が大きく育ってしまうのも仕方ありませんわね…」
嫌味か!?
嫌味なのか!?
「女性としては嬉しい事なんでしょうけど、剣士としては邪魔だと思ってたんです… 私もジェニファー様を見習って、もっと大胸筋を鍛えなければいけませんね!」
嫌味ぢゃなかったんかいっ!
マジで悩んでたんかいっ!
私にとっちゃ、ペチャパイは前世からの悩みだったんだぞっ!
言いたくないけど!
言っちゃってるけど!
なら、大胸筋を落とせば胸が育つのか?
いやいや、それをすると剣士としての成長が阻害されるかも!
最強の剣士に成る為、豊満な胸を諦めるのか!?
それとも豊満な胸の為、最強の剣士に成るのを諦めるのか!?
私にとって、究極の二択ぢゃねぇかぁああああああっ!!!!
「ジェニファー様、何を頭抱えて悩んでんだ?」
「悩むのは構いませんけど、そんなに胸をジロジロ見ないでくださいません?」
両腕で胸を抱える様にして私の視線から身体を背けるレイチェルさん。
「ジェニファー… あんた、目が獲物を狙う獣みたいになってるわよ?」
「えっ!? 私、そんな目になってました?」
「「「しっかりと」」」
三人がジト目で声をハモらせた。
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「…ですので、私も気付いたら大きくなっていましたの。特別な事なんて、何もしてませんわね」
私達は鍛練を終え、お風呂で汗を流している。
そこでレイチェルさんに胸の成長について質問したのだが…
「そうなんですね…? それにしても… 身長もですけど、ほんの二ヶ月程の間に10㎝も差が付いてましたからね… あの時は気付いてませんでしたけど、その時点で既に胸は…?」
レイチェルさんはコクリと頷き…
「…ジェニファー様が想像してる通りですわ。もう剣が振り辛くて… 幅の広い布を巻いて潰してたんですが、それだと今度は息苦しいですし… 剣士を目指してる者としては、苦労するんですのよ?」
そ… そうなのか…?
前世からペチャパイに悩んでた者としては、羨ましいとしか思えなかったんだけど…
「こんな事を言って良いのかどうか… むしろ私としては、ジェニファー様が羨ましいんですの。剣士を目指す者としては、この胸が邪魔で邪魔で…」
言いつつムニュッと自分の胸を持ち上げるレイチェルさん。
「逆に私は胸が無さ過ぎるんですよっ! せめて半分… 三分の一でも良いから私に寄越せぇえええええっ!!!!」
言って私はグワシッとレイチェルさんの胸を鷲掴みにし、モニュッ♡ モニュッ♡ と揉みまくる。
「ちょっ… ジェニファー様っ! そんなに揉まれたら感じ… じゃなくてっ! 分けたくても分けられませんから止めてくださいませっ!」
そう言って慌てて浴室から出て行ったレイチェルさんは、シンシアさんの部屋に逃げ込んで朝まで出て来なかったのだった。
良いじゃん、減るモンでも無いんだから…




