第21話 私が楽しみにしてた時間は無駄になりました…
お父様の微妙な料理を食べた後、私達は食堂に残って会議を始めた。
まぁ、会議なんて大袈裟なモンでもないけど…
単に私がジュリア姉様に話した、ランディさんとレイチェルさんの部屋について二人に確認するだけだ。
「俺はジェニファー様の案で良いぜ? さすがに陛下や殿下と同室じゃ、緊張して眠れそうにないならなぁ…」
ランディさんの言葉に、お父様と兄様達は顔を見合せ…
「いや、ランドルフ君… 私はもう、陛下と呼ばれる立場ではないのだが…」
「僕達もだよ。もう殿下って呼ばれる立場じゃないんだけどなぁ…」
「ですよねぇ…」
言われてランディさんは、苦笑しつつ頬を掻き…
「いや、自分にとっては陛下であり殿下ですから…」
ランディさんが言うと、三人は肩を竦めて苦笑したのだった。
レイチェルさんはと言うと…
「…私もですわ。こんな事を言っては失礼とは思いますけど… ジェニファー様以外の方とは、同室で一緒に寝る程に親しいとは言えませんもの… それに…」
そう言ってレイチェルさんは、私をチラッと見ながら…
「ジェニファー様の柔軟運動に興味がありますから、是非とも同室になって見学したいですわ♪」
そう言えば、ジュリア姉様とシンシアさんしか見た事なかったっけ。
「じゃあ、一緒にやってみますか? 最初は少しキツいと思いますけど♪」
「一応、見てから判断しますわ…」
「少し… ですかね…?」
とりあえずシンシアさんの突っ込みは置いといて、まずはお風呂で身体を温めてからだな♪
「と言うワケで、一緒にお風呂に入りましょう♡」
「な… 何がと言うワケでですのっ!? ちょっ… ジェニファー様っ!?」
目を点にして呆然とする一同を尻目に、私はレイチェルさんをお風呂へと押していった。
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「もうっ… 相変わらず強引なんですから…」
「まぁまぁ♪ 夏期休暇の間、毎日一緒に入る事になるんですから♪」
「ま… 毎日って… って、確かに広いお風呂ですけど…」
最終的に、大人数になると判ってたのかな?
アンドレア帝国から提供された家の浴室は、やたら広かった。
辺境の地だからか、家も大きい。
将来的にクーデターを起こして新しい国を建てるつもりだが、ここまで至れり尽くせりだと、少し躊躇してしまうな…
「ジェニファー様? 何か考え事ですの?」
「ふぇっ!? いや、大きなお風呂付きの大きな家を貰ったり、アンドレア帝国の国王には至れり尽くせりして貰ってるから、クーデターを起こして国を建てるのは国王が崩御してからにしようかな~とかって… いやいや、何を言ってるんですかね、私は!?」
「…何を考えてるんですか…」
呆れた様にジト目で私を見るレイチェルさん。
「まぁまぁ、そんな事よりお互いの背中でも流しましょう♪ 裸同士の付き合いで、親睦を深めなければってヤツですね♪」
「これ以上、どう親睦を深めるおつもりですの…? まぁ、折角ですし、まずは私がジェニファー様の背中を流しましょうか♪」
何だかんだ言いつつも、楽しそうなレイチェルさん。
私はレイチェルさんに背中を向け、椅子に腰掛ける。
泡立てたタオルで私の背中を洗うレイチェルさん。
しばらくすると、その手が止まる。
「どうしました?」
「いえ… こうして見るとジェニファー様の背中って、しっかり筋肉が付いているのに柔らかいんだな~と思いまして…」
「あぁ… それは多分、自重トレーニングを中心にしてるからでしょうね♪」
「じじゅうトレーニング?」
ウエイト・トレーニングで高負荷を掛ければ、ガッシリした筋肉が付き易い。
その反面、柔軟性の少ないガチガチの筋肉になり易い。
一概には言い切れないが、剣術だけを考えれば固い筋肉でも構わないだろう。
しかし、体術=格闘術を考えた場合は思わぬ怪我の原因にもなりかねない。
その為にも、ウエイト・トレーニングより自重トレーニングで自然な筋肉を付ける事が肝要なのだ。
「それでは、私の筋肉の付け方は間違いなんですのね? 私、ウエイト・トレーニングが中心ですから…」
「まだ若いんですから、今からでも柔らかい筋肉を付ける事はできますよ♪ さぁ、今度は私がレイチェルさんの背中を流す番ですから、背中を向けて下さい♪」
言って振り返る私の目に、とても同い年(10歳)とは思えない双丘が飛び込んでくる。
マジか…
シンシアさんは私より5歳上だから、当然の様に納得できる。
ジュリア姉様は私より4歳上だから、やはり納得できる。
しかし、同い年のレイチェルさんに関しては…
いつの間にか身長では10㎝程の差が付いてるし…
身長はともかく、この胸の差は何なんだ!?
いや、前世も豊満とは言えなかったけど!
むにゅうっ♡
「ちょっ! ジェニファー様!?」
しかも柔らかさを保ちつつ、程好い弾力を持ってるとは!
しかも、吸い付く様な肌触り!
う… 羨ましいっ!
もにゅ♡ もにゅ♡ と胸を揉み拉く私の腕を、レイチェルさんは真っ赤になってガシッと掴み…
「いつまで胸を揉んでますのっ!? そんなに揉まれたら感じ… じゃなくて! 早く背中を流して下さいませ!」
今、何か10歳とは思えないセリフを聞いた気がしたんだけど…
うん、気の所為って事にしておこう。
私は気を取り直してレイチェルさんの背中を流し、少しばかり気まずい雰囲気のまま入浴を済ませたのだった。
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「シンシアさんが手伝うんですの?」
「えぇ♪ 一人でも大丈夫なんですけど、手伝って貰った方がやり易い柔軟運動もありますからね」
まずは簡単な動き。
前世のラジオ体操みたいな動きで身体を解していく。
「それは結構、簡単そうですわね♪」
「えぇ♪ いきなりキツい柔軟は、反って身体を壊しかねませんから♪ 本格的な柔軟運動の前の、準備段階ってトコですね♪」
準備運動を終えた私はシンシアさんに両手を持って貰い、ゆっくりと左右へ脚を広げる。
やがてお尻が床に着き、180度開脚の形になる。
「なるほど… 手を持って貰って、勢いが付き過ぎない様にするんですのね?」
更に私の背後に回ったシンシアさんが、私の胸が床に付く様に背中を押す。
「確かに… それを一人で行うのは難しいかも知れませんわね…」
私が身体を起こして上半身を左右に向けると、胸が脚に付く様にシンシアさんが押す。
「う~ん…」
膝立ちになった私は、ゆっくりと上半身を後ろに反らす。
シンシアさんは顎に手を添え、私の頭が足の指先に付く様に押していく。
「…………………」
その後も様々な柔軟運動をこなして1時間程が経ち、スッキリした表情の私にレイチェルさんは呆れ顔。
「入浴した意味、あるんですの…?」
いや、汗一つ掻いてませんけど…?
ちなみに、いつの間にか見学に来ていたランディさんも、レイチェルさんと共に私をジト目で見ていたのだった。
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ランディさんは自分の部屋──執事のアランさんと同室──へと戻り、私とレイチェルさんは寝る準備を始める。
準備と言っても、レイチェルさんは最初からパジャマだけど。
単に私が運動着からパジャマに着替えるだけだ。
「それではジェニファー様、レイチェル様、お休みなさいませ」
一礼してシンシアさんが部屋から出ていく。
私達はベッドに入り、明かりを消す。
「消灯!」
仄かな月明かりが射し込む中、いよいよガールズ・トークの開幕だ♡
いや、二人しか居ないけど…
この10年… いや、前世を含めれば28年。
常に独り寝──幼少期は別にして──だったからなぁ…
前世の修学旅行なんかでは、先生が見回りに来た時は寝たフリして、遅くまで色んな会話を楽しんだっけ♪
「レイチェルさんの住んでる所って、どんな街なんですか? 学園についても聞きたいですし、今夜は簡単には寝かせませんよ♪」
私は隣で寝ているレイチェルさんに話し掛ける。
「……………」
「…レイチェルさん…?」
返事が無いので彼女の方を向くと…
「えっ!?」
早くも寝息を立て、スヤスヤと気持ち良さそうに眠るレイチェルさん。
早過ぎるだろ!
ベッドに入ってから1分も経ってないぞ!?
どうしようも無くなった私は、仕方無く眠る事にした。
フテ寝とも言う。
明日、絶対にクレームつけてやるからな!
私が楽しみにしてた時間を返せぇえええええっ!!!!




