第20話 レイチェルさんランディさんの来訪と、ようやく揃った家族の団欒は微妙な料理と共に
辺境の学園に入学してから早くも三ヶ月が過ぎ、間も無く学園は長期の夏期休暇に入る。
この休暇を使い、レイチェルさんやランディさんが会いに来るとの手紙が届いた。
休暇期間ギリギリまで滞在する予定なので、久し振りに鍛練を一緒にしたり、手合わせしたいとの事。
願ってもない事なので、即座に了承の手紙を送った。
「で? 二人は何処に滞在するワケ? まさかと思うけど、この家に滞在するのかしら? それは無理だと思うわよ?」
ジュリア姉様が冷めた口調で言う。
「無理って… どうしてですか? 部屋は余ってますけど…?」
「確かに部屋は余ってるけど、もうすぐお父様やお兄様達が幽閉を解かれて此処に来るのよ? そうしたら、部屋は埋まってしまうわね」
え~っと…
「そこそこ大きい家だけど、お父様やお兄様だけじゃなくて、お付きのメイド達も来るんだからね? メイド達の部屋を考えたら、全部の部屋は埋まるわよ?」
う~ん…
その場合、レイチェルさんは私の部屋に泊まって貰えば良いとして…
ランディさんは執事さんの部屋に泊まって貰うかな?
さすがに兄様と同部屋は緊張するだろうしな…
「まぁ、それが無難かもね? この街にも宿屋は在るけど、辺境だから元・貴族には満足できる質じゃないモンねぇ…」
なんで知ってんだよ、そんな事…
別に良いけど…
ともかく私は夏期休暇まで二人に負けない様、鍛練に励む事にした。
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7月15日、待ちに待った夏期休暇に入った。
もうすぐお父様や兄様達の幽閉が解かれて一緒に住める。
それと同時期に、レイチェルさんやランディさんが来る事になっていてる。
どちらが先に来るかは判らないが、楽しみで仕方無い♪
私は朝からジッとしてられず、庭の木に吊るした棒を使った鍛練で汗を流す。
「ジッとしてられないからって鍛練ねぇ…」
呆れた様に言うジュリア姉様。
「私が『まだかな、まだかな~♪』 …なんて言いながら待ってる様な性格じゃないのは、姉様なら解ってるでしょう? それに、動いていた方が時間が早く経ちますからね♪」
「そう感じるだけで、時間が早く過ぎるワケじゃないけどね…」
身も蓋もない言い方だな…
言ってる事に間違いは無いけど…
「それは解ってますよ、気分の問題だってのは。楽しい事をしてる時は時間が早く感じられ、つまらない事をしてる時は時間が遅く感じられるって。だから私は楽しい事をして、時間が早く過ぎる様に感じたいんです♪」
「鍛練が楽しいって感じるの、ジェニファーぐらいのモンじゃないかしらねぇ…?」
「それは言えてますわね…」
「あぁ、ジュリア様の言う通りだな…」
背後からの声に振り向くと、いつの間に来たのかレイチェルさんとランディさんが呆れ顔で立っていた。
「レイチェルさん! ランディさん! いつの間に来たんですか!?」
私の問いに二人は顔を見合わせ…
「普通に歩いて来ましたわよ?」
「だよなぁ… 鍛練とジュリア様との会話で気付いてなかったみたいだぜ? ジェニファー様、この数ヶ月で鈍くなったんじゃねぇか? 以前、父上と一緒に初めて出会った時は、物陰に隠れてた俺に気付いたのにさ」
あぁ… そんな事もあったっけ。
でも…
「あの時は僅かですけど殺気を感じましたからね。今は殺気なんて出してなかったでしょう?」
レイチェルさんは、ランディさんをジト目で見つめ…
「ランディ… 貴方、殺気なんて出してましたの?」
「いや… 殺気と言うより敵意かな…? 王女様が父上に体術を教わりたいなんて、物好きの戯れだと思ってたから… レイチェルは思わなかったのか?」
ランディさんに言われ、レイチェルさんは少し考える。
出会った当時の事を思い出してる様だ。
「私は… お父様から予めジェニファー様の事を聞いてましたから、そんな事は思いませんでしたね… まぁ、お父様も国王陛下から聞いた話でしたから、又聞きになりますけど…」
気になる…
お父様が私の事をマルグリッド伯爵に何て言ったのか…
「それに、私がジェニファー様の事を聞いたのは、お父様がジェニファー様に剣術を指南する様になって二年経ってからですわね。私の考えでは、お父様はジェニファー様に私を会わせて良いかを二年掛けて判断したんでしょう…」
それは慎重過ぎるだろ…
「…と、ジェニファー様に会うまで思ってました」
「…どういう事だ?」
同感。
「ジェニファー様に会って、確信が持てました。お父様は、私の実力がジェニファー様の足元にも及んでいないと判断したんでしょうね。お父様がジェニファー様の指南を始めた頃から、私の鍛練が厳しさを増しましたから。少しでも私の実力を向上させてから会わせようと思ったんでしょう。それでも実力の差は歴然としてましたけど…」
……………
「俺は父上が初めて会う日に同行したけどな。剣術では及ばなくても、体術なら大丈夫と思ったのかもよ? 事実、父上もジェニファー様の身体能力に驚いてたし」
私はマルグリッド伯爵やカーマン侯爵から、どう思われてたんだ…
「ところでさ… こんな所で立ち話も何だし、そろそろ家に入らない? 積もる話もあるだろうけど、落ち着いてリビングで話しなさいよ」
「そ… それもそうですね…」
ジュリア姉様に促され、私達は家に入る。
「やっと入ってきたか? 久し振りだな、ジェニファー♪」
「まったく… 話に夢中で、僕達が帰ってきたのに気付かないのはジェニファーらしいよな♪」
いつの間に帰っていたのか、ジャック兄様とジョセフ兄様がリビングで寛いでいた。
「ジャック兄様! ジョセフ兄様! いつの間に!?」
「ジェニファーが二人と話してる時にソッとね♪」
「邪魔しちゃ悪いと思ってさ♪」
私がジュリア姉様の方を向くと、姉様は呆れた表情で私を見ていた。
「気付いたから、家に入る様に言ったのよ♪ 勿論、レイチェルやランディには見えてたでしょうけどね♪ 気付いてなかったのはジェニファーだけ。まぁ、貴女は二人との話に夢中だったから仕方無いけどね」
私がレイチェルさんとランディさんの方を見ると、二人は気まずそうにしている。
「いや、まぁ… 言おうかどうか迷ったんだけど…」
「ねぇ… ジェニファー様、凄く嬉しそうでしたから…」
「言うに言えなかった… ってトコかしら?」
一人だけ冷静なジュリア姉様…
いや、それより…
「お父様は!? 兄様達が居るって事は、お父様も居るんでしょっ!?」
「私なら、先程からジェーンとキッチンに居るぞ? 今日は私の手料理を振る舞ってやろうと思ってな♪ これでも料理は得意なのだよ。楽しみにしてなさい♪」
お父様が料理!?
得意!?
初耳だぞ!?
大丈夫なのか!?
「へ… 陛下の手料理!? 俺達が食べても良いのか!?」
「そ… そんな、畏れ多い…」
萎縮するレイチェルさんとランディさん。
「おいおい… もう私は国王でも何でもないのだ。だから遠慮する事は無い。二人はマルグリッド伯爵の令嬢とカーマン侯爵の令息だな? 夏期休暇は此方で過ごすのかな?」
「ハ… ハイッ! その予定で御座いますわ!」
「俺… いや、私も同じに御座います!」
ビシッと直立不動の二人。
ガチガチだな…
「お父様… マルグリッド氏もカーマン氏も、私達と同じく平民に落とされてますよ? お二人も、お互い平民なんだから緊張なんて… って、無理っぽいわね…」
うん、レイチェルさんもランディさんも失神寸前だからな…
無理もない。
元とは言え、国王陛下に初めて謁見(?)したのだ。
緊張するなと言う方が無理だろう。
その後、何とか緊張が解けた二人を交えて食べたお父様の手料理は…
凄え微妙だった…




