第19話 ジュリア姉様、私が悪魔より酷いなんて言わないで下さい…
私の傘下に多くの学生達が入った事で、学園内に居た挑戦者達は鳴りを潜めた。
束の間の平和を満喫していたのだが…
十数日もすると、挑戦者が現れた。
しかも学園内ではなく、外部から現れた。
つまりはOBやOGである。
成人──この世界での成人年齢は15歳──しておきながら、何を考えてんだか…
王侯貴族と平民では考え方が違うんだろうけど、それでも学校を卒業して15歳になれば成人なのは変わらない。
その成人にもなって、学生──未成年──である私に挑戦って…
「いい歳して、恥ずかしくないんですか…?」
「う… うるせぇっ! 余計なお世話だ!」
ジト目で言い放つ私にOBの一人は顔を真っ赤にして叫ぶ。
気にしてはいるのか…
「とにかく! 俺は俺の舎弟を一方的にボコッてくれたお礼参りに来ただけだ!」
「一方的とは人聞きの悪い… 挑戦されたから返り討ちにしただけですよ? それに、先制攻撃のチャンスも与えましたし…」
私の後ろに控えている、私に忠誠を誓った生徒達がウンウンと頷く。
すると…
「おい… 聞いた話と違うじゃねぇか…?」
私にお礼参りに来たOB達は後ろを振り返ると、かつて私が返り討ちにした連中を睨み付ける。
成る程…
OBやOGを使って私に仕返しをしようと、話をでっち上げたな?
「いや… その…」
私が返り討ちにした連中は、OBに睨まれ言い澱む。
すぐにバレる嘘を吐くからだよ…
「いきなり後ろから襲われて、一方的にボコられたんじゃなかったのか? お前等、ハッキリそう言ったよなぁ…? どういう事だ…?」
お~、怒ってる怒ってる♪
私を囲もうとしていたOBやOG達は、いつの間にか私が返り討ちにした連中を囲む形になっていた。
あ~…
こりゃ、袋叩きにされるパターンだな。
私の後ろに控えている全員も、それを期待してニヤニヤしている。
悪趣味だな…
でも…
「ちょっと待って下さい」
私は皆の期待を裏切り、袋叩きに待ったをかける。
「なんで止めるんだよ? お前、こいつらから悪人に仕立て上げられそうになったんだぞ? こんな連中、袋叩きにされて当然だろ?」
「それは解ります。今回、彼等のした事に同情の余地はありません。ですが、彼等は既に私が充分に叩きのめしてます。ですので袋叩きにするよりは、私… と言うか、私達のパシりとして、潰れるまで使い倒すのがよろしいかと…」
「そっちの方が酷ぇ…」
私の素敵な提案に、何故かドン引きのOBやOG達。
気になって振り返ると、私の後ろに控えている全校生徒も同じ様な表情で固まっていた。
解せぬ…
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「そりゃ、ドン引きするに決まってるじゃない…」
家に帰ってジュリア姉様に疑問をぶつけると、当然だろうと言う表情で呆れられた。
「ボコって済ませば、その場限りで終わるけど… ジェニファーの言う方法だと、下手したら死ぬまでパシりじゃない。痛い思いはするけど今日だけ我慢すれば良いのと、痛い思いはしないけど終わりの見えないパシり… どっちがマシだと思ってんの?」
姉様の言いたい事は解る。
一生の内、一瞬で終わるボコりと、いつ終わるとも判らないパシりとしての惨めな思い。
どちらがマシかは考えるまでもないだろう。
「私ならパシりの方がマシだと思いましたけど…? 上手く立ち回れば有能な側近として重宝されますし、美味しい思いができるかも知れませんよ?」
「ジェニファー… あんた、悪徳商人みたいな考え方するのね…」
「悪徳商人って… そうかも知れませんけど、ボコられた時に後遺症が残る様な怪我をする可能性を考えれば、怪我とは無縁──多分──のパシりの方が、自身の才覚次第で成り上がれるだけマシだと思いますよ? 勿論、成り上がれる保証はありませんけど…」
ジュリア姉様の呆れ顔が、疲れた表情に変わる。
「その保証もジェニファーの気分次第なんでしょ…? そんなの、保証とは言わないわよ…」
「それは当然でしょう? 私に敗れて素直に配下になったのならまだしも、OBやOGに嘘を吐いて私を襲わせようとした連中ですよ? 上手く立ち回れば成り上がれると思わせておいて、その実、細かい失態をつついて成り上がらせない。生かさず殺さず、最後まで期待を持たせつつ使い潰すに決まってるじゃありませんか♡」
ジュリア姉様の疲れた表情が、今度は青褪めていく。
「ジェニファー… あんた、悪魔だわ…」
ど~ゆ~意味だ…
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「ジュリア様の仰る事、何となく理解できる様な…」
寝る前のストレッチを手伝いながらシンシアさんが言う。
「そんなに悪魔的でしたかね? まぁ、期待させておきながら、細かい失態を糾弾してパシらせ続けるんだから、そうかも知れませんけど…」
「いえ、その様な発想が出てくる事を指して、悪魔と仰ったのではないかと…」
「仕方ありませんよ。負けを認めず挑戦し続けるだけならともかく、OBやOGに嘘を吐いて私を貶めようとしたんですから。この程度で済んだだけ、マシだと思いますよ?」
「そうでしょうか…?」
シンシアさんは180度開脚した私の背中を押しているので表情は見えないが、何となく訝しげな表情をしているんだと思う。
いつまで続くか判らないパシり生活を強いられる側も、いつかは我慢の限界が来るかも知れないからな。
もっとも、そうなるのは自業自得。
私に負けた時、素直に負けを認めれば良かっただけの事だ。
悪足掻きでOBやOGに嘘を吐いて巻き込み、私を襲わせようとした罰だ。
下っぱとして使って貰えるだけマシだと思って貰いたい。
下っぱにもなれずにハブられたり、帝国と戦う際に使い捨てられるよりはマシだろう。
「それはまぁ… ジェニファー様の仰る通りですが… 少々、同情してしまいますね…」
そう言うシンシアさんの声は、苦笑している様に聞こえた。
同情の余地なんて無いと思うけどな…
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翌朝から、登校した私に挑戦する者は居なくなった。
これで漸く一区切りついたって感じかな?
OBやOGを騙してた連中は、グラウンドの隅っこで小さくなっていた。
私の配下になっている生徒達が睨みを利かせ、私に近付かない様にしてるらしい。
私に近付けるのは、連中が私にパシりとして使われる時だけだ。
ジュリア姉様にも、連中をパシりとして使って良いとは言ってあるのだが…
「ジェニファーが毛嫌いしてる連中を使うなんて、ただのパシりだとしても絶対にイヤ!」
と、完全拒否の姿勢だった。
ウン、気持ちは解る。
私だって、人を貶める為に別の人を騙す連中なんてイヤに決まってる。
あんな連中、信用するに値しないからな。
だから連中の立場は末端の末端。
来年度以降に入学する生徒達にも、アゴで使われる立場に固定する旨を全校生徒──連中を含む──に通達しておいた。
ただ、連中には私を含む全校生徒が了承すれば、一つ上の立場になれる事を伝えておいた。
一つ上の立場とは、辛うじてだがパシりを脱却できる事を意味している。
勿論そう思わせるだけで、パシり脱却なんかさせるつもりは微塵も無いけど。
だからこその私を含む全校生徒の了承を条件にしているのだ。
仮に全校生徒が了承しても、私が了承しなければパシりを脱却出来ない。
当然、毎回の様に私だけが了承しないのは不自然なので、何人かの生徒に連中の落ち度を見付けてパシり脱却を了承しない様に指示してある。
その計画を聞いたジュリア姉様の反応は…
「ジェニファー、あんたの計画… 悪魔でもドン引きするんじゃない…?」
と、凄えジト目で見られたのだった。
解せぬ…




