第1話 悲願達成、事故死、転生、やり直し!
「めぇえええええんっ!」
パシィイイイイイイインッ!!!!
「一本っ! それまで!」
「ぃやったぁああああああっ!!!!」
実家が剣道場を営んでいた事もあり、私は幼少期から剣道を続けていた。
そして偶然にも18歳の誕生日の今日、私は遂に悲願の女子インターハイ三連覇を成し遂げた。
これで個人・団体共に優勝を果たし、しかも個人では相手から有効一つ奪われない完全優勝♪
これまでの人生で最良の日だ♪
表彰式が行われた後、私達は近くの食堂で祝勝会を開いた。
そして帰り道、最良の日は最悪の日になった。
信号を無視したダンプカーに跳ね飛ばされたのだ。
どちくしょう…
──────────────────
「ん… ここは…?」
気が付くと、真っ暗だった。
右を見ても左を見ても何も見えない。
上も下も。
それどころか、立ってるのか寝てるのかさえもハッキリしない。
ダンプカーに跳ねられたのは覚えている。
目を開けているのも確かだ。
なのに、何も見えない。
病院なのかとも思ったが、ベッドに寝かされている感じもしない。
かといって、立ってる感覚も無い。
そして、何の音も聞こえない。
跳ねられた衝撃で植物状態にでもなったんだろうか?
…いや、手足が動く感覚はあるから、それは無いか…?
て事は、考えられる可能性は一つ…
もしかして私、死んじゃった!?
冗談じゃないっ!
人生まだまだこれからだってのにぃ~っ!
こうなったら生まれ変わってやる!
絶対に生まれ変わって、剣の道を極めて、最強剣士になってやるからなぁ~っ!
そう考えた瞬間、眩い光が私を包み…
再び私の意識は途絶えた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「§£∩⊂⊥∅∠≅≒⊿!」
なんだ?
人の声みたいだけど、日本語でも英語でも無い。
フランス語やドイツ語とも違う様だし…
それに、身体も巧く動かせない。
「‡¶Πξ☆฿₹₩℘∂!」
また違う人の声が聞こえる。
私の目は開いてるみたいだけど、ボヤけてハッキリとは見えない。
これって、もしかして…
「ふぎゃぁあああ! ふぎゃぁああああ!」
私の泣き声!?
無意識に泣いてるみたいだけど…
記憶もあるし、間違い無い!
生まれ変わったんだ!
よっしゃぁああああああっ!!!!
やり直してやる!
ここが何処の国だろうと関係無い!
新たな人生で、剣の道を極めてやるぞぉおおおおおおおおおおおっ!!!!
─────────────────
そして私は4歳になった。
新たな生を受けて4年。
意味不明だった言葉も覚え、この国──と言うか世界──の事も理解してきた。
ここはベルムート王国と言う小国で、地球とは別の世界。
つまりは剣と魔法の異世界♪
しかも私は国王の次女にして末っ子に転生していたのだ。
兄が二人で、姉が一人。
12歳のジャックと10歳のジョセフは共に王立の学園に通っており、ジャックは三年生でジョセフは一年生。
8歳のジュリアは就学年齢──学園に通えるのは10歳から──に達しておらず、王妃である母親やメイド達と遊んで毎日を過ごしている。
そして私『ジェニファー』は、毎日を剣と魔法の修行に費やしており…
家族や周囲から苦笑されていた。
そんなある日、いつもの様に城の中庭で剣の練習をしていると…
「ジェニファー、今日も朝から剣の稽古か?」
「毎日、元気だなぁ」
不意に声を掛けられ振り向くと、そこには学園から帰ってきたジャック兄様とジョセフ兄様の姿があった。
「ジャック兄様、ジョセフ兄様♪ いいえ、朝からではありません。昼までは魔法の勉強で、剣の稽古は昼食を食べてからです♪」
二人は顔を見合せ苦笑する。
「よく飽きずに続けられるなぁ… 遊びたいとか思わないのかい?」
「そうだよ。ジュリアみたいに母上や侍女達と遊ばないのかい?」
そんなの時間の無駄…
とまでは言わないけど、最強剣士を目指す私には遊んでるヒマなんて無いのだ。
「遊ぶよりも剣を振ったり、魔法の勉強をしてる方が楽しいです♪ 兄様達も、学園で剣や魔法を勉強されてるんでしょう?」
再び二人は顔を見合せ…
「まぁ、剣も魔法も学年ではトップクラスだけどね。だけど、そろそろ政治や経済も勉強しなくちゃ。次期国王としては、そっちの方が大切だからね」
「僕は兄上を補佐する為の勉強の方が大切かな? 国王や王弟が自ら剣を振るう必要は無いし、魔法も生活魔法が使えれば充分だからね」
まぁ、それはそうかも知れないけど…
そんなので自身を守れるのか?
ジャック兄様は大丈夫そうだけど、ジョセフ兄様は…
「でも、最低限の剣技や体術は必要だと思いますよ? 何か危険が迫った時… 例えば暗殺者に襲われた時、自らを守る技量は持ってないと… 自分を守る者が常に側に居るとは限りませんから」
私は手にした木剣をヒュンヒュン振りながら言う。
「ぶ… 物騒な事を言うんだな、ジェニファー…」
「いつも思うんだけど、とても4歳とは思えない発言だなぁ…」
それは仕方無い。
長いとは言えないが、前世で18年生きた経験が上積みされてるからなぁ…
それを考えると、実質22歳と言えなくもないんだから…
「でも、ジョセフ兄様もジャック兄様ぐらいの実力は持っていた方が良いと思いますよ?」
「私も同感ですな。ジェニファー様の仰る通りだと思いますぞ?」
フルプレート・アーマーに身を包んだ一人の男性が声を掛けつつ歩み寄って来る。
袋に入った剣らしき物を片手に持ち、少々厳つい顔に笑みを浮かべたガッシリした体格の偉丈夫。
もしかして…
「あの… もしかしてマルグリッド伯爵ですか?」
「はい。少々遅れた様で申し訳ありません、ジェニファー殿下。本日より、ジェニファー殿下の剣を指南させて頂きますレナード・フォン・マルグリッドにございます」
国王に剣の指南役を探して欲しいと頼んでたんだけど、まさかベルムート王国随一の実力者が指南役とは…
最高じゃないか♪
「マ… マルグリッド伯爵がジェニファーの指南役に…!?」
「あまりの厳しさに、何人もの豪傑が逃げたって噂を聞いた事が…」
…そうなのか?
でも、私は最強剣士を目指してるんだ。
むしろ望むトコだ。
「はっはっはっ♪ 心配される事はありません。4歳のジェニファー殿下に、そこまで厳しくする事はありませんぞ? 実力次第ではありますがな♪」
実力次第か…
インターハイ三連覇の実力が、ベルムート王国随一の実力者の目にどう写るか…
「丁度良いので、殿下達がジェニファー殿下と手合わせされては如何ですかな? 実は陛下に、殿下達の腕前も見て欲しいと頼まれてましてな」
身長でもリーチでも私が不利だけど、経験の差は歴然だろう。
二人が剣の稽古を始めたのは、共に8歳頃から。
対する私は前世でも4歳から剣道を始めたから、実質的に14年のキャリア。
二人の驚く顔が想像できるな。
「木剣では危険なので、これを使って下さい。縦割りの竹を四つ、一つに纏めた剣です」
言ってマルグリッド伯爵が袋から取り出したのは、前世での竹刀その物だった。
私は、その竹刀を初めて見たフリをして…
「へぇ~… これなら寸止めしなくても大丈夫そうですね♪ より実戦的な稽古ができそうです♪」
「それでも防具は必要です。生身に直接当たれば木剣よりマシとは言え、やはり苦痛を伴いますからな」
それは解る。
前世でも防具の無い場所に当たれば、そこが腫れ上がるなんて日常茶飯事だったからな。
そして私達はライトアーマーを身に付け、実戦稽古を行った。
その結果…
「ジェニファー… お前、本当に4歳か…? そりゃ、僕は剣と真剣に向き合ってはいなかったけど…」
「ジョセフ… お前、いくらなんでも弱過ぎやしないか…? ジェニファー相手に防戦一方だったじゃないか…」
まるで相手にならなかった。
ジャック兄様は多少の反撃を試みた様だが、予備動作が大きくてバレバレ。
ジョセフ兄様とは、まるで大人と子供だった。
「ジェニファー殿下は素晴らしいとしか言えませんが、殿下達は鍛え直す必要がありそうですなぁ…」
「いえ、マルグリッド伯爵… ジョセフ兄様はともかく、ジャック兄様は大丈夫でしょう。ジャック兄様の実力なら、少なくとも自身を守る事は出来そうです。鍛え直す必要があるのはジョセフ兄様だけですね♪」
二人はガックリと肩を落とし、翌日から私と共にマルグリッド伯爵の指南を受ける事になったのだった。




