第18話 新しい国を興す第一歩は、お転婆王女の噂に隠れました
ランディさんとレイチェルさんがそれぞれの街へ帰って半月経ったある日。
私の通う学園は突然、数万人は居るであろう少年少女達に包囲された。
「何がどうなってるんだ!?」
「自警団は何をしているんだ!?」
「この集団は何なんだ!?」
生徒達は勿論、教師達も戦々恐々として右往左往している。
そんな中、私は一人のんびりと弁当を食べている。
「騒がしいですねぇ… 昼食ぐらい、静かに食べたいのに…」
そんな私を見て、クラスメート達は私に詰め寄る。
「ジェニファー! 何を落ち着いてるのよ!」
「そうだよ! 落ち着いてる場合じゃないだろ!」
この事件(?)は多分、レイチェルさんやランディさんが関与してる筈。
だから学園を取り囲む集団の何処かにランディさんとレイチェルさんも居る筈だし、私と面識があるのを知ってる連中も居る筈だが…
さすがに気付く人は居ない様だ。
まぁ、数万人の中からたった二人の人物を見付けるのは不可能だろう。
それに、学園内で二人に接触したのは僅かな時間。
ほんの少し会話しただけで二人は私の家に向かったのだし、半月も経てば顔を覚えてる者も居ないだろう。
そんなワケで、教師も生徒も全員が青褪める中、一人だけ平然と昼食を食べている私の姿は奇異に見えるんだろう。
「やれやれですね… 仕方無いから私が行きますか… 皆さんは教室で待ってて下さい」
私は食べ終えた弁当箱を片付けると、食後の散歩にでも行くかの様に教室を出る。
「お… おい! まさか、あの集団に向かうんじゃないだろうな!?」
「いくらジェニファーでも、一人で行くのは無謀だろ!」
「そうよ! 確かにジェニファーは強いけど、いくら何でも相手が多過ぎるわよ!」
ふむ…
それなりに私を心配してくれてるみたいだな。
でも、これがランディさんとレイチェルさんの策なら何の問題も無い。
仮に二人が関与しておらず、単に他の学園の生徒が結託して攻めて来たのだとしても負ける気はしないんだが…
程無くして私は学園のグラウンドに歩み出る。
私はグラウンドの中央まで来ると、その場に仁王立ちになる。
私の学園の教師や生徒は固唾を呑んで見守っている。
しばらくすると、十数名の代表と思わしき集団が歩み寄って来る。
その集団は私の前まで来ると、一斉に片膝を突いてひれ伏した。
「我等、ジェニファー様の配下と成るべく馳せ参じました! 我等は全てジェニファー様の僕、如何様にも、お使い下さい!」
代表として話したのはレイチェルさん。
大声では無いが声量は充分であり、トーンが高い事から教師や生徒にも聞こえている様だ。
妥当な人選だな。
ランディさんだと演技力に問題があるだろうから、芝居臭くて疑われるかも知れないもんな。
「諸君等の意に感謝します! 私の欲するは自主独立! アンドレア帝国に虐げられし者達よ起て! 私達は次代に向けて、新しい世を築くのです!」
うぉおおおおおおおおおっ!!!!
私も声量やトーン意識し、しっかり校舎に届く様に話す。
(ジェニファー様… セリフ、予め考えておられたんですか?)
コソッと近付いたレイチェルさんが小声で問い掛ける。
(そんなワケありませんよ。アドリブに決まってます♪)
私はニッコリ笑い、同じく小声で答える。
(あのセリフをアドリブで… さすがと言うか、何と言うか… 私には真似できませんわ…)
そんなに難しいセリフでも無かったと思うけど…
アンドレア帝国は、中心部こそ古くから従属してた国を併合しているが、外周部は比較的近年に侵略された国だ。
外周部に住む人々は中心部から虐げられ続け、不満や鬱憤が溜まっている。
その様な国… と言うか地域の幾つかに私達は送り込まれた。
煽動するのは容易いと言える。
勿論、騒ぎが大きくなれば煽動罪で捕まる可能性も考えられる。
しかし、数が多いとは言え『所詮は子供の戯れ』と思われ、話の内容が広まらない限りは警戒される事は無いだろう。
「これで学生は取り込めたと思うし、下の世代も取り込めるだろ♪ 問題は上の世代だけどな」
「それが問題ですわね… そう易々とは取り込めないでしょうね…」
「そう簡単には行かないのは判ってます。まだ最初の一歩を踏み出しただけなんですから。取り込んだと言っても、アンドレア帝国の極々一部に過ぎません。ベルムート王国… いえ、私達の新たな国を興すには、何年も… 十年以上で考えないとダメですからね」
もしかしたら、国を興すなんて夢物語なのかも知れない。
仮に興せたとしても、すぐにアンドレア帝国に潰されるかも知れない。
それでも、やらなければならない。
私自身が宣言したからには、立ち止まる事は許されない。
未だ見えない未来に私は想いを馳せるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジェニファーが多くの学園の生徒を支配下に置いた十数日後、事の顛末を記した手紙が幽閉されている父親達の元に届いた。
もっとも幽閉されているとは言え、それなりの屋敷が与えられ、家事全般を行う使用人付きという厚待遇である。
元とは言え、ベルムート国王と王子をぞんざいに扱っては、かつてのベルムート国民の反感を買う事になるので、それを回避する為だが…
「父上、ジェニファーからの手紙が届いたそうですね?」
「何か、やらかしましたか?」
元・ベルムート国王、ジョージ・ベルムヘルムが苦笑しながら手紙を読んでいると、息子のジャックとジョセフが部屋に駆け込んできた。
「なんだ、お前達。ノックを忘れる程、ジェニファーからの手紙が待ち遠しかったのか?」
「あ… これは失礼を…」
「申し訳ありません…」
自分達の失態を恥じる二人。
「ははっ、まあ良い。我々は最早、王族でも貴族でも無い。ある程度の自由が保証されてるとは言え、幽閉の身なのだからな。で、ジェニファーからの手紙だが… 私が説明するより、読んだ方が早いだろう」
言いつつジョージは二人に手紙を渡す。
………………………………………………
「何をやってるんだ、ジェニファーは…?」
「何十もの学園の生徒を支配下に置いたって… 何の為に…?」
手紙を読み終えた二人は困惑していた。
ジェニファーの行いに対してもだが、同時にこんな内容の手紙が届いた事にもだ。
幽閉中の身である為、手紙のやり取りには必ず検閲が入る。
にも拘わらず、手紙が届いた事を不思議に思っていた。
「恐らく、子供の遊びとでも思われたんだろう。少々スケールが大きいがな」
「いや、父上… 少々なんて規模ではないと思いますが…」
「兄上の仰る通りです。下手すれば帝国に目を付けられる行動です」
ジョージの言葉に二人は異議を唱える。
「そこはジェニファーの年齢と噂のお陰だろう」
「「噂…?」」
二人は揃って首を傾げる。
「僅か10歳という幼さと、王女に似付かわしくないお転婆と言う噂だ…」
「「成る程…」」
今度は二人揃って納得した。
この場にジェニファーが居れば、間違いなく『ど~ゆ~意味ですかっ!?』と、突っ込みを入れただろうと思いつつ。




