第17話 学園の支配が上手く行かない原因は私自身!?
とりあえずランディさんとレイチェルさんには、執事さんと一緒に私の家へと向かって貰った。
私と姉様は普段通りに授業を受け、何事も無かった様に帰宅する。
──────────────────
「…で、やってる事は私と同じって事ですね? そして二人は既に成し得たと…?」
「そ~ゆ~事♪ まさかジェニファー様が手子摺ってるとは思わなかったけどな」
「確かに予想外でしたわね… ジェニファー様なら、私達より先に学園の支配を完了させてると思ってましたから…」
考えてる事は同じだったか…
まずは次代を担う同年代の子供達を支配下に置く。
学園の1年時に学園全体を掌握すれば、以後に学園に入る生徒は私の存在を無視できない。
学園を卒業した後も、1年生で学園を掌握し、卒業するまで支配したとあれば伝説となって影響を及ぼす。
結果として、私の世代以降は私の意向を無視できなくなる。
それを二人は既に成し得たんだとか…
対して私の方はと言うと…
次から次へと挑戦者が現れ、気の休まる日が無い状態なのだ。
「お二人共、私が考えてた事を実践してたんですね… それに比べて私の方は…」
「不思議だよなぁ。学園の規模は俺達の学園と変わらないのに、ジェニファー様が支配完了してないなんてさ」
「参考までに、今までの経緯を聞かせて頂けますか? 何か問題があるのかも知れませんし」
レイチェルさんに促され、学園に編入してからの事を話して聞かせる。
「…特に問題は無いと思うけどな。俺もだけど、レイチェルも同じ様な感じだったろ?」
「そうですわね… だとしたら、何が問題なんでしょうか…?」
二人は首を傾げて考える。
勿論、私も。
「身長じゃない?」
ジュリア姉様がクッキーを食べつつ、呆れた様に呟く。
「「「身長?」」」
私達三人の声がハモる。
そして、私達は互いを見て…
レイチェルさんとランディさんは軽く私を見下ろし、逆に私は二人を軽く見上げる。
「そう言えばジェニファー様… 皆が別れてから二ヶ月近く経ちますけど…」
「身長、随分と縮んだんじゃないか?」
「お二人が伸びたんです!」
この歳で縮むかっ!
「ランディ、貴方ねぇ…」
ランディさんをジト目で睨むレイチェルさん。
てかランディさんとレイチェルさん、いつの間にかお互いを呼び捨ててるし…
「じょ… 冗談だよ! しかし、二ヶ月と経ってないのに、この身長差は…」
確かにな…
二人共、パッと見ただけでも10㎝は高くなってるぞ?
「ジェニファー、小っちゃいからねぇ… その見た目で侮られてるとしか思えないわね」
確かに…
挑戦者がやたらと私の事をチビだのチビガキだの言ってたけど、挑発じゃなくて見たままを言ってたのか…
「けど、こればっかりは仕方無いですわね… 身長なんて、すぐに伸びるワケがありませんし…」
「だよなぁ… てかジェニファー様、鍛練のし過ぎ… 筋肉の付け過ぎで成長が阻害されたんじゃないか?」
「それは迷信です! ランディさんやレイチェルさんのお父様だって、ガッシリした体型で高身長じゃないですか!」
筋肉を付け過ぎれば成長を阻害するなんてのは迷信に過ぎない。
私だって10歳女子の平均身長──ただし日本人の──なんだし、普通に成長してるんだからなっ!
「それはまぁ… 仰る通りですわね…」
「だったら成長が遅れてるだけか? それとも、俺達の成長が早いのかな? まぁ、ジェニファー様の身体能力の高さは相変わらずだけど…」
私の成長が遅いのか、ランディさん達の成長が早いのかは判らない。
小さくて損する事も多いが、小回りが利くのは利点になる。
私の剣術や体術は、威力よりも手数で圧倒する事を旨としているから丁度良い。
動き回る事になるが、ランニングでのスタミナ作りは最初からそれを見越してるからだ。
勿論、威力も軽視していないからこそ、厳しい筋力トレーニングを自らに課している。
スピード・パワー・スタミナ。
私の理想とする最強剣士に成る為には、どれが欠けてもダメなのだ。
「私には高過ぎる理想ですわね…」
「まったくだ… でも、ジェニファー様なら成し得るんじゃないかって気になるから不思議だよなぁ♪」
「その為には不撓不屈の精神と、たゆまぬ努力が必要ですけどね。まぁ、覚悟はできてます。大勢の前で『ベルムート王国を再興する』って大見得を切りましたからね」
私の言葉に二人は頷く。
「あぁ、俺も大勢の前で『地獄の底まで付き合う』って宣言したからな♪」
「私もですわ♪ ですから、次代を担う同世代の子供達を纏めましたの♪」
「まさか、全員が同じ事を考えてたとは思わなかったけどな♪」
この計画は話してなかったからな…
まずは私が試してみて、一定の効果が認められてから、ランディさんやレイチェルさんに伝えるつもりだったから…
よもや私の意図を読んでいたとは…
その中で私だけが出遅れた感じだな。
まさか見た目──勿論ジュリア姉様の私見であり、多分──で侮られてたとは思いも寄らなかったけど…
「今現在、問題なのは私の通う学園ですね… ジュリア姉様の言う通り、私の見た目で侮られてるんだとしたら、学園を完全に掌握するのは少しばかり先になりそうですねぇ… なにしろ学園の生徒の大半が私に臣従してるとは言え、十数名は未だに抵抗して挑戦を続けてますし…」
「そうですわね… 私の元に寄せられた情報では、各地に散った多くの元・ベルムート貴族の子女達は、私達と同じ事をしているみたいですわね。ジェニファー様と一緒に鍛練していたからか、身体能力はアンドレア貴族の子女達に比べて突出している様子… 次々と通う学園を支配下に置いているとの報告が寄せられていますわね」
遅れているのは私の通う学園だけって感じだな…
「私の見た目が災いしてるみたいですねぇ… なんとかして現状を打破しないと…」
「そんなに難しく考えなくても良いんじゃないか?」
悩む私に、ランディさんが軽い声をあげる。
「ちょっとランディ… 軽はずみな発言は…」
「いや、実際に簡単だろ?」
飄々とした感じのランディさん。
だが、次に彼が口にした言葉は、単純かつ明確な事だった。
「俺やレイチェルが支配した学園、他の元・ベルムート貴族の子女達が支配した学園… それらが我先にとジェニファー様に臣従を誓えば、ジェニファー様の学園で反抗してる連中だって、鳴りを潜めるか臣従するんじゃないか?」
「「あっ………」」
思いも寄らないランディさんの言葉に、私とレイチェルさんは呆然とする。
傍らで傍観していたジュリア姉様も、思わず手に持ったクッキーを落としていた。
「まさかランディが… そんな理知的な案を口にするなんて…」
「ランディさんの事だから、何人か首を落とせば良いとか言うと思ってました…」
「レイチェルもジェニファー様も、俺を何だと思ってんだよ…」
「「考え無しの脳筋♪」」
「そりゃ無いだろぉ…」
私とレイチェルさんの言葉が見事にハモり、ガックリと肩を落としつつも苦笑を浮かべるランディさん。
ジュリア姉様を交えた四人は自然に笑い出し、やがて大笑いへと至った。
久し振りに心の底から笑った気がするな…
私達はランディさんの策を採用し、私の通う学園を支配下に置くべく動き出した。




