第16話 望んでいた日常と、懐かしい仲間との再会
翌朝の食卓は、思っていた通り賑やかだった。
長テーブルの短めの一辺にはお母様が座る。
その角を曲がった先に、執事さんとメイド長さんが対面で座る。
そして執事さんの隣にはジュリア姉様、メイド長さんの隣には私が座る。
そして姉様の隣にナタリーさん、私の隣にシンシアさんが座る。
私達家族と使用人が一堂に会し、食事を共にする。
使用人の皆さんは緊張の面持ちだが、私は嬉しい♪
それに、食事は大勢でした方が美味しく感じられるしな♪
もっとも、使用人の面々は、気が気でない様子だけど…
「さ… さすがに味が分かりません…」
「私もです… 申し訳ない事ですが、緊張してしまって… その…」
ガチガチに緊張してるな…
身分の高い──元だけど…──人と食事を共にする事の無かった人の反応って、こんなモンなのかな?
そもそも私は前世がド庶民で身分の高い人と食事をする機会なんて無かったし、今世は逆に王族に生まれた事で周りは身分が低かったからなぁ…
「ですので… 食事のマナー等、無作法な事もあるかと…」
「待って下さい」
そこで私はストップをかける。
「確かに私達は貴族様式の食事マナーを身に付けていますが… それを皆さんに強要する気はありませんよ? ですよね、お母様?」
「ジェニファーの言う通りですわ♪ それに、私達も庶民… 平民になったのですから、堅苦しいマナーなど忘れて気楽に食事したいのも事実ですね♪」
私もだけど、お母様も息苦しかったのかな?
貴族様式の食事マナーって、確かに堅苦しいし肩が凝るんだよなぁ…
「お母様も仰ってますし… スープを飲む時だって、音を立てずに飲むなんて気にしなくても良いんですよ?」
言いつつ私はスプーンで掬ったスープを、ズズッと音を立てて飲む。
「さすがに下品な気がするんだけど…?」
ジュリア姉様からクレームがつけられるが…
「でも姉様… こうして飲むと、少しですがスープの熱さが和らぎますよ? 空気と一緒に取り込む事で、スープが冷めて飲み易くなります♪」
訝しげな表情をする姉様だが、私の真似をしてズズッとスープを口に飲むと…
「…!? 本当… 平民はマナー知らずの下品な食べ方をすると思ってたけど、それなりに考えての事だったのね…」
「知らずに否定する事の方が浅慮だと思いますよ? 否定するにしても肯定するにしても、何故そうするのかを知ってからすべきだと思います」
「成る程ね… 考えてみれば、私は王族とか貴族の常識しか知らなかったわ… てか、ジェニファー? いつ、何処でそんな知識を? 貴女は王宮から外に出た事は無かったわよね…? 平民の食事事情なんて知らない筈だけど?」
ギクゥッ!
そこまでは考えてなかった…
まさか前世の記憶があるとは言えないし…
「あら、ジュリア。ジェニファーは魔法の勉強で様々な文献を読んでますよ? その中には平民の暮らしについて書いてある書物もありますし… きっと、そこから得た知識なんでしょうね?」
お母様のフォロー、感謝♪
「あぁ… 確かにジェニファーは、私も呆れる程に書物を読み漁ってましたね… 魔法の勉強をして、剣術や体術の鍛練をし… 10日に1度の休みの日には、それこそ寝食を忘れてまで書物を読んでましたっけ…」
そうだったなぁ…
王宮の図書館には、ありとあらゆる書物が保管されてたからなぁ…
勉強や鍛練が休みの日には、朝から晩まで読書してたっけ…
「ジェニファー様の豊富な知識は、日々の読書が源だったんですね? 私も読書は好きなんですが、ジェニファー様の知識にはいつも驚かされます…」
シンシアさん、あんまり持ち上げないでくれますかね?
嫌な予感がするんですよ…
「じゃ、ちょっとした問題なんかはジェニファーに任せたら解決してくれそうね♪ ジェニファー、頼んだわよ♪」
ほらぁ…
こうなると思ったんだよ…
まぁ、私にできる範囲なら何とかするけどさ…
「分かりました… けど、私にだって限界はありますからね? 私の許容範囲を超える案件は、きちんと専門家に頼んで下さいよ?」
「了解、了解♪ そこは私も考えるわよ♪」
ホントに大丈夫だろうな?
ジュリア姉様の事だから、ギリギリのラインを見極めて私に無茶振りする気がしないでも無いんだけど…
そんな事を考えつつ、朝食を終えた私と姉様は執事さんが御する荷馬車に乗って学園へと向かったのだった。
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「待ってたぞ、ジェニファー! 今日は俺様が魔法で勝負─」
「地面・爆裂…」
ちゅどぉおおおおおおんっ!!!!
「のわぁあああぁぁぁぁぁぁ…………」
飽きたよ…
毎度お馴染みになってる当校時の挑戦者。
それをあっさり爆裂魔法で吹っ飛ばし、校舎へ向かう私に声を掛ける人物が居た。
「相変わらず容赦無しだな、ジェニファー様♪」
「ホント、呆れてしまいますわ♪」
聞き慣れた声に振り向くと、そこには懐かしい二人の姿が在った。
「ランディさん! レイチェルさん! どうして此処に!?」
私の言葉にランディさんはニヤリと笑う。
「俺達は此処からそこそこ離れた街に飛ばされたんだけどな。ジェニファー様の噂、そこまで届いたぜ? 俺の街は、この街から五つも離れた街だってのにさ♪」
「私の街は六つ離れてますわね。最初は、どんな豪傑かと思いましたわ♪ でも、話を聞けば聞く程ジェニファー様としか思えなくて、ここまで足を運んだんですの♪ その予想、間違っていませんでしたわね♪」
五つも六つも離れた街にまで噂が広がってたんかい…
てか、どんな噂なのかが気になるんだけど…
「会えて嬉しいです♪ お二人が此処に来られたと言う事は、この学園に編入されるんですか?」
私の言葉に二人は静かに首を振る。
「残念だけど、それは出来ないんだよなぁ…」
「えぇ。私達が他の学園へ編入されると、今までの努力が水泡に帰す事になりますしね♪」
???
私は意味が解らず首を傾げる。
「なんだよ、ジェニファー様。意味、解んねぇのか? 自分で言ってたじゃん♪ 『ベルムート王国が滅んだとしても、私が再興させてみせます!』ってさ♪」
「ジェニファー様なら、すぐに理解して下さると思ってましたが… 私達、別邸でジェニファー様に『地獄の底まで付き合います!』って宣言した筈ですわよ?」
「地獄の底までって言ったのは俺だけじゃなかったっけか?」
「あら、そうでしたかしら? でも、ベルムート王国を再興させるんですから、その程度の覚悟は持っていますわよ?」
もしかして、私と同じ事を考えてるんじゃないだろうな、この二人…
そして、その予想は当たっていたのだった…




