第15話 お母様の意外な一面を垣間見たけど、気負わないで欲しいなぁ…
バァアン!
ズドォオオオオオオン!!
学園のグラウンドに派手な音が響く。
前者は挑戦者、後者は私の爆裂魔法が炸裂した音だ。
今日の挑戦者は魔法で挑んできたのだが…
結果は言うまでもなく、私の圧勝。
威力が強過ぎたのか、何人か巻き込まれて倒れてるけど…
まぁ、私に挑んできた連中だから別に良いか♪
ちなみに挑戦者は青褪めて地面にへたり込んでいる。
無理も無い。
本人の爆裂魔法では地面に穴は開いたものの、直径1m程で深さ30cm程度。
対する私の爆裂魔法で地面に開いた穴は、直径5m程で深さ3m程。
…ちょっと加減を間違えたかな?
「ジェニファー… もう少し手加減しなさいよ… 剣術では相手の肋骨を何本もへし折るし、体術でも相手の腕や脚を折っちゃうし… 今の魔法だって、下手したら死人が出てたかも知れないわよ?」
「いや… 一応、周りで見てる人には離れる様に忠告しましたし… 飛び散った石とかが直撃した人が倒れただけで、大怪我した人は居ませんから許容範囲と言う事で…」
「それ、許容範囲が広過ぎるんじゃないかしらね…」
ジュリア姉様のジト目が私に突き刺さる。
仕方無いよ…
実力が違い過ぎるんだから…
恒例になってる朝の挑戦者を退けた後は、教室へ入って普通に授業を受ける。
剣術・体術・魔術の実践授業は、それぞれ専用の場所で技術を磨く。
ジュリア姉様は無難にこなしているらしいが、私にとっては退屈な時間でしかない。
特に剣術や体術は実力が違い過ぎて、誰も私の動きに付いて来れないのだ。
これでは鍛練の意味が無い。
学園から帰ると、私は王宮時代に行ってた鍛練で汗を流す。
対戦相手が居ないので、実践稽古を行えないのが不満ではある。
レイチェルさんやランディさん達と一緒に鍛練してた頃に戻りたい…
─────────────────
「それは仕方ありませんよ… ジェニファー様の動きに合わせるのは、同年代では難しいと思いますよ? レイチェル様やランドルフ様を除けば、学園の生徒には居ないのではありませんか?」
夕食時、お母様に学園での出来事を報告していると、給仕をしているシンシアさんが苦笑いしながら感想を述べる。
そうなんだよなぁ…
最上級生である5年生の生徒でも、私に合わせられる生徒は居ないからなぁ…
通常、学園での実践授業は学年毎に行われる。
週に一度、1年生から5年生までが一堂に会して行う合同訓練があるのだが…
そこでも私と互角に戦える生徒は居なかった。
王宮時代、たまに私の鍛練を見学していたジュリア姉様だけは、多少は私の動きが見えるらしく、他の生徒よりはマシだけど…
それが功を奏したのかは判らないが、ジュリア姉様に絡んでくる生徒は居ないとの事。
まぁ、私の動きに多少なりとも付いて来れる姉様に絡もうって怖いもの知らずは居ないだろうな…
「ど~ゆ~意味よ? 私はジェニファーと違って、物静かでお淑やかだと思われてるんだからね? 多分…」
最後にコソッと『多分』と付け足すって事は、姉様も自信が無いんだな?
「良い事じゃありませんか? ジェニファーの鍛練を見ていたから、ジュリアはジェニファーの動きに合わせられるんでしょう? その結果、ジュリアは誰からも変な事をされずに済んでるんですから♪」
お母様の言う通りだな…
現状、私の動きに──辛うじて──合わせられるのはジュリア姉様だけ。
勿論、私は手加減なんてしていない。
誰が相手でも、一切の手加減無く全力で対峙する。
それが私のモットーだからな。
それはともかくとして…
「ところで… シンシアさんもですけど、どうしてメイドの皆さんは一緒に食事しないんですか? 私達は平民になったんですから、王宮に居た時みたいな身分差は気にしなくて良いと思うんですけど…?」
私としては、全員が平民になって身分差が無くなったんだから、一緒に食事しても良いと思うんだけどな…
「そうか… 言われてみれば、ジェニファーの言う通りよね… 私達は平民でシンシア達も平民なんだから、遠慮するのは変よね…?」
「そうですわねぇ… それに、食事は大勢で食べた方が楽しいし、美味しく感じますからね♪」
はい、言質頂きました♪
「じゃ、次の食事… 明日の朝食からは、執事さんやシンシアさん達メイドの皆さんも一緒に食べましょう♪ 全員が一つ屋根の下で暮らしてる平民なんですから、一緒に食事するのは当然ですよね♪」
そもそも平民に執事やメイドが付いている事が不思議なんだが、これもアンドレア帝国の慈悲(?)と言うか、策謀らしい。
王族の生活環境を急激に変えては、心から服従しないだろうとの考えなんだとか。
かつてのベルムート国民も、王族が酷い扱いを受けていると知れば、反旗を翻す確率が高くなる。
姑息と言えば姑息だが、敵対していた者達を懐柔するには効果的な方法かも知れない。
「そ… そんな… 畏れ多いです… 元とは言え王族だった方々と、元から平民でしかない私達が食事の席を共にするなど…」
「気にする事はありません♪ ですよね、お母様♪」
「ジェニファーの言う通りですよ? 元の身分が何であれ、私達も貴女達も同じ人間なんですから。ですので、明日の朝食からは全員一緒に食事する事とします。元の身分差が気になると言うのでしたら、命令する形になりますが宜しいですかしら?」
お母様はニッコリと微笑みながら、執事さんやメイドの皆さんを見渡すと…
「「「「畏まりました!」」」」
一斉に平身低頭して承知したのだった。
─────────────────
「正直言って、怖かったからです…」
お母様の言葉に対し、何故あんな反応をしたのか?
私がシンシアさんに聞いた答えがそれだった。
「怖かった? お母様、怒ったりしてませんでしたけど…?」
お母様は微笑んで、皆を見渡しただけなんだけどな…
「あの笑みに隠された殺気… とは違いますが、絶対に断らせないと言う迫力を感じたんです… さすがは王妃様ですね… 元、ですが…」
そ… そうなのか?
「それは全員が感じたって事ですよね? シンシアさんだけでなく…」
「はい。ですから同時に承知したんですよ。執事さんは勿論、メイド長さん、ナタリーさん、そして私… 全員が迫力に度肝を抜かれました…」
そんなに殺気と言うか、迫力があったのか…?
お母様と言えば、物静かなイメージしか無かったんだけど…
いや、お父様や兄様達が居ない今、私達家族の長はお母様…
その責任感からだろうか?
だとしたら、責任を感じ過ぎてストレスを溜め込まなきゃ良いけど…
「それではジェニファー様、私はこれにて。お休みなさいませ」
「はい、お休みなさい♪」
シンシアさんは自分達の部屋へ戻り、私も部屋の灯りを消して眠りに付く。
明日の朝食は賑やかになるだろうが、同時に妙な緊張感が漂うんだろうと思いながら…




