第14話 挑戦者の撃退と、ベルムート王国再興への新たな決意
翌日から私が登校すると、大勢の生徒達が整列して出迎える事が慣例になっていた。
グラウンドの校門から校舎まで、左右に全校生徒がズラリと並ぶ。
その中を私は堂々と、ジュリア姉様は少し怯えた様子で歩いていく。
そして校舎に入る直前で、私に対する挑戦者が現れるのだ。
「お前が噂のジェニファーか。俺の名前は─」
「あ、今は言わなくて良いです。名乗るなら終わってからにして下さい。そうしないと忘れてしまいそうですから」
名乗ろうとするのを制止すると、挑戦者の顔が怒りで赤くなる。
「なんだと、このチビ! ブッ倒してやるから覚悟─」
「何で勝負するんですか? 剣術? 体術? 魔法? さっさと教えて下さいね」
「こ… このガキ…! 俺様の剣術でボコボコにしてやるからな!」
セリフを途中で遮り、激昂させて冷静さを失わせる。
こんな単純な作戦を読めない時点で負けてると言って良いだろう。
「ハイ、剣術ですね? 先制のチャンスはあげますので、さっさと済ませましょう♪」
ますます顔を紅潮させ、怒りの表情を浮かべる挑戦者。
「舐めてんじゃねぇぞ、チビガキがぁっ!」
怒りに任せ、木剣を横薙ぎに振ってくるのを私は木剣で受け流す。
左手で柄を持ち上げて剣先を斜めに下げ、前腕で剣を支えて相手の剣を滑らせる。
そして…
ドボッ!
ガラ空きになった相手の脇腹に、私の木剣がめり込む。
「ぐぉっ!」
ガックリと膝を突き、脇腹を押さえて苦しそうに踞る挑戦者。
「ハイ、終わりですね? じゃ、名前を聞きましょうか? 今が無理なら後でも構いませんよ? 肋骨が二~三本は折れてるかも知れませんから、喋るのも苦しいでしょうしね?」
「ぐぅ… この… 俺様が… こんな… チビに…」
自身の力を過信し、相手が自分より小さくて幼いから負ける筈が無いと慢心し、相手の力量も知らずに油断し、更に冷静さを欠いていた。
そんな状態では、勝てる勝負も勝てやしない。
「まぁ、再戦を申し込むなら受けますよ? その前に、しっかり怪我を治して実力を向上させて下さいね? 今の貴方では、残念ながら私に勝てる見込みはありませんから♪」
「く… くそっ…」
悔しそうだな…
でもまぁ、筋は良さそうだったから鍛えれば、そこそこ使える様になりそうかも…
下手したら使い捨てかな?
本人の実力次第だろうけどね…
とにかく私は恒例(?)になってる『登校時の(無謀な)挑戦者』を退けて教室へ入り、授業だの実践だのをこなして帰宅するのだった。
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「それなりに戦力は集まったと思いますけど、即戦力としてはイマイチですねぇ…」
「ジェニファーの考えは解りませんけど、慌ててはいけませんよ? 何事も一朝一夕には成せませんからね? 焦りは禁物ですよ?」
お母様は優しく、それでいて力強く私を諭す。
「それは解っています。ベルムート王国の再興には何年も… 何十年も掛かると思いますから」
「別邸で言ってた事、本気だったのね…? まぁ、ジェニファーは昔から有言実行だったからね♪ ベルムート王国の再興も、いつかは実現しそうよね♪」
ジュリア姉様…
私の事、信じてくれてるんだな…
それにしても、最近のジュリア姉様はフランクな話し方が板に付いてきたな…
お母様はフランクな話し方が苦手な様で、相変わらず王妃様然とした丁寧な話し方だけど…
「…これはもうクセですわね。ジェニファーが誰に対しても敬語で話すのと同じ事ですわ。平民に落とされたからと言っても、身に付いた習慣は簡単に変えられませんもの」
困った様な表情のお母様。
私達より遥かに長く習慣付いてるからなぁ…
「私はもう慣れちゃったけどね♪ 元々ジェニファーや使用人達と話す時は似た様な話し方だったから♪」
言われてみれば、お父様やお母様が居ない時の姉様はフランクな話し方だったな…
「たがらジェニファーもフランクに話せば? 貴女って敬語でしか話さないけど、何か理由でもあるの?」
「へっ? いや、特に理由はありませんけど… ただ、今さら話し方を変えるのも面倒ですし… 私自身、この話し方が習慣付いてますから…」
最初は前世でのボロが出ない様にと敬語を使ってたんだけど…
長年敬語で話してる内に、この話し方がラクになってきたんだよなぁ…
こんな事、誰にも言えないけど…
「ジュリア…? ジェニファーにはジェニファーの話し方があるんですよ? 誰にでも得手不得手がありますからね? その人の性格にも拠りますけど、ジェニファーにとっては敬語以外で話す事は不得手なんでしょうね? だから無理強いしてはいけませんよ?」
「それは… う~ん…」
お母様に言われ、姉様は少し考えてる様子。
「確かに、お母様の言われる通りですね… それにしても性格ですか… ジェニファーの性格程、謎な性格も珍しいですけど…」
放っとけ!
謎な性格で悪かったな!
「謎な性格って… どんな性格なんですか…?」
「だって、4歳の頃から歳に似合わない言動や物騒な発言が多かったし… そのワリに話し方は何故か丁寧だし… 物腰は柔らかいのに、学園では恐れられてるんだもん… 謎としか思えないわよ…」
私自身の今までの行動・言動の所為なのか…?
前世でのボロを出さない様に注意してたのが、そんな不本意な印象を抱かせる事になっていたとは…
「ジェニファー、気にする事はありませんよ? そう言った事も含めて、貴女なんですからね? 気にして変えようなんて思わなくて良いんですよ? 無理に変えたら貴女らしさが失われますし、ジェニファーらしくないジェニファーを見たくありませんからね」
私らしい私か…
お母様の言う通り、『私』を変える必要なんか無いよな…?
私は私らしく、私の遣り方でベルムート王国を再興させてやる!
お母様の励まし(?)に、私はベルムート王国の再興の決意を改めて強くしたのだった。




