第13話 ベルムート王国再興への決意と、戦いに明け暮れる日々への始まり
アンドレア帝国の辺境に飛ばされた元・王族の私達は、それなりの生活を送っている。
ド田舎なので与えられた土地は広く、野菜は自家農園で栽培している。
嘗て王宮で私達に仕えてくれていた執事や数名のメイドも一緒に過ごしている。
勿論、私の専属メイドだったシンシアさんも一緒だ。
ただ、殆どの使用人達は、ベルムート王国だった地域へ新たに赴任して来た領主の元へと分散されて仕える事になった。
なので現在、与えられた土地と家屋に住んでいるのは、私達母娘三人とそれぞれに仕えるメイド、そしてメイドを束ねる執事が一人の計七人。
お父様や兄様達は、まだ幽閉生活を送っているらしい。
悲惨な生活を送っているワケではないそうだが、かなり行動を制限されているとの事。
例えば私達に手紙を送る事は許されているが、必ず検閲が入って内容を確認し、問題が無い場合にだけ私達の元に届けられる。
逆も然り。
私達が送った手紙は必ず検閲が入り、問題が無い場合にだけ読む事が許される。
クーデターを懸念しての事だろう。
そんな状態なので、私達に収入は無い。
働き手が居ないのだから当然だ。
では、どうやって収入を得ているのかと言うと…
今のところ、アンドレア帝国の慈悲に頼っている。
慈悲と言うより、対外的なアピールだろう。
アンドレア帝国は『攻め滅ぼした国の王族に対しても、無下に扱わず寛容ですよ』と言うアピール。
そうする事で、反旗を翻す気を削いでいるんだろう。
だが、私は屈しない。
いつの日にか帝国に対する反乱軍を立ち上げ、最終的にはベルムート王国を再興してやるんだから!
「現実はそんなに甘くないわよ…」
ガタゴトと揺れる馬車の荷台に座り、呆れた様に言うジュリア姉様。
今日から私達は辺境の学園に編入されるのだが、通学するのに王宮で使っていた馬車は使えない。
平民に落とされたんだから当然だ。
と言うか、没収されただけなんだけどね…
なので、私達が使っているのは荷馬車。
御者は執事のアランさんが務めてくれている。
幌が有るから雨風は凌げるが、クッションなんて無いからお尻が痛くなる。
まぁ、それはともかく…
「元・ベルムート王国の王女だって知られたら大変よ? 敵国だった国の王女って事で、目の敵にされるかも知れないわよ? 私は1年しか通わないからともかく、貴女は5年間通うんだから…」
「そんな連中、叩きのめしてやりますよ。私を『か弱い王女』だと思って舐めたマネをしたらどうなるか、思い知らせてやるだけです」
「貴女に喧嘩を売る人に同情するわ…」
姉様は私をジト目で見つめ、心底疲れた様に言うのだった。
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「おい、お前等! ベルムート王国の王女だったってのは本当か? 平民に落とされたんだってな、ざまぁねえな!」
学園に着き、荷馬車から降りて校舎へと歩いていると、十数人の悪ガキ共が私達を囲む。
姉様の懸念、いきなり当たったな…
「それが何か?」
私はズイッと前に出る。
ジュリア姉様は少し怯えた様子。
「チビのクセに生意気そうなヤツだな… 言っとくが王女だった事なんて、ここでは何の意味も無いんだからな! 頭を下げて頼むなら、俺の召し使いにしてやっても良いんだぜ?」
「何を言い出すかと思えば… 当然ですが、お断りですね。私に喧嘩を売ってるならハッキリ言って下さいよ? いくらでも買ってあげますから。それとも、貴方の喧嘩って口喧嘩の事ですか?」
言いつつ私は袋から木剣を取り出して構える。
「てめぇ… これだけの人数に1人で勝てると思ってんのか?」
挑発してきたヤツも木剣を構える。
それを見た周りの連中も一斉に木剣を構える。
「御託は良いから、かかって来たら如何ですか? 先制攻撃のチャンスはあげますよ? パッと見た感じ、腕の立つ人は居ないみたいですからね♪」
言いつつ私はウインクして挑発する。
「なんだとぉおおおおおっ! やっちまえぇえええっ!」
叫びながら一斉に襲い掛かって来る悪ガキ共。
その動きは全く精錬されておらず、私の敵では無かった。
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「もう終わりですか? 何の手応えもありませんでしたね… これに懲りたら、私や姉様に喧嘩を売るのは止めておいて下さいね? 今回は初めての事ですから手加減してあげましたけど、次からは手加減なんてしませんよ? 死にたいのなら、話は別ですけどね♪」
ニッコリ笑って言う私に、悪ガキ共は土下座して忠誠を誓ったのだった。
「そうそう… 貴方達は剣術で私に喧嘩を売ってきましたけど、体術や魔法で喧嘩を売ってくる人も居そうですよねぇ? そんな人達に心当たりがあるなら、注意しておいてあげて下さいね? 私、体術も魔法も得意ですから♪」
そう言って私は地面に向かって拳を叩き付ける。
ドォンッ!
派手な音を立て、砂煙が上がり…
それが収まると、地面に小さなクレーターが出来ていた。
青褪める悪ガキ共。
更に私は反対側の地面に向かって爆裂魔法を放つ。
バァンッ!
やはり派手な音を立て、砂煙が舞い上がる。
その後には、そこそこの大きさのクレーターが出来ていた。
「「「「す… すみませんでしたぁあああああああああああっ!」」」」
一斉に走り去る悪ガキ共。
「ジェニファー… ちょっと、やり過ぎだと思うけど…?」
ジト目で私を見つめるジュリア姉様。
「いや、まぁ… でも、この程度は許容範囲だと思いますよ…? 手加減し過ぎたら姉様も軽く見られますし… 1年間とは言え、姉様が嫌な思いをして過ごすのは看過できないと言うか… ですので、その…」
言い繕う私の頭を、姉様はソッと撫でる。
「解ってるわよ、ジェニファー… 私を守ってくれた事はね? 確かに貴女はお転婆が過ぎるし、物騒な事を言うし、歳に似合わない言動も多いけど、心根が優しい事は理解してますからね?」
ジュリア姉様…
それ、フォローに成ってませんけど?
誰も聞いてないから良いのかも知れないけど…
なんか納得出来ないぞ?
とにかく、私は一連の騒動を通じて誰も敵わない実力者として認知され、編入したばかりにも拘わらず、生徒達の頂点に君臨する事となったのだった。
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「…と、言うワケなんです… 仕方が無かったとは言え、実力を一気に見せ過ぎましたね…」
「そうねぇ… せめて小出しにした方が良かったかも知れないわねぇ…」
自宅に戻ると、ジュリア姉様がお母様に事情を説明し、それを聞いたお母様からダメ出しを食らってしまった…
「でも、あの場面で舐められたら絶対にダメだと思いますよ…? ああ言った連中は最初にビシッと叩きのめしておかないと、後々まで調子に乗ると思いますし…」
私は両手の人差し指をツンツンしながら言い訳する。
確かにお母様が言う様に、今回の喧嘩は剣術での相手だけに留めておいた方が良かったのかも知れない。
次に体術か魔法、どちらかを相手にして叩きのめす。
そして最後に残ったのを叩きのめしてやった方が、日数は掛かるが悪目立ちする事は無かっただろう。
多分…
「まぁ、ジェニファーの言いたい事は解りますよ? 一気に片付けた方が確かに楽ですから… ただ、面倒事は増えるかも知れないわねぇ…」
面倒事が増えるかも知れない?
減るんじゃなくて?
「一気に片付けようが、日数を掛けて片付けようが、今回の事で貴女の事はこの街に知れ渡りますよね? そうなると、腕に覚えのある者が貴女に挑んでくる可能性は否定出来ませんよ? この街だけで無く、隣の街からも来るかも知れませんわねぇ…」
そういう事か…
むしろ望むところだ。
挑戦者を叩きのめして私に従う者を増やし、一大勢力を作り上げる。
そしていずれはアンドレア帝国に対抗する軍団を組織し、最終的にベルムート王国を再興する。
いや、むしろアンドレア帝国を滅ぼし、ベルムート帝国を建国するぐらいの気持ちで挑んでやろうじゃないか!
そして、この日が私の戦いに明け暮れる日常が始まったのだった。
ようやくタイトルにある『お好きにバトる!』が始まります。
当初の予定では既に始まっている筈でしたが、そこへ至るまでの部分に予定より多くの話を入れてしまいました。
その分、よりストーリーに深みが増した気もするのですが、どうでしょう?
これからジェニファーは、縦横無尽に暴れる事になると思います。
ただ、性格が完成しつつあるので、私が『次はこんな展開で良いかな?』と思っても、もしかしたら『いや、ジェニファーならこうするだろうな』ってな感じで違う方向へ持って行かれるかも知れません。
もう1つの作品『小さな魔法医エリカ』では、毎回の様に話が思っていた様に進みませんから…
キャラクターが話を作るのはラクな時もありますが、予定を狂わされるのもツラいですね(苦笑)




