餓死 1ページ完結
「あぁ、ハラへった…。」
ぐぅぅとお腹が返事をし、換気扇のごぅんごぅんとしかならない殺風景な部屋に音が響く。
「ここさえ出られれば何かあるだろうに」
気がつくと家族でも住めそうな無機質なシェルターの中にいた。
唯一上り階段の先に扉があり、隣にナンバー式のロックがあって開かない。
シェルターは階段の場所を除いて4部屋あり、寝室、更衣室、広めの食堂、そして人工的に土が敷かれた謎の部屋
「おはよう。」
真ん中に天井まで生えた樹のような植物、そして樹の中央には全長1mほどの目だまじゃくしの胚のような不気味な実?がなっている。
それがあいさつに合わせてぶるっと震える。
最初は不気味だったが、5日も経つと唯一の話し相手だと気付いた。
「もらうぜ。」
天井から垂れたつぼみのような花の口の下にある、ペットボトルを取って水分補給する。
「んぐっ、んぐっ。」
同じ場所に戻し、花からゆっくり垂れている水をまた集める。
「ふぅ、なんか気のせいかもしれないけど今日のは少し美味い気がする。」
そんな訳ないのだが相手はぴんと実を張らせ、ドヤ顔のような態度になる。
「ふふっ。じゃあ今日もやるか、えーっと今日で15日目か。」
そうだと言わんばかりにぶるっと実が震える。
あくまで寝た回数でカウントしてるのだが、こいつはそんな無粋な否定はしない。
ふと気づくと手が軽く震え水だけの生活に体が悲鳴を上げているのを感じる。
「………」
樹の下には元々ここにいただろう人間の死体が多くあり、骨となった彼らとふと目が合う。
唯一水を補給してくれるこの植物を誰も食べようとしなかったのは奇跡だろう。
階段へと向かいナンバーを試す
「23515……23516……23517……23518……」
最大7桁の電子パネル、エンターキーが付いていて何桁か分からないがおそらく4桁以上だろう。4桁は全て試した。
片っ端からしているが、正直終わる気がしない。
最初はメモか何かヒントがあるかと思いシェルター内を探索したが、紙の1枚も見つからなかった。っと思えば死体の口から紙くずが出た時にどこに全て消えたか察した。
「…やってみるか?」
2〜3時間後、俺は樹に話しかけていた。
正直あと3日も生きれないだろう。不安で頭に靄がかかり、もしかしたらと思い聞いてみた。
「あそこに数字のパスワードがある。数字は0から9で最大7桁だ、直感で選んでくれ。それだと思ったら光ってくれ、違うと思ったら何か動いてくれ。」
愚痴るように言った。
「じゃあ1桁目!1かっ!?」
やけくそ気味に叫ぶ。
ピクッ
「次2!」
ピクッ
「3!」
ピクッ
「4!」
ピクッ
(こいつこんなにも連続で反応出来るんだな。)
「っ5!」
ピクッ
「6!」
ピクッ
「7……ふぅ」
何をしてるんだか
ピクッ
「8ぃ」
ピクッ
「9」
ピクッ
「駄目じゃん。」
ピクピクッ
「違うよってか?あ、ごめん。0忘れてた。」
そうするとホタルのような淡い光がうっすらと発せられた。
「おっ!分かってるじゃん。」
水を飲みながら続きを聞いていく。
「じゃあ次2桁目0からいくぞ。0でいいかー?」
ピクッ
……
…
「6?」
フワァと淡い光が広がる。
「えーっとじゃあ099の7744でいいか?」
それに同意の返事を見たら早速試しに打ちに行く。
「0997744.…まぁ違うか。にしてもそこまで分かるのすごいな。せっかくだし1ずつ増やして試していくか。」
ただボタンを押すだけ。しかし5回から7回に増えると何だか気分転換したような不思議な気持ちになる。
「0999998…0999999…100万!」
震える指で0を連打し、エンターキーを押す。
「だめかぁ。。あれ?さっきの5桁どこまでしたっけ?23…4?6?あっ、やばい。」
紙もなければペンもない。インクも誰かがいただいてしまったのだろう。
何度も思い出そうとするが思考は砂のように形をなそうとするがすぐに薄れ、時間だけが過ぎていく。
「100万からしていこう…。」
「1000001…1000002…1000003…」
………
……
…
「百万…あー、寝るか。」
眠気がピークに達し、水を飲んだあと更衣室に移動する。
念の為奥のシャワールールで水が出ない事を確認した後寝室に寝転がる。
換気扇の音と水がペットボトルに垂れる音をBGMにすぐに眠りにつく。
翌日、またあいつと挨拶を交わし作業に取り掛かる。体が硬くなれば適当に話をしながら歩き回り筋肉をほぐす。いつもの1日だ。
「よーしお前の番だ。もう1度チャンスをやろう。ドゥルルル、1桁目は0?」
ピクッ
「1か?」
フワァ
「じゃあ2桁目は0?………?……?」
……
…
「途中で思ってたけどこれさっきの続きじゃないか。本当に賢いなお前。」
それほどでも〜っと言わんばかりにまた軽く光る。
「……頑張るか。ちゃんとした太陽の光に当ててやるよ」
そして時間が過ぎていく。もう今日にでも餓死しそうだ。爪を囓り空腹を誤魔化すが爪はもう殆どない。
痛みが眠気を覚めし、諦めずに入力作業を無心で続ける。
そして、ふと違和感を感じる。
手首の感覚がなくなったのだ。まるで糸が切れた人形のように。足元も震え、覚束なくなり、気がつくと樹の前に来ていた。
「っく……あ。。」(食…ついに、きた)
しかしいつもの距離で勝手に足が止まる。
(食って、食って生きても水がなければ数日、腹を下せばすぐに死ぬだろう。そんな俺に食う意味はあるのか?)
きゅぅううぐうぅぅぅぅ!!
と腹の虫が今までにない文句を垂れ流している。
「ぐすっ!…うっ…!」
涙が溢れて来た。涙を拭いて舐めても胸の痛みが無くならない。
その間にペットボトルに少し水が貯まりすぐに口をつける。
きゅぅううううう!
(こんなにも世話になったやつを俺は食べようと言うのか!?)
(もしかしたらいつか助けは来るかもしれない。でももう俺はいい。どうか、どうか、この奇跡の奇妙な樹を誰か見てやってくれ!育ててくれ!)
「もう、いいよ。みんながお前の下で眠るのはそういう事だったんだろ。俺はお前を食べない…もういいよ。もういい。。」
膝から崩れ樹の下へと吸い込まれるように落ちていく。土のベッドが体を吸い込み、瞼のカーテンが闇を作る。
「みて……るか?」
誰かに看取られ死ぬのなら、ここでも悪くない……かな。
そうして初めて換気扇も腹の虫も鳴らない静かな時の中で眠る事が出来た。
そして数週間後、実は弾け、まるで出産のように中から人間を吐き出す。
そしてすぐに次の実を作り出し、元の姿へと戻ろうとする。
しばらく時間が経ったあと男は気がついた。
「ここは、どこだ?」
夜中にエナドリキメてMIB見てたら思いついて朝に出来てたので初投稿です。
読んで頂いてありがとうございます。