七不思議の五番目、物欲の怪 その伍
「なあ、高田。何で貧乏揺すりしてんの?」
「お前が考えろって言ったからだ」
「いや、だって高田がやりたそうにこっち見てたから......」
「そうなんだけどさ」
新島と高田が睨みあっていると、土方がそれを遮った。
「あそこに座っている外国人のことだが」
土方が指差した人物を新島と高田が見た。髪を切って、髭を生やしてはいるが紛れもなくローレンス・ボープレ本人だ。休憩兼飲食スペースの椅子に腰掛けて、この図書館の本を読書していた。
「どうする? 声かけるか?」
「何で? ボープレさんが覚えてないかもしれない」
新島と土方でごちゃごちゃ話し、新島は結局ボープレの元に歩いて行った。
「Long time, no see. do you remember me?(久しぶりですね。私を覚えていますか?)」
ボープレは驚いたが、彼を新島だと認識すると立ち上がった。
「ニイヅマ! ニイヅマじゃないかい?」
「日本語が話せるようになったんですね」
「昨年に日本に来て、一年間日本語を勉強したのサ!」
「一つだけ訂正です。私の名前は『ニイヅマ』ではなく『新島』です」
「オォー! そうだったのカ! だが、懐かしいな。一年ぶりくらいかな」
「そうですね。一年は経ちますね」
「久々にあったのも何かの縁だ。何か手伝えることはないかネ?」
「なら、聞きたいことがあります。物を飲みたくてたまらなくさせる方法はわかるでしょうか?」
「物欲を湧かせるMethod(方法)か......。確か前にアメリカで話題になった宣伝広告法があった気がするぞ」
「! それは何ですか?」
「サ......」
「サ?」
「サブリミナル効果だ!」
その後、ボープレは八坂市中央図書館を出て行った。新島はボープレの言った結論を他の四人に伝えた。
「なるほど」土方はドリンクのペットボトルのキャップを回して外した。「サブリミナル効果を使ったとなると、納得はいくな。だが、給食の前に映像など見ないはずだぞ」
「実は聴覚のサブリミナル効果はあるらしい」新島はスマートフォンを取りだして、検索エンジンを使って検索を始めた。「まあ、聴覚のサブリミナル効果と言っても明確にあるとは断言出来ないレベルだ。
視覚のサブリミナル効果の場合は、状況が限定的なものの物欲を生むことは可能。例えば、『アイスティー』という単語を映像に視覚で感知できない程度の短さで忍ばせても効果はないが、アイスティーの銘柄『Lipton Ice』を忍ばせるとリプトンアイスのアイスティーを選択させることが出来たらしい。それを聴覚のサブリミナル効果に応用させた。おそらく、給食の牛乳の銘柄の名前を感知できないレベルの音の大きさで給食放送で流す曲に忍ばせて、聴覚のサブリミナル効果の実用性を学校側が実験していたはずだ」
「給食放送はどの教室でも聞こえるはずだ。新島の仮説だと無理がある。全ての教室で牛乳を欲しがる生徒が大量発生しただろう」
「やっぱり、そうだよな。そこが難点なんだ。サブリミナル効果じゃない可能性もあるし、放送にサブリミナル効果のある音声を忍ばせていない可能性もある。矛盾が多すぎるんだ」
新島は眉毛を『ハ』の字にして、前のめりの体勢になった。
「そういえばさ、新島」
「何だよ。高田にしては改まった口調で」
「七不思議の二番目はどんなトリックだったっけ?」
「ポルターガイストか。あれは、屋上で演劇部が人混みの劇の練習をしたからだよ」
「違う違う。原理を聞いてるんだよ。プレミアム橋のことだ」
「プレミアム橋じゃない。ミレニアム・ブリッジだ。あれが揺れた原理は、人は人混みを歩くときに他の人との衝突を避けるために無意識に他人の歩調に合わせる心理があるらしく、歩行による荷重は分散せずに周期的なものとなり、橋の固有振動周期が荷重の周期に近かったから、共振により揺れ始めた。そんで、ひとたび橋が揺れ始めると、多くの歩行者が揺れに対応しようとして橋の振動に歩調を合わせるようになり、ますます橋の揺れが激しくなった。
人間の心理上、多くの人の行動と会わせると安心できる。だから、橋の動きに会わせてしまった、というわけだ」
「それだ!」
「どれだ?」
「人は多くの人の行動と会わせるってところだ」
「それが、どうかしたか?」
「牛乳を欲しがる人物がいて、生徒はそれに流されて、聴覚のサブリミナル効果もそれを助長をしたから牛乳を欲しがる生徒が大勢出現したんじゃないかってことだよ!」
「なるほど。そういうことか。それなら、一理あるぞ」
「だろ?」
「だけど、誰が牛乳を欲しがったかが重要だ」
その会話を聞いた三島は、思い出したように両手をポンと叩いた。
「確か、給食中に縄坂教頭と検見川校長が来て牛乳をそれぞれ二本もらっていってから生徒の人達も牛乳を欲しがるようになったんです」
新島は持っていたスマートフォンを置いた。「七不思議には学校の幹部クラスしか関わっていないと、俺は考えている。学校の教職員が全員知っていたなら裏切りもあるだろうからだ。校長と教頭が五番目に関与していたなら、全てに納得がいく結論が出るぞ」
「じゃあ、七不思議の五番目は解決ってことでいいのか?」
「高田......。そういうことになるぞっ!」
「七不思議は、残り一つか!」
「で、七不思議の六番目は判明しているのか?」
「その件か」土方か白い歯を剥き出しにした。「当然、判明している」
新島はうなずいて、スマートフォンをポケットに入れた。頬を掻くと、背筋を伸ばして腕を机の上に置いた。「七不思議の六番目について話してくれ」
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