七不思議の五番目、物欲の怪 その参
新島に促されるまま、三島は自分のクラスの給食の状況を話し始めた。
「今日の給食はスープ、白いご飯にカレー。ヨーグルトと牛乳でした。別に牛乳はおかわりするほど必要になるメニューでもありません。ですが、12時45分から牛乳をおかわりし始めた生徒が増えていき、残本数はゼロになります。最後には生徒同士での奪い合いも起こりました」
「三島。給食を食べている間に何か起こらなかったか? 普段とは違う何かが......」
「普段とは違う何かですか? 給食の味が少し薄く感じました」
「おっ!」高田は大きく口を開けた。「俺も薄く感じたぜ! 特にスープが」
「そうです。私もスープが薄いなって思いました」
「高田は黙ってろ!」
「酷ぇ奴だな」
「俺のクラスの奴も薄く感じたってことは、少なからずそれが原因で牛乳をおかわりしたわけではなさそうだな」
「ええ。私もそう思います」
「だとすると難しくなってくるな。三島のクラスの牛乳が一本でも余っていれば調べてられるんだが......」
「確か牛乳嫌いな子が、もったいないからと言ってカバンに牛乳を詰めていました」
「汚いな。だけど、そいつなら三島のクラスの今日出された給食の牛乳を持っているということか。その野郎の名前は?」
「神崎明という人です」
「所属している部活は?」
「科学部だったと思います」
「科学部か」新島はため息をついて、頭を抱えた。「文化部のくせに部員数が多いんだよな。俺はあんな部活動は嫌いだ」
「行くのか?」
「仕方がないだろ。七不思議の五番目を解決するには、まずは牛乳を手に入れることが大事なんだ。行こうか、科学部に」
科学部。授業での理科の実験ではやらないような調合や爆発の実験、不思議な現象の調査などを行う部活動である。七不思議研究部も、科学部と似た活動をしている。危険な活動内容だが、人気度は高い。文化部でNO.1の部員数で、運動部の部員数と同格程度だ。その人気度から、A棟の四階に部室を構える。A棟四階はかなりの優良物件で、人気度の低い部室などはB棟の上の方の階に部室を置く。
また、科学部と対なす文化部の部活動がひとつだけ存在する。ルビが同じだから非常に間違えやすい。名は化学部。ルビが同じな故に、化学部は化学部と呼ばれる場合もある。こちらの化学部は主に、複数の物質の調合を行う。七不思議の七番目で扱ったテルミット反応は、化学部の行うべき分野だ。
新島は科学部の扉を拳で殴った。勢いよくスライドした扉の奥から、人が出てきた。
「科学部部長の貝澤半二だ。何か用かな? 扉を殴っていたが」
「文芸部部長の新島だ。神崎明はいるか?」
「神崎なら、実験中だ。実験が終わったら呼んでやるよ」
「どうも」
二十数分して、神崎は文芸部部室の扉を叩いた。新島が開けると、無愛想で低身長の男が立っていた。名札には『神崎明』とある。
「あんたが神崎か?」
「そうだ。で、用事はあるのか?」
「ある。今日の牛乳を一本持っているだろ?」
「ああ、持っているが......」
「よこせ」
新島の口調に驚いた三島は、丁寧に牛乳が欲しい理由を神崎に説明した。
「そんなことなら、やるよ」
神崎はカバンから牛乳を出して、それを三島が受け取った。それから、無愛想な顔をもっと無愛想にして部室を出ていった。口が『へ』の字に曲がっていた。
「さて。牛乳をゲットした。早速、実験するぞ!」
新島は牛乳をコップに少し注いだ。そして、高田に渡した。
「俺が飲んで確かめるのか?」
「そういうこと」
「マジ?」
「マジだ」
高田は苦い顔をして、コップに入った牛乳を一気に口に放り込んだ。
「普通のぬるい牛乳だな」
「牛乳をもう一杯飲みたくなるか?」
「全然なんない」
「嘘だぁ!」
「本当だよ」
「なら、俺も飲む」
新島は再度牛乳をコップに注いだ。それを、今度は自分の口に注ぎ込む。
「うん。ただの牛乳だ」
「だろ?」
新島はこの後、どうしようか考えてみた。少しうなってから、机の引き出しを開けて文芸部活動記録を取り出した。シャープペンシルでその活動記録に今日の内容を書き込んだ。
『2021年4月28日 (水曜日) 文芸部活動記録
七不思議の五番目に挑むも進展なし。科学部神崎から件の牛乳を受け取る。普通の牛乳だったなり。牛乳に細工なし。牛乳をおかわりする要因は他にあるだろう。少なからず、やはり八坂中学校の仕業であることは明々白々である。
明日、4月29日は昭和の日だから休みだ。
記録:新島真』
「おい、新島!」
「なんだよ」
「これからどうする?」
「七不思議の五番目では、牛乳に何の細工もされていないことがわかった。それだけでも収穫じゃないか。今日はこれくらいで終わりにして、烏合の衆の会議をしよう。明日は昭和の日だし、今日中に解決したかったが仕方ない」
「オーケー。帰り支度を始めよう」
帰り支度といっても、戸締まりと使用した道具を片付ける程度だ。ほんの数分で帰り支度は終わり、一行は部室を出ていつも通り新島の家に向かった。高田は右手で牛乳を握っていた。
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