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七不思議の四番目、漏水の怪 その伍

「よし。じゃあ手品をやろう!」

 唐突に、高田がそう叫んだ。新島は唖然とした。

「手品? 何をやるんだよ」

「まあ待て、新島。多分、今回の七不思議の四番目の解決のヒントを与えてくれるはずだ」

「仕方ない。その手品で用意する物はあるか?」

「透明なプラスチックのコップを二個と、短い紐をよこせ」

「へいへい」

「あと、ある程度大きい布」

「わかったよ」

 新島は部室の棚からプラスチックのコップを二個取り出し、ダンボール箱を開けて一本の紐を引っ張りだした。

「ほら。用意したぞ」

「布がない」

「なら、俺の予備のハンカチをやる」

「サンキュー」

 高田は新島から大きいハンカチを受け取った。

「で、どうすんの?」

「急かすな」

 高田は机を一つ、隣りの空き部屋から運んできた。その机の上にプラスチックのコップを二つ並べた。片方だけに水が入っている。紐を吟味すると、水の入ったコップの底まで紐の端を入れた。紐のもう片端は水の入っていない空のコップの底につけた。

「では、布を被せます」

 高田の口ぶりに、新島はイラッとした。

 それはさておき高田は、三秒数えます、と言った。三秒経つと、右手を上に大きく上げて指をパチンと鳴らした。フィンガースナップだ。広く知られた名前をあえて言うなら、指パッチンという。フィンガースナップをしてすぐに、左手でハンカチを取った。左のコップに入っていた水が右のコップに移っていた。

「どうだ? 新島?」

「ミスディレクションだろ、それ......」

「フィンガースナップか? 当たり前だろ」

「ミスディレクションは客の注意を別の場所に移す手法だ。右手がフィンガースナップで注目されている間に左手でコップの位置を逆に動かしたんだろ?」

「正解だ」

「これが何のヒントになるんだ? プールとテニスコートを入れ替えたと言うのか?」

「俺は答えを知らないからなんとも言えない。だが、ヒントくらいにはなるだろ?」

「だから、どんなヒントだよ」

「例えば」高田は眉間に皺を寄せて、顎を撫でた。「プールとテニスコートを連結させるとか、テニスコートをプールにしちゃうとか」

「意味がわからんな」

「ちゃんと俺のヒントを役立てろよ」

「むちゃくちゃだ」

「しょうがないだろ。俺は無垢なんだ。知ってるか? 俺の脳の中身はな、虚無だ」

「ああ、知ってるよ。元からだ」

「自覚はあるが、この俺でさえかなり傷つくぞ」

「そうか。いいことを知ったな。これからも酷いことを言おう」

「硫黄? 俺は有害じゃねぇよ」

「久々に洒落を聞いた。っていうか、硫黄は燃焼すると有害なガスである二酸化硫黄を排出するから硫黄自体は有害じゃない。いや、有害か?」

「有害だよ。粉末でも粉塵爆発の危険性はあるし強酸化剤と反応して火災だぜ?」

「確かにそうだな......」

 新島は何か思いついたように、うねり声を上げた。

「便秘?」

「やかましいな、高田......」前髪をくしゃくしゃにいじった。「社会科の歴史で最近に水時計、漏刻を学んだだろ?」

「つい最近に学んだな」

「漏刻は段々になってて、漏刻で箱から箱に水を移す時はサイフォンの原理を利用していたはずだ。そうか! そうだよ!」

「はぁ?」

「高田が言っただろ? プールとテニスコートを繋げるって」

「ああ、そんなニュアンスの言葉を言ったな」

「実際にプールとテニスコートを繋げたんだよ!」

「はぁ? ごめん、もう一回言ってくんない?」

「実際にプールとテニスコートを繋げたんだよ!」

「はぁ?」

「つまり、プールとテニスコートを繋ぐ道を作ったんだよ」

「道だぁ?」

「そう。その道はプールと一体化しているんだ」

「一体化? あれだな? ロボットの合体か」

「全然違う。目の前で見せた方が早いだろう。手品の器具をそのままにしろ」

「わ、わかった」

 高田は怪訝そうな顔で頭を掻きながら、椅子に座った。新島はどこからか飲み口を曲げることのできるストローを出してきた。そのストローを曲げて、短い部分を水の入ったコップに入れた。

「水の量が少ない」

 新島はプラスチックのコップのギリギリまで水で満たし、『へ』の字のように曲がったストロー内も水で満たす。ストローの長い方の端を指で押さえ、短い方を水で満たしたコップに入れた。指を離すと、勢いよく水が流れ出してきた。新島は少し驚いてから、空のコップで流れてきた水を受け止めた。

「これがサイフォンの原理だ」

「くわしく説明してくれ」

「くわしく説明するとややこしい。簡単に説明言う。ストローに水を満たして、水の入ったコップに入れただろ?」

「ああ」

「すると、ストローがコップと繫がって一体化するんだ。水の入ったコップに穴が開いたようなもんだ」

「なるだろ。そういうことか」

「これは重力によって出来るらしい」

「重力?」

「サイフォンの原理を利用して、プールと一体化させたホースか何かでテニスコートに水を流したということだ」

「ホースか。......もしかして、第一倉庫にあったエアコンのスリーブを使ったんじゃないか? 学校で使っていたものだから長かったし」

「かもしれない。改めて調べてみよう。まさか、高田の言葉がヒントになるとは」

「相変わらず酷いことを言うな」

「当然だ。これが俺のポリシーなんだよ」

「最低のポリシーだな」

「まあ、気にすんな」

「気にするよ」

「サイフォンの原理でプールの水を抜いたことはわかった。水でサイフォンをする場合、7メートルか8メートル程度は大丈夫らしい。プールの中ギリギリまで雨水が入っていたから、実現可能だ」

 新島はサイフォンの原理を実験している最中にプラスチックのコップからこぼれた水を、嫌な顔をしながら雑巾で拭いていた。

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