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卒業 その玖

 次の日、朝から放送での緊急会議があった。卒業式に関係している話しで、学校側はテロを予見しているらしかった。

 同日の放課後、文芸部部室では早速、その(くだん)のことを話し合っていた。

「新島」土方の口調はかなり神妙だった。「卒業式での事件のトリックはわかったのか?」

「いや、まだだ。それと、体育館を調べてみたいが箝口令(かんこうれい)と規制が出されていて無理そうだ」

「なら、どうすると言う?」

「体育館の窓ガラスにどのような細工が施されていたか調べるしかない」

「だから、どうやって?」

「生徒会に話し合う必要がありそうだな」

「生徒会?」

「そう。生徒会は卒業式の椅子や垂れ幕などの設置を行っている。その時に、窓ガラスに違和感はなかったかと聞くんだ。そしたら、細工がどういうものかわかる」

「なるほどな。だが、私達は生徒会役員へのパイプがない」

「......。先輩の友達の、三鷹先輩は?」

「三鷹ちゃんも、生徒会役員の知り合いはいないと思う」

「だとしたら、どうしたものか......」新島は難しい顔をして、腕を組んだ。

「鈴木真美はどうだろう?」

「いや、これ以上貸しはつくれない」

「そうか、まいったな」土方は眉をひそめた。

「さて。これこそ、万策尽きたか」

「ん?」

 突如、土方は何かを思い出したように声を上げた。新島は驚いて、どうした?、と尋ねた。

「体育館の窓ガラス、なぜか光っていた気がするぞ」

「窓ガラスが光る?」

「そうだ。光を反射している感じだった」

「反射? ガラスだから、当然だろ?」

「いや、ガラスの反射のそれとは少し違った」

「ガラスの反射とは違う、か」新島は部室の隅から隅を円を描きながら歩き回った。「もしかして、体育館の外との温度差での結露じゃないかな?」

「結露? あ、そうかもしれない」

 卒業式が行われた日の朝は異様に寒く、結露が起こっても仕方がなかった。それに、エアコンが各家庭で広く使われるようになってからは夏にも結露が起こりうると聞いたことがある。

「結露か。だったら、細工がやりにくいかもな」

「そうだな」

 新島と土方は思考を凝らしながらうなった。それから一時間は考え込んでいたが、行き詰まっていた。

 新島はため息をついた。「ずっと考えていたら、喉が渇いたな」

「私は、お腹が空いたぞ」

「高田は?」

 二人は高田のいる方へ向いた。彼はすでに眠っていた。

「まったく......」土方は毛布を手に取って、高田に投げつけた。「毛布にでも包まっとけ」

「水はなかったかな?」

「冷蔵庫に入っていたはずだ」

「ああ、ありがとう」

 新島は冷蔵庫を開いて、水の入ったペットボトルを取りだした。それを一気に飲み干すと、空のペットボトルをゴミ箱に入れた。

「なあ、お腹が空いたぞ」

「いや、ここ部室だから食料という食料はないなぁ......。ただ、コロッケが冷蔵庫に一個入ってるな」

「じゃあ、それを食べるか」

 新島は冷蔵庫からコロッケを取って、土方に渡した。土方は最初、コロッケをそのまま一口食べた。だが、冷たかったらしく、部室の隅にある電子レンジに入れて一分温めた。その電子レンジは古い物で、500Wだ。

 電子レンジの特徴的な『チン』という音がすると、土方はコロッケを取りだして、口に運んだ。

「おぉ! うまい!」

 新島は椅子に座りながら、その光景を見ていた。

「あっ! そうだよ。電子レンジだ」

「電子レンジがどうかしたのか?」

「犯人は電子レンジと同じ原理を利用して、窓ガラスを割ったんだ」

「電子レンジ?」

「そう、電子レンジ。電子レンジが物を温められるのは、マイクロ波を使っているからだ。マイクロ波で水を振動させて発熱するマイクロ波加熱という原理だが、そのマイクロ波を利用して窓ガラスを破壊させた」

「窓ガラスにマイクロ波を当てると、熱くなるのか?」

「いや、窓ガラスに水分が付いてなかったら割れないだろう。だが、体育館の窓には?」

「結露して水が付いてた!」

「そう。その水が振動して、窓ガラスが割れちゃったんだ」

「だとしたら、体育館のどこかにマイクロ波を出す装置があるな」

「ああ、おそらくな。で、次は誰がそんなイタズラをしたのかだが......」

「窓ガラスを全て割るのを、果たしてイタズラと呼べるか否か」

「呼べないだろうな。イタズラの域を超えている」

「まあ、そのことは犯人に問いただすとしよう」

 新島は犯人の手掛かりを探すため、卒業式の時のことを思い出そうとしていた。椅子から立ち上がり、壁に寄りかかった。「犯人は卒業生の可能性が高いな」

「何でだ?」

「わざわざ卒業式に窓ガラス破壊を行ったということは、その卒業式を境に八坂中学校からいなくなる卒業生が行うための動機は十分だ」

「だとしたら、一番怪しい人物が卒業生にいるじゃないか」

「俺も、先輩と同じ考えだ」

「鈴木真美だな」

「ああ」

 鈴木真美。七不思議の全てを解明し、八坂中学校のパンドラの箱を開けた一人だ。動機はおそらく、卒業までに学校への報復だろう。

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