卒業 その肆
「で、先輩と高田」新島が言った。「俺に他に用はあるか?」
「俺たちがお前の見舞いに来るのに、口実はいるのか?」
「くわしいことはわからんが、いらないんじゃないか?」
「何だよっ! 用はないが、何か話そうじゃないか」
「そうだな」
新島は頭を左手でポンポンと叩いた。高田は何かを思い出したように、カバンを開いて本を取りだした。
「そうそう。新島が読んでいた探偵ガリレオシリーズの二冊目『予知夢』を読んでみたが、面白かったよ! 『騒霊ぐ』は本当にポルターガイストだったな。日常の謎っぽいが、わざわざ人を殺しちゃってるな」
「人を殺さないと、刑事で語り部の草薙が動けないからだろう。だが、面白かっただろ? 俺は『予知夢』だと『絞殺る』と『予知る』が好きだ。どのキャラクターが好きなんだ?」
「草薙俊介だよ」
「草薙俊介?」
「そうだよ」
新島は腕を組んだ。それから、口を開いた。
「お前、『探偵ガリレオ』は読んでないのか。ドラマも見ていないね。高田のお父さんは推理小説好きなのか? その本はお父さんのものだろ?」
「なんでわかったんだ!」
「草薙俊介という名前だ。『予知夢』の単行本と文庫本の初期では草薙俊介と誤記されているんだが、それ以降は草薙俊平と正しく直されている。高田が今持っている『予知夢』は大きさから考えて単行本だ。他の本、『探偵ガリレオ』では草薙俊平とされている。今売っている『予知夢』を買えば、草薙俊平と表記されているだろう。高田が読んだ『予知夢』は家にあった物だ。中古で高田がわざわざ買うとは思えない。高田の家は高田以外にはお母さんとお父さんの二人だけ。高田が以前言っていたが、お前はお母さんに似たそうだ。高田は基本的に推理小説は読まないから、お父さんが推理小説好きで、『予知夢』の単行本を持っていたということ。ドラマでは草薙俊平と表記されている。
まとめると、高田はドラマを見ていない。『探偵ガリレオ』を読まずに単行本の『予知夢』を読んだこと。お父さんが推理小説好きなこと(これはこじつけがましい)。その本がお父さんのもの。という点だね」
「あの一言でそこまでわかったのか」
「まあ、当然だよ。俺が好きなキャラクターは湯川学だよ」
「大体、そうなるだろうな」
「読んでいくと、登場人物も意外と出てくるぞ」
「わかった。読んでみよう」
高田はカバンに『予知夢』を突っ込みなから話しを続けた。
「新島の推理力はどこから湧いてくるんだ?」
「言っただろ? 親父のゴーストライターをやっていたって」
「親父さんは推理小説家なのか?」
「さあな」
「何だよっ!」
「まあまあ」
新島は自分の顎を左手でなでた。
「新島が退院したら、俺達三人でまた遊ぼう」
「俺が退院するのは明後日。だが、もうすぐ先輩は卒業」
「あと一週間で卒業式だったな」
「そのようだ。見舞いに来た先公がそう言っていた」
「先公? 誰が来たんだ?」
「担任の八代だ」
「なぁるほど」
土方は納得して頭を叩いた。高田は腕を組んで話し始めた。
「実は......色々調べた結果、七不思議の三番目が判明した」
新島と土方は声をそろえて、何だって、と言った。
「三番目も二番目同様に怪奇現象に近い。ただ、三番目は様々な証言を基礎に構成された話しなんだ。つまり、信憑性に欠ける」
「話してみろ」
「わかった。......と言っても、長い話しではないんだ。単純に、窓ガラスが勝手に割れるというものだ。どのような状況、条件がそろって発生するかわからない。故に、八坂中学校がどのような意図で窓ガラスを割ったか、またどのようなトリックを用いていたのかは今のところ不明だ。まあ、内容が少しわかっただけでも奇跡に近い。何せ、最近は窓ガラスが割れることはないらしい。廃部になったとある部の活動記録や、元八坂中学校生徒の兄や姉から話しを聞いた現八坂中学校生徒の弟や妹の証言が残るくらいだ」
「なるほど。伝聞された話しを伝聞したわけだから信憑性が低いわけだ」
「まったくその通りだよ」
「窓ガラスが以前割れた場所はわかるのか?」
「不明だ。だが、八坂中学校創設から現在まで七不思議以外にも窓ガラスが割れることはあった。それらをひっくるめて、窓ガラスが割れた場所はわかった」
「つまり、いままで割れた窓ガラスの場所はわかるが、そのうちに紛れ込んでいる七不思議が原因で窓ガラスが割れた時の場所までは判らないということか?」
「ああ、そういうことだ」
新島は病人ながらも、一人前に頭をフル回転させた。
「いままで割れた窓ガラスの場所から、七不思議が原因で窓ガラスが割れた場所を特定しよう」
「どうやって?」
「それは知らんが、やってみてからじゃないとわからないだろ?」
「まあ、そうだな」
「な?」
土方は、椅子から立ち上がって新島の前に立った。
「では、七不思議の三番目の解決は君たちにまかせるとする。私は明後日、八坂中学校生徒ではなくなるからな」
「行く高校は決めているのか?」
「新島はかなり無粋なことを聞くんだな。もちろん、八坂高等学校だよ」
「なら、高田と一緒に八坂高等学校を目指すよ」
「待っている。私がいない一年間で、文芸部がどう変わったか、聞かせてもらうとする」
彼女は白い歯を出して無邪気に笑い、新島の頭をなでた。
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