稲穂祭と予言者 その伍
軽音楽部活動記録(1)
平成三年 四月五日
記録:北村新二
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「これより、軽音楽部初の部活動を始めたいと思います」
彼が軽音楽部部長の一色一哉だ。
現在、軽音楽部の部員は私・北村新二と部長を含めて三人。つまり、もう一人だけ部員は存在する。二年五組の遠山寛二。知っていると思うが、遠山は不登校だ。だから、部室にすら顔を出さない。実質、軽音楽部に部員は二人しかいない。
「部活動と言っても、何をどうするんですか」
「よく聞いてくれた。まずは、皆の前で演奏できる程度にはしよう」
「って、私はギターで部長はドラム。ボーカルがいません」
「よく聞いてくれた。これから部員を一人だけ勧誘しよう」
「勧誘って...出来るわけがありません!」
「不可能と思われることも、やってみれば出来るんだ。源義経の逆落としや、豊臣秀吉の中国大返しも不可能とされただろ?」
「部長! 一つだけ訂正したいです」
「良いよ。話してみな」
「まず、現在の馬はサラブレット。サラブレットは急な斜面に弱いです」
「だろ? だから、不可能な物事もやってみれば出来れる──」
「違います。当時の馬はモンゴルから来た身長の低い力の強い種類。急な斜面も余裕ではありませんが、サラブレットに比べれば遙かに降りやすいのです」
「雑学ありがとう」
「まだあります。中国大返しは一週間で二百キロ。一日あたり二、三十キロ歩くことになります。中国大返しが行われていたのは夏。日照時間が長い。一日七時間ほど歩けるとして、計算すると時速二、三キロ。大体人が歩いているスピードと変わりません」
「雑学ありがとう」
今日の活動は終わった。
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「なあ、新島」
「何だ?」
「この活動記録、ゴミだな」
「だな。どの年の見る?」
「そうだな...一応、今年まで目を通そう」
稲穂祭初日。七不思議と予言の手紙についての進歩はほとんど無く終わった。
新島は高田と土方に何も話さず、鈴木真美の家の前で待った。大体三十分ほど待つと、八坂中学校の女子の制服を来た女が近づいてきた。
「あなたが鈴木真美先輩ですか?」
「そうだけど?」
「文芸部部員の新島真です。先輩が予言の手紙を高田の家に投函したんですよね?」
「あなたが新島君ね」
「そうです」
「やっぱり、あなたが一番頭がキレるようね」
「一応、そういうことです」
「あなたは私が何で予言の手紙を出したか知りたいのよね?」
「もちろんです」
「教えないわ。あなたがその真実を見つけるのよ。私じゃなにも出来ない」
「?」
「どういうことですか?」
「七不思議の一番目」
「...!」
「あの事故は意図的に行われているのよ」
「その仕掛けを知っているんですか?」
「知っているわ。でも、あなたが見つけ出しなさい。そうすれば、何もかもがわかるの」
「何もかも?」
「八坂中学校の真実を知るための鍵の在処がわかる鍵。つまり、これだけじゃ終わらない。あなたが卒業するまでに七不思議を全て解決してね。その先に八坂中学校の真実がある。
私は一度そのパンドラを開けて、そしてひどい目に遭った。でも、あなたならきっと...」
「パンドラの中身はもしかして...」
「八坂中学校の私情、他にも諸々。私が言えるのはここまで...」
「あ、待ってください!」
新島は鈴木が家に入るのを食い止めた。
「何よ」
「七不思議の七番目は学校の私情に関係がないはずです」
「あなたはもしかして、七番目の謎を解いているの?」
「ええ。カイロのテルミット反応ですよね?」
「ええ、そうよ」
「それが、何か?」
「七番目は何も知らない一年生が勝手に七不思議にしたの」
「もしかして...」
「あなたの思う通り。実際は七つではなく六つ。ゴロがいいからって七つにされたの」
「七不思議研究部は知っているんですか?」
「知らないと思うわ」
「あなたは全て解いたんですよね?」
「ええ」
「なら、俺もやってみます。汚職を解決します」
「頑張りなさい」
鈴木は家に帰っていった。
「まさか、八坂中学校のパンドラの箱が七不思議だったとは...」
新島はその場に座り込んだ。
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