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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

GGX【 駅の怪】

※このお話は筆者の蒐集した実話怪談をアレンジしたフィクションです。筆者は犯罪行為に手は染めていないので通報とか御遠慮ください。


※意味深な名称、本編では書かなかった設定等については後書きで解説をしていますので宜しければそちらまでお楽しみ頂ければ幸いです。

「ミサキちゃん、ちょっと出かけないと行けないんだけど30分くらい1人でお店お願いしていい?」


「はい、多分大丈夫かと」 

そう言ってオーナーのマサカドさんは出かけていった。店内には常連が3人。

私は知り合いの伝手でこの【GGX】というバーでバーテンダーのバイトをさせてもらっている。このバーのお客様は話好きが多い。

 中でも寺島さんという割と最近よく来るようになったお客様は、マシンガントークと言っても過言ではない程の話好きなのだが、今日はどうも様子がおかしい。いつもなら私が聞いていなくても無限に飛び出すトークがないばかりか、しきりに背後の入口を振り返っている。

私がその仕草を見ていることに気づいた寺島さんは苦笑いをしながら語り始めた。店内のオレンジ色の薄明かりが落とす影で彼の顔に死相を思わせる表情が浮かんでいた。


「や、ちょっと怖い目にあっちゃいまして、後ろが気になって落ち着かないんですよ・・・・・・」


 寺島さんは30代のエリートサラリーマン然とした人だ。博識かつ色々な方面に顔が利くそうで、付き合いのある方が私が知っているような大企業の営業さんだとか、大手出版社の編集さんだとか割と立派な社会人といった人達で、最近ではビルを立てる土地開発に絡んでいるとかで工事関係の人の接待が忙しいとか話をしていたはず。


「後ろが怖いって、こないだの仕事絡みでヤクザのヒットマンに狙われてるとか?それとも逆に警察です?」


 私が半分冗談でそう聞くと寺島さんは苦笑いを引き攣らせて語った。



「そっちの方がよかったかなあ。コネでなんとかなりそうですし。つい先日なんですが、同業の不動産屋の知り合いから良い部屋を紹介されたんで借りちゃったんですよ」


「ああ、前からセーフハウス作って奥さんにバレないように趣味で埋め尽くしたいとか言われてましたよね」


カラン

寺島さんのウィスキーの氷が小さな音を立てる。店内に流れるジャズはトランペットのソロに入ったところだ。情熱的な演奏に煽られるかのように寺島さんはグラスの中身を一気に飲み干すと少し間を開けて続ける。


「ええ、そうなんですよ。貸倉庫にしまってあるアイドルグッズはお宝なんですが妻や子供には知られたくないものですから。で、その物件て隣のきさらぎ駅から徒歩5分のマンションで、昭和52年築なんですけど何と水道光熱費無料で5万円。会社行くのにも便利ですし、特急も止まるから即決したんですがね」



「あ、私もきさらぎ駅使っているんですよ。意外と会わないものですね。それで、何がこわかったんです?」


私の借りているところが10畳ワンルームで12万円だから破格の条件だがそのマンションが何か背後に関係あるのだろうか?

私が小首を傾げるとグラスの氷をカラカラと回しながら寺島さんはまた背後を振り返る。



「あー、言わなきゃ良かったかなあ、おなじ駅使ってるなら尚更申し訳ないんだけど・・・・・・その部屋、5階なんで20mくらいの高さなんですけど駅のホームが見えるんですよ。それで黒いセーラー服の女子高生と、目が合ったんですけどその時は気にしなかったんですよ。ただ、少しして何か違和感があって・・・・・・今って夏じゃないですか?おかしいんですよ。あれ冬服だよな??とか考えてたら後ろから「見てたでしょ?」って声が聞こえてきましてね」


「今、後ろにいるんです?」


私が冗談でそう言うと寺島さんは、また後ろを振り返って嫌そうな素振りを見せる。


「いやいや、やめてくださいよ、そんなことあるわけないじゃないですか」


「でもさっきから後ろ気にしてますよね?」


「梅の香りって分かります?ふんわり甘いような」


「梅酒みたいな?」


「あー、そう、梅酒かな?近いのは。その時ね、そんな香りが部屋に漂ってたんですよ。直前までそんな匂いしなかったのに」


寺島さんはそこまで言うと深々とため息を吐いた。


「でも本当に怖いのはその後なんですよ」


「何があったんです?」


「その女子高生が立っていたところってホームのだいぶ端っこなんで電車そこまで行かないところなんですけど、駅を利用する度に見かけるんです。ずーっと立ってるみたいなんですよ・・・・・・」


寺島さんの声には覇気がなく、本当に怖がっているのが伝わってくる。


「見間違いとか、じゃないみたいですね?」


「ない、と思います。おまけに毎日ちょっとずつ近づいて来てるんですよ。最初は見間違いだと思ったんですけど、本当にいつ利用しても駅のホームにいるんです。なるべくそっちは見ないように電車に乗ってるんですが、さっきここに来る時、そこの廊下なんですけど、部屋で嗅いだ梅の香りが後ろから漂ってきて・・・・・・」


「でも、その部屋使われるなら、きさらぎ駅しかないですよね」


寺島さんは先程までより更に深いため息を吐いた。


「明日はあの部屋から会社出ないと行けないんですよ、この後帰るの怖くて怖くて」


カランカラン

裏口の開く音がして寺島さんは少しびくっとしていた。


「ただいま。ミサキちゃんありがとうね。おかげですぐ済んだよ」


マサカドさんが帰ってきた。時計を見ると時刻は23:30を回っていた。私が時計を見るのに合わせて寺島さんも時間を確認して言う。


「マスター、会計お願い。余裕あるうちに帰りますわ。でも嫌だなあ、帰りたくないなぁ」


寺島さんが1万円札をカウンターに置いて帰り支度を始める。


「寺島さん、すぐ上がらせるから駅までついでにミサキちゃんと一緒に帰ってもらっても良い?。俺この後片付け残ってて遅くなっちゃうから電車の時間終わっちゃうんだよ」


私はもちろん成人はしているのだけど、同年代と並ぶと比較的若く見られるというか、見た目が10代の頃と大差ないせいかマサカドさんはことある事に私を子供扱いして世話を焼きたがる。


「え、むしろ良いんです?怖い話してたから願ったり叶ったりですよ」


「お、ひきうけてくれる?さっすが寺島さん、男前ー。ミサキちゃんと帰ると命が何個あっても足りないからまだこの世に未練があるなら断ってくれてもかまわないから」


マサカドさんがよく分からないテンションで茶化す。私は特に取り合わずに帰る用意をしにいく。


「じゃあ、すぐ準備しますね」


私は着替えを済ませると店を出る前にもう一度だけ、マサカドさんに本当に良いのか確認する。


「うんうん、ミサキちゃん最近頑張ってくれるしいいよー」


だいぶ軽い返事を聞いて寺島さんとGGXを後にした。





最寄りの東きさらぎ駅までは特に何も無かった。

寺島さんのお子さんの話とか、マサカドさんて結婚してるのかなとか、雑談をしながら帰る。

ホームに到着するとすぐに電車が来る。車内はガラガラで1両に1人2人乗っている程度だった。

座席に座った寺島さんがぽつりと呟く。

私は吊革に捕まって立ったままそれを聞く。


「最近のビルを立てる関係の仕事で小さい神社を潰すことになったんですけど、その祟りだったりするのかなあ」


「それは、また別だと思いますよ?駅に関係ないじゃないですか」


「それもそうですね、ああ、でもまたいたら嫌だなあ・・・・・・」


東きさらぎ駅のすぐ隣がきさらぎ駅、電車に乗って5分きっかりで私達はきさらぎ駅に到着した。電車から降りた乗客は数人で、それぞれが亡霊のように頼りない足取りでフラフラと改札へ向かい消えていく。

ホームにはむせ返るほどの梅の香りが漂っていた。

そんな中、寺島さんだけが降りたところで固まっていた。


「ミサキちゃん、あれ見えます?」


寺島さんが震えながら指さしした方向には黒い冬服の女子高生のようなモノが確かに立っていた。


「あれが話ていたやつです?」


私が見ているとそれの頭がガクガクと高速で揺れる。カメラに高速で動く物体が写りこんだような現象だ。


ゴボゴボ

頭を振り乱しながら黒い血を吹き出しながらソレは近づいてくる。


『みた・・・・・・で・・・・・・しょ?』


口から黒い泡を吐き出し、手足を振り回しながらソレは言う。


『貴方、見てたでしょおおおお!!』


寺島さんの直前でソレはバラバラの肉片へと爆ぜた。


「ヒィぃ!!?」


咄嗟に顔を庇うように両腕をクロスさせてしゃがみ込んだ寺島さんの足元にソレの頭が転がっていく。


『あの部屋からずっと見てたでしょう?』


「お取り込み中失礼しますね」


私は問答無用でその頭を踏み潰した。恨みがましい目玉が転がって消えていく。


「ちょ!?え!?」


「邪魔だったのでお帰り願いました」


寺島さんは辺りからアレの気配が消えたこと、梅の匂いが消えたことに気が付き、安堵のあまり腰が抜けたのか、尻もちをついた。


「いや、本当に怖かった、なんなのあれ!?ていうか、ミサキちゃんて霊感少女だったんだ!?マスターもこのこと知ってたから一緒に帰るよう言ってくれたんだね、ははは」


寺島さんは勝手に合点がいったようで、頭の中の整理を付けようとしている。


「いいえ?違いますよ。ところで、腰抜けましたか?立てます?」


私が手を差し出すと寺島さんはソレを掴む。


「ああ、すみません、まだ酔ってるのかな?夢じゃないですよねこれ?」


私はぐいっと力を込めて寺島さんを起こす。本当にまだ酔いが回っているのかたたらを踏みながらフラフラとする寺島さんに別れを告げる。


「残念ながら現実ですよ。それではお別れです。今まで色々なお話ありがとうございました。さようなら」


「え・・・・・・さよ、なら?なんか今生の別れみたいだなぁ」


私は寺島さんの胸に手をそっと置くと、思い切り黄色い線の向こうへと突き飛ばした。


「これが神社の分です」


私の声が聞こえたかどうかは分からない。寺島さんが何かを言う前にホームに特急電車が滑り込んできたから。





カランカラン

【GGX】の裏口を開けるとマサカドさんが料理の仕込みをしていた。


「お、ミサキちゃんどうだった?」


「はい、ちゃんと送りましたよ」


先日の顛末についてお話するとマサカドさんは嬉しそうに笑った。


「ありがとねー。お陰様でうちの神社潰されなくてすんだよー。ミサキちゃん後何人だっけ?」


「あと3人なんでお陰様で半分切りました」


私のノルマ、7人を電車で殺す。寺島さんで4人目。残りは3人。


カランカラン


「あ、お客さん来ちゃった。ミサキちゃんカウンター出て、まだちょっとかかるから」


「はい」


BAR【GGX】は本日も営業中。美味しいお酒とオーナーの創作料理、楽しいお話を御提供させていただいております。

ただ、お客様によってはお代が別会計になってしまうことがありますがご了承くださいますようお願い致します。






仕事が忙しくてスランプでしたが、リハビリを兼ねて書いてみました。

楽しんで頂けたら感想などいただけると励みになります。


以下ネタバレ


・【GGX】=【たたり】です。ヒントはスマホでたたりを変換するとわかります。祟られてる人間と祟っている悪霊はお客様として入れます。


・ミサキちゃん=7人みさきです。何代目かは不明。7人殺さないと抜けられないので一生懸命殺してます。祟り繋がりで【GGX】でバイトしてます。平成1桁代に死んでるので実年齢は半世紀近いけど見た目はティーンネイジャー。霊だし。


・マサカドさん=平将門公です。【GGX】は祟り全般の怨霊のみで経営しているBARです。得意料理は平家風サラダ(ヘイケガニのほぐし身が隠し味)。神社のオーナーもやっています。ミサキちゃんは新米の怨霊なので面倒を見たいお年頃。マブダチに崇徳院がいる。


・寺島さん=筆者の知り合いがモデルです。将門塚のある神社をビル建設の為の開発事業で潰そうとしたことがきっかけで【GGX】に通うようになってしまった不幸な人。物語の後、駅のホームで女性を見かけると『ミサキちゃん、なんで?』と聞いては爆散するようになっています。


・黒いセーラー服の女子高生=実はミサキちゃんの先輩の7人みさきです。広い意味ではこいつもミサキちゃん。ただしこちらは自我が残っていないのでミサキちゃんは自分のお仕事優先で踏み潰してます。別に成仏とか消滅とかしてないので7人殺すまで無限にホームで爆散します。

寺島さんの借りた部屋に住んでいた男と同棲していましたが電車事故で死んでいます。男はそれを部屋から見ていたため精神を病んで退去したという。


・きさらぎ駅=ネットで噂のきさらぎ駅・・・・・・から名前だけもらいました。実はその怪談つまらなそうで読む気がわかなくて(オイ)実名の駅で轢死体とか出すと怒られそうだけどこんな駅なら何しても文句ないんじゃ・・・・・・的な理由で出しただけです。きさらぎ駅マニアの方ごめんなさい。



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