青い春の足跡
山陽新幹線で東上することがあったら
左の窓を見て欲しい
博多を離れ新下関
福山城が見えたら行き過ぎ
姫路城なんて手遅れもいいところ
平和都市駅出たすぐの
緑の深い丘の上
パック入りの小さな鏡餅みたいな
ヘンなかっこの塔があるからさ
仏舎利塔って言うんだよ
高二のクラス替え直後
本人ふたりが打ち明ける前
だだ漏れの両想い認定されて
古文の先生までもが「雨夜の品定め」使って
君を困らせたよね
だから告白の言葉は憶えていない
憶えているのは君の家の方角から
学校のほうへ流れる放水路
初日の出を見た庚午橋
丘の上の仏舎利塔
君はサッカーが強くて体育の先生になれる国立
私は外と行き来する魔法の絨毯が欲しかった
「一緒に関西に出よう」それは合言葉になって
母校に合格報告を済ませると
君は夜景を見せると誘った
平和公園は見えていたろうか
地面を歩きまわる蛍のような
チンチン電車は見えたのだろうか
私は君のことで頭がいっぱいだったのだろう
仏舎利塔を背にして隣の体温だけ
広島弁でしていいかと聞いたと思う
初めて触れた唇は熱くもなく冷たくもなく
両想いだと同じ温度だと知った
力の抜けた私の腰を
君はぐっと引き寄せた
グレーにちょっと緑と紫
君のセーターに顔を埋めて
スポーツ心臓には速い鼓動を聞きながら
男の人は唇より熱いところがあると知って
自分の躰のことはわかってなかった
「時間だよ。帰らなきゃ」
うちの門限を守ろうとする君
手を繋いでくれて足を踏み出したら
膝がかくんとした
丘の麓の駅まで降りなきゃならないというのに
春が来て溶け込もうと
君は京都弁、私は似非大阪弁
でも京都と大阪が遠いとわかってしまった
「頑張れば逢える距離」は
「無理しないと逢えない距離」に変わった
「ごめん」と言ったのは君のほう
「嫌いになったわけじゃない」
でもたくさん泣いて恐くなって
好きな人よりも好きになってくれる人と
付き合うことにした
大人になって再会して抱いてもらって
宙ぶらりんの想いに決着をつけた
実家に帰る度に君も
仏舎利塔を見上げていると思う
ふたりの春の足跡があそこに残っているから
待たせて困らせても大事にしてくれた優しい君のことだから