俺にも遂に猫型ロボットがきた。
俺は実家の子供部屋で暮らす無職、今年で40だ。そんな俺が今日も一人で子供デスクでマッチ棒でオリジナルの基地を組み立てていたところ、どこからか声が聞こえた。
「ねえ、君はいつまでそんなことしてるの。」
俺ははっとして振り返り、部屋のなかを見渡したが誰もいない。何だ気のせいか。遂に幻聴まできこえるようになってしまったか。やれやれ、と思いマッチ棒作業に戻った。
「ねえ、ここだよここ。」
俺は驚いて、また振り返るとそこにはしゃべるロボットがいた。あまりの出来事に俺は声を失った。もっともここ数ヶ月、家族とすらほとんどしゃべってはいなかったが。しばらく唖然としたあと、ロボットはこう続ける。
「まったく、君は本当にのみこみがわるいな。」
ロボットはそれから無言の俺に向かって、滔々と語り始めた。彼はなんと未来の世界からやってきたロボットであり、不甲斐ない俺のせいで苦労をしている未来の俺の子孫がすこしでも現状をよくするために、俺の人生を矯正しにきたというのだ。なんということだ。どこかで聞いたことのある話だ。
彼の話を飲み込むと、俺は期待に胸が高まった。思えばこの数十年、俺は見事なまでの社会不適合の人生を送ってきた。数々の就業先であまりの仕事のできなさに上司に怒鳴られ続け、同僚からは忌み嫌われ、解雇されるか、あるいはいたたまれなくなって仕事をやめるということを延々と繰り返してきた。精神的にまいってしまった俺は実家の世話になりひっそりと生活することに甘んじてきたのである。
そんな俺に遂に救済の手が差し伸べられたのである。ときは満ちた。俺が変われるチャンスである。俺は一から人生をやり直せる気がした。このロボットのもたらすアドバイスと未来のテクノロジーによって、俺の人生は劇的によい方向に変わっていくのだろうと予感した。人並み、いやそれ以上に仕事ができるようになり、人間関係も良好になる。なにか発明して金持ちになれるかもしれない。恋人も出来るだろう。たとえそんなにうまく行かなくとも、身近に何でも相談に乗ってくれる相棒のような存在がいてくれるだけでもとても嬉しいような気がした。
そう期待に胸を膨らませていたところ、俺の子供デスクの引き出しから、新たに一人の少年がでてきた。少年はでてくると、おもむろにしゃべるロボットにひそひそと話しかけはじめた。しゃべるロボットは話を聞きながらうなづいている。その様子はどこか雲行きがあやしい。
少年は話を終えると、子供デスクに引き返した。未来のロボットはとても残念そうにこう話した。
「手違いだったみたい。」
そう簡単に説明すると彼もまた、そそくさと子供デスクの引き出しへと帰っていった。
考えてもみてほしい。未来のロボットが手を差し伸べるのは、たいてい小学生、せいぜい高校生くらいまでだ。最も重要な見落としは40歳で独身無職の俺が子孫を残す可能性は限りなく0だということだ。未来からの子孫が手を差し伸べることなどないのである。
俺は明かりの少ない部屋でひときわ深いため息をついて、マッチ棒での基地づくりの作業に戻った。