ホームステイの女の子は美人だった
「兄さん? 呼吸は大丈夫ですか?」
「うん。やっと美月の可愛い顔が普通に見えたよ」
「ふぇ!? 可愛い!?……………兄さんが私を可愛いって、えへへ!」
やっと普通に見える様になってきた。
ここまで来るのに二ヶ月ちょっと。かなり掛かったと自分でも思う。
ここまで美月は色んなことをしてくれた。
目を開ける時には手を握ってくれたり、顔を合わせては居なかったけどご飯も一緒に食べてくれたり、何故か一緒に寝るっと言われ流石に高校生と中学生になってまで一緒に寝るのはどうかと思うし断ったら、治療のためだと言われ半端無理矢理に美月は一緒に寝て来てその日はかなり寝不足だったと覚えている。
「美月、もう少し顔見せて」
結弦は人と顔を合わせるのが久しぶりで嬉しくて美月の顔を両手で抑えてじっと見ていた。
美月は恥ずかしいのか顔を真っ赤にして「ふぇぇ」っと声を漏らして上目遣いで結弦を見ていた。
(美月が可愛い!?…………いやいや、なに妹に欲情してるんだ。僕は………)
直ぐに美月から離れてそんな事を考えた自分の頬を思い切りぶっ叩いた。
「兄さん? 何してるの?」
「ん。罪なる自分を断罪?」
「は?………………。ごめん、意味分かんない」
変な事を言う結弦に対して困惑する美月だった。
「ふぅ」
俺は一世一代とは大げさだがそれぐらい俺には大きな壁が目の前にある。
自分の部屋から出ること。それもリビングまで行って母さん達と顔合わせをするまで今回の俺の作戦だ。
息を整えて前に足を動かそうとするが………………動かない。
何で? どうして? 何で、また震えてるんだ。家族にすら会えないのか。
「兄さん、大丈夫ですから。今ならお母さんもお父さんも居るから、行こ」
「………………おう!」
もう一度息を整えてから前を向き足を動かした。
「?………。兄さん?」
俺は部屋から出れた。確かに人が居ないなら出れることはあったけど、目の前に可愛い妹が居て部屋から出たことはない。
だが、ここで酔い痴れる訳にはいかない。ここは可愛い妹を撫で撫でするだけだ。
結弦は美月をそっと抱き締めながら涎を少し垂らしながら頭を撫でまわしていた。
「美月、ありがとう。次は母さん達の所に行かないとな」
「なら、早く行きましょう」
そして、階段まで歩いて行くと、テレビの音が聞こえ母さん達の声は全く聞こえなかった。
(これなら、行ける………………かな?)
段々不安になってきた。もし、行ったら行ったで母さん達は何て言うのか………………。
それが、怖い。いつも通りに接してくれるのか、それとも、軽蔑をする様な態度で………………。
「うっ………」
「兄さん? 大丈夫ですか!」
ヤバい、息が苦しい。母さん達がそう思ってると思うと泣けても来るし胸の辺りが苦しくなってくる。
(駄目だ。呼吸がちゃんと出来ない。何か違うことを…………………あ)
僕は目の前に居る可愛い妹の事を考えることにした。
「み、つき………」
「何ですか! 兄さん! なんなりと言ってください!」
なら、その言葉に甘えて………。
俺は美月に抱きついた。その時聞こえた「ふぇ?」っと美月の可愛らしい声がなんとも言えない気持ちになった。
良い匂いがする。女の子らしいと言うのかこういった匂いは男からでは無くやはり女の子からするもんだよな。
「兄さん? 本当に大丈夫ですか?」
「うん。落ち着いてきた。美月の女の子らしい匂いが良い~」
「………………兄さんの変態」
その後、結弦は美月から平手打ちをくらい頬に大きな手形がついた。
「はぁ、痛い」
「自業自得です! いきなり抱き付いたと思えば、匂いを嗅いで来るとか………嫌ではありませんが、慎んで下さい!」
そこは嫌だから次やったら殺すとかではっと思ったがやり過ぎない様にこれからも抱き付こうっと。
そんな事を考えつつ、階段を見る。
やはり、怖い。この下に行ったら何かある様でとても怖く感じる。
「兄さん、怖いですか?」
「………………いいや、大丈夫だ」
本当は怖い。だけど、妹の前でこれ以上カッコ悪い所は見せられない。
心を決めて一歩、一歩っと階段を降りて行った。
「………よし」
リビングのドアまで来たらもう後は入るだけだ。
そう思い手をドアノブに手を掛ける。だけど、ドアノブは回らない。
手が震えて思う様に力が入らなく………。
はぁ、やっぱり駄目なのかな。僕はもう前に進めないのか………………。
「………美月?」
震える手にそっと優しく小さくて柔らかい手が添えられた。
ほんっと、情けない。兄の僕が妹に後押しされてばかりで嫌になるな。
自然と手の震えは止まり、妹の後押しを貰いリビングのドアを開けた。
少し広めのリビング。中央辺りにはソファーと前の方には角が丸くなっている四方形の机。その前にはテレビがあってリビングに入ったら目に入るいつもの光景。
そこにテレビを見ている父さんに、キッチンの方で料理でも作っているのかトントンっと包丁がまな板に当たる音がした。
「ん? お、結弦か!」
まず最初に気づいてくれたのは父さんだ。
父さんは笑顔で僕に話しかけてくれて僕は凄くホッとした。
不思議と顔を見ても過呼吸は起こさないで居れたのは今まで俺を支えてくれた美月のお陰だ。
そして、キッチンの方からドタドタ走る音が聞こえそれが近くまで来ると首がへし折れる勢いで母さんが抱きついてきた。
「もう! 心配かけて! あぁ、無事で良かった」
母さんは泣いていて本当に心配かけたんだと自分を殴りたい気持ちになった。
「ごめん。これから多分、部屋から出て来れるから、もう大丈夫だよ。母さん」
自分が悪いので暫く痛いのを我慢して母さんの抱き締めを受けた。
「いい加減離れろ!」
暫く我慢したのは良いが三十分も抱きつかれたら流石に嫌になるから無理矢理母さんを引き剥がした。
母さんは「この恥ずかしいがりやさん~!」とか言ってキッチンに戻って行った。
いや、高校一年の息子になにすんだっと言いたいが今日の所は言わないでおいてやろう。自分が悪いんだし。
だが、次やったら本気で罵倒をしようと心に決める結弦だった。
「ただいまです! 美月!………ん?」
「ん? 誰?」
リビングのドアを知らない女の子が開けて入ってきた。
艶のある綺麗な赤みのある金髪で澄んだ翡翠色の瞳。白くキメ細やかな肌。上から下にかけてはモデルと間違えそうなぐらいスレンダーな体付きをしている。
胸も中々あり人形の様な見た目をした女の子が家に入ってきた。
「えっと、美月の友達?」
でも、ただいまって言ったよね。この子………………。
「まぁ、友達は友達ですが、ホームステイのノエル・イングラシェルさんです」
「ホームステイ?………………あ、えっと、七臥結弦です」
「え。あ、ノエル・イングラシェルです」
取り敢えず自己紹介はしたけどなんだこの空気は………。
ぎこちな過ぎる。ホームステイの子が居るなんて聞いて無かったけどこれはなんと言うかお見合いしたことは無いけどそんな感じの雰囲気になってる気がしてる。
そして、一旦落ち着くために俺とノエルと言う女の子はソファーに座り。
「………」
「………」
お互いに黙ってるっと更に気まずくなって行く。
だからっと言って数ヶ月引き籠っていた僕にはどう話たら良いか分かるはずも無いので黙るしかない。
「あ、そうだ。結弦どうせならノエルちゃんのピアノを見てあげたら?」
「え。いや、その、ピアノは………………分かった」
ピアノ音すら聞きたくない自分だが、これも変わるためにやる事だから聞くしかない。
そして、ノエルはリビングにあるピアノの前にある椅子に座って深呼吸をしてからピアノを弾き始めた。
「………」
別になんともなかった。前にピアノを弾こうとしたら過呼吸を起こしたのに今は普通にピアノの音が聞けた。
「ふぅ。どうでしたか?」
「やっぱり上手いな」
「うん。良かったよ! 兄さんはどうだった?」
「え。うん。良かった」
お父さんと美月は感心して居るのに対して結弦は何処か不満足な顔をしていた。
「結弦。本当に良かったですか?」
「う、うん。良いと思うけど?」
普通に上手かったと思う。これならコンクールに出ても優勝は出来ると思う。
「正直に言ってくれて大丈夫ですよ?」
「え?………………。えっと、二曲目の音程が違ってたし、一曲目の最後の方も手を抜いた感じもしたし、何で二曲目でこの弦を押したのか良く分からないし」
ノエルは決して手を抜いたつもりもない。ただのミスだ。
それは結弦がピアノの天才だから理解して言えることで凡人からしたら努力を否定された感じに聞こえる言葉だ。
「ん? どうした?」
ぶるぷるっと身体を震わせ始めたノエルに首を傾げていると。
「貴方に、貴方に何が分かるんですかぁぁぁぁ! どうせピアノの事なんて知らない癖にそんな偉そうなこと言わないで下さい!」
ノエルは怒鳴り散らしてから部屋に戻って行ってしまい、それを追い掛ける様に美月もリビングを出て行った。
それを間近で聞いていた結弦は度肝を抜かれ唖然とした顔で立ち尽くしていた。
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