81 リンゴのコンポート
皆々様、お読み頂きありがとうございます。
たまねぎを必死に炒めているその横で、莉奈はマテウス達のクレープを作っていた。たまねぎの匂いと、クレープの甘い匂いが混じって、なんともいえない匂いがする。
「クレープ……美味しそう」
食べられない人達は、ぼそりと呟き生唾を飲み込んだ。お腹が減っているから余計なのだろう。皇子を囲っていた人達が、今度は莉奈を囲っていた。
「マテウスさん達が、いいって言ったらクレープだけ、何人かに食べさせてあげよっか?」
あまりの皆の圧に莉奈は苦笑いし、ついつい言ってしまった。ジャムとバターだけの簡単な物ならいいだろう。
だけど、アイスクリームはあげない。シュゼル皇子のだからだ。マテウス達にも、味見程度にスプーン1杯分くらいしか、のせていないしね。
もちろん、エギエディルス皇子には、たっぷりとのせましたが……なにか?
「マジで!?」
「やった~!!」
まだ、貰える事が確定した訳でもないのに、もう貰えるみたいに歓声が上がった。
「マテウスさ~~ん!! もちろんいいよね?」
なにがもちろんなのか、勝手に決めつけている感じがプンプンする。マテウス達は、一瞬顔を見合わせ少しイヤな顔をしたものの、見習い達や負けた者達の迫力に負け、仕方なさげに頷いた。
◇◇◇
「アイスクリーム、うんま~~!!」
「クレープ? これもジャムと食べると美味し~~い!!」
「ククベリーって、こんなに旨かったっけ?」
「鳥がよく食べてる意味がやっとわかった」
「な~~!!」
優勝者にクレープを出すと、マテウス達は、それぞれ楽しんでいた。アイスクリームのおかわりも欲しそうではあったが、シュゼル皇子のだとわかっているため、我慢している様である。
「エド。どうだった?」
一人優雅に食べていたエギエディルス皇子に訊いてみる。好みはあるし、これは気に入ってくれたかな、と。
「うまかった!! クレープとコンポート? すげぇ合う」
口に合ったのか、キレイに完食し満足気である。
ちなみに私は、このリンゴのコンポートは好きではない。火を通したリンゴがどうも好きになれないのだ。だから、彼の口に合うかが心配だった。
「そう……よかった」
エギエディルス皇子は、火を通したリンゴは大丈夫だった様だ。
「シュゼル殿下の分も作ったから持ってく?」
弟だけ食べたなんて聞いたら、大変な事になりそうだ。
「もってく」
莉奈から同じ様に盛ったクレープ皿を貰い、魔法鞄にしまった。
「だけど、あの酸っぱいリンゴがこんなに旨いとはな……。俺、あのリンゴあんま好きじゃなかった」
「アハハ……あんま好きじゃなかったのか……」
莉奈は苦笑いした。香りはいいのだけど、酸味が強いリンゴだった。日本の果物が、いかに品種改良されて甘いのかがわかる。
「コンポートは平気?」
「全然平気!!」
可愛く頷いた。気に入った様だ。
どうしよう……すごく、頭を撫でたい。
莉奈は、パカパカと開き始めそうな、ソッチの道の心の扉をグッと閉めたのであった。
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