8 太りぎみ
「……では、リナ。右手をここに……」
横に移動したタールが莉奈を促す。
……これで、魔法までないとわかったら、二人共ガッカリするんだろうな…と思う。
"聖女じゃない" "魔法も使えない"
……タダノブタです。
……す、捨てられたりしないよね?
まぁ、なるようにしかならないか……。
莉奈は諦めにもにた覚悟をきめ、鑑定球に右手をかざす。
温かい光が、莉奈の手のひらを照らすと……ほんのり熱を感じた。
〈状態〉
いたって健康
………だが、太りぎみ。
〈属性〉
火
水
風
土
〈技能〉
鑑定etc
…………は?
……はぁ………?
……はぁ~!?
いたって健康。だが、太りぎみ。
……ふ~~と~~り~~ぎ~~み~。
って! ふざけんな異世界!!
余計なお世話じゃ!!
しかも、太りぎみって。誰に対する配慮だ!!
私か、私なのか。なら、記載すんな!!
デブって書かない優しさがあるなら、初めから書くな!!
一人、憤慨していると、背後から感嘆する様な声が聞こえる。
「……これは、めずらしいですね」
「………えぇ、確かに………」
シュゼル皇子とタールが、ほぉと声を出す。
莉奈が見えたように、二人もこの画面が見えている様だった。
「……太り……ぎみ……がですか?」
莉奈は、疲れたような声で訊いた。
この世界にはいませんかね、太りぎみ……。
スミマセンね、こんなで。
「「………え?」」
二人はハモると、状態の欄を見た。
〈状態〉
いたって健康。
……だが、太りぎみ。
…………ぷっ。
どちらからともなく、押し殺しきれてない声が洩れる。
……違うんかい!!
この事じゃないのかよ。
え? 私、自分から恥晒したんですか?
………あぁ、そうですか。
そ~う~で~す~か~。
恥ずかしいやら、なんやらで莉奈は、ガックリと項垂れていると、
「………大変失礼致しました」
と二人に頭を下げられました。
……別に、いいですけどね。
「めずらしいと言ったのは、こちらの魔法属性と技能です」
気を取り直したシュゼル皇子が、画面を指さしつつ説明をした。
「……はぁ」
莉奈に云わせれば、この世界のすべてが物珍しい。
まぁ、気を取り直して見てみれば、魔法属性が多い……っていうか、魔法?
…………え? 魔法?
「まず、魔法属性が4つあるのがめずらしい。その上、鑑定とは素晴らしい。」
「……はぁ」
鑑定で魔法属性が付いてる事に、驚いている莉奈は、タールの声が耳に頭に入ってこない。
…………異世界補正? とか? ですかね。
「魔法が稀と、先程言った様に3属性以上はもっと稀なんですよ?」
いまいちピンときていない莉奈の返答に、シュゼル皇子はほのぼのと言う。
「……はぁ」
聞いても凄さがわからん。だって使った事ないし、使えたとしてナニに使うの?
「魔法の事は、追々説明をしますが、鑑定は個人で視える物が違います。ですが、一般的に視えるのは物の名称、説明くらいでしょうね」
タールはそう説明をすると、腰に下げている小さな鞄から、小瓶を取り出した。
おそらくだけど、ポーションだ。
薄緑色の透明な液体の入った小瓶。それ……つい最近、手にぶっかけられたし。
「この小瓶を視て【鑑定】と言ってもらえますか?」
と、タールが言うので莉奈は、少し口に出すのに抵抗を感じつつ「鑑定」と言ってみた。
【低級ポーション】
傷口にかけたり、直接飲用して傷を治す。
〈用途〉
切り傷、擦り傷など、小さいケガ、欠損を治す魔法薬。
〈その他〉
飲料水。
美味しくはない。
「……え? ナニこれ……」
初めて見るポップ画面に、莉奈はポカンとした。
小瓶の少し上に重なる様に透明なポップ画面が見えたのだ。
はーい! タール先生!!
小瓶の上に変なゲーム画面が出てま~す。
莉奈は、心の中で叫ぶ。
「………視えたみたいですね? それが鑑定魔法です」
タールに代わり、シュゼル皇子がニッコリ微笑んだ。
……シュゼル皇子、こっち向いて微笑まないでくれませんかね?
ふいに見ると、ドキッとしちゃうんですよ。
アイドルに、ド嵌まりしてた同級生の気持ちが、少し分かりました。
「ちなみに、人物鑑定も出来ますが、プライバシーの侵害なのでやらない方が宜しいかと……」
シュゼル皇子が、のんびりと注意をしてくれた。
……と言う事は、視られるとわかるのかな……?
「………魔力感知の高い方だと、された事に気付くのですよ?」
莉奈の心の声が、表情に出てたのか追加される。
「……はぁ。そうなんですか」
一応、興味ないですよ? しませんよアピールしておく。
「そうなんですよ?……まぁ自分より鑑定能力が優れた方のは、基本視られませんし。場合によっては、視た事がバレて……ね?」
と、シュゼル皇子は一層深く意味深げに微笑んだ。
……うん。ヤバイって事ですね?
「………気をつけまーす」
莉奈はから笑いした。
人物鑑定した事ないから分からないけど、見なくていい事もある。
長生きするなら賢明かな。ってか長生き……どうでもいいんですけど。
ちなみに、初心者なので口に出して【鑑定】と言ってたが、慣れれば無詠唱。要は口に出さなくても使える様になると言われた。
莉奈は、部屋に戻る帰りに、現実にない事になんだか面白くなって、片っ端から【鑑定】【鑑定】とやってたら、思わずシュゼル皇子を鑑定するところでした。
「……ダメですよ、リナ?」
シュゼル皇子は優しく言ってくれましたけど、背筋が "ぞぞっ" と凍りついた。
「大変申し訳ありませんでした」
それはもう、平伏する勢いで謝らせて頂きました。
……シュゼル皇子、怖いです。
微笑みって、怖いんですね。身を以って知りました。
余談ですが、シュゼル皇子、鑑定魔法では何一つ視えませんでした。
……うん。ですよね~~?