72 ラナの鑑定
「……えっ?……なんか……人、多くない?」
スープの提案を、リック料理長達に伝えようと厨房に来てみれば、いつもより数人は多い気がする。
「リナの料理を学びに、魔法省の料理人と軍部の料理人が数名来てるからね」
と説明してくれたのはリックだった。学ぶ程の物なのかと、莉奈は思う。だが、莉奈にとっては普通の事でも、異世界側からしたら、普通の事ではないのだろう。魔法がそうである様に。
「……はぁ……」
えらく大事になってきたな……と思わなくもない。
「リナは、普段通りに好きな物を作ってもらって構わないよ。質問ぐらいはするかもしれないけど、極力 邪魔はしない様に勉強させてもらうから」
「……そうですか」
それなら、いいかな。教えるのは苦手だし。面倒だし。
「で……今日は何を作りに……?」
リック料理長達は、莉奈が何を作りに来たのか、興味津々である。
「…………あーー」
莉奈は、エギエディルス皇子達に言った様に、日替わりスープが出来たらいいなと説明した。面倒ではあるけど、作る方も毎日同じでは、つまらないだろう。
「それは、いい!!」
リック料理長は大賛成みたいだ。
「俺も賛成!! 毎日同じ飯じゃつまんないしな」
「毎日違うと楽しくていい!!」
次々と賛成の声が上がった。よかった……皆、賛成の様だ。これなら、教える方も張り合いがある。
ちなみに、こっちの世界も1週間は7日で構成されていて、1年は365日ある。
でも、月火水木金土日……ではなく
光火水無風土闇。
似てはいるけど、魔法と関係がある曜日になっていた。月は同じで1月2月というし、季節も日本と変わらない。春夏秋冬がある。
◇◇◇
「じゃ、何スープにしようか食糧庫みて考えるね」
莉奈は、厨房に設置されてある隣の食糧庫に行った。丁度食堂の反対側にある扉が食糧庫だった。
「うっわ~。いっぱいあるね~」
王宮の皆の食糧が、ほぼ、ここにあると云ってもいい。学校の教室が丸っと二つは入る大きさだ。そこに、キレイに陳列されている。在庫管理もちゃんとしてそうだ。
「魔法鞄に入れちゃえば楽なのに」
欲しいものを欲しい分だけ、良い状態で出せるし保存が出来る。
「盗まれたら終わりだろ?」
エギエディルス皇子が、食糧庫を覗きながら言った。
「あ~そっか。出せないにしても盗まれたら、食糧全部なくなるね」
魔法鞄が使えないにしても、食糧を全部盗めてしまう。そうなれば、国を傾かせるきっかけぐらいにはなり得る。
「便利な分、犯罪者側からも……って事か……。根菜が多いね?」
あちこち見てみると、葉物野菜よりじゃがいも、たまねぎ、にんじん等、根菜類が多かった。
「葉物はうちの国、得意じゃないんだよ」
「肉も鶏肉しかなかったよね」
「牛は乳牛だけだな……豚は……以前はいたけど、ほとんど魔物に喰われた」
「あぁ……」
魔物いたんだっけ、この世界。すっかり忘れていた。
「鳥は魔物を感知しやすいし、出たら騒ぐから防犯ついでに飼って、食ってる感じかな」
そういう理由もあるのか、と莉奈は納得した。人間が食べて美味しいなら、魔物も美味しいと喰うのかもしれない。
「でも、魚介類は割りとあるよ。国が海に面してるし」
「へぇ~海に魔物いないの?」
「ガッツリいる」
ガッツリいるのかよ。
漁師、すごいな。
「あっ、小麦粉あるじゃん」
端に置かれている小麦粉の入った、麻の袋を見つけた。"鑑定" をかけて視ると、強力粉、中力粉、薄力粉すべてが揃っていた。
「すごいね。なんだ強力粉とか全部揃ってる」
莉奈は感嘆していた。以前厨房で見た時は、そんなに種類がなかったからだ。ここにあったのは、いい発見である。産地が異なれば、小麦粉の性質も変わってくる訳で、それが集結しているのは、さすが王宮といったところ。
「強力粉って何?」
棚を見ていたモニカが訊いてきた。
「え? あぁ、パンとか作る粉」
「小麦粉と違うの?」
「違わないよ? 小麦粉っていうのは、小麦で出来た粉なら小麦粉っていうし。だから、強力粉、中力粉、薄力粉も全部小麦粉。その中でもパン作りに合う性質の小麦粉を、強力粉っていうんだよ」
厳密に云うと、グルテンの量や産地によっても色々と種類があるのだろうけど、そこまでは説明出来る程の知識が自分にはない。
「え~? 小麦粉は小麦粉じゃないの? パンに合う合わないがあるの?」
莉奈の説明に、モニカが驚いていた。そこで、ふと気がついた。モニカの様に強力粉も薄力粉も "小麦粉" として使っているのだとしたら、それもパンが固くなる要因の一つなのでは? と。
「あるよ? ちなみに薄力粉はお菓子に向いてる小麦粉」
「……どれ!?」
お菓子と聞いてモニカの目がギラついた。
モニカ……。粉を教えた処で作れないでしょ?
粉のまま食べるのかい?
莉奈は、ドン引きしていた。
「だけど……よく粉の袋を見ただけで、細かくわかるのね?」
ギラついているモニカとは違って、冷静なラナ女官長が訊いた。袋はどれもただの麻の袋。袋に産地が書いてあるくらいで何も分からない。
「あっ、私 "鑑定" 持ってるから」
そういえば、ラナ達に言ってな……と今さらながら気付いた。てっきり知っている感じでいたけど、誰も言わなければ分からないよね。
「「えっ!? リナ鑑定持ちだったの!?」」
ラナ、モニカが驚いていた。エギエディルス皇子は、兄のシュゼル皇子から聞いていたのかもしれない。
「そうだよ」
ナゼか食べる事に特化していますが………ね?
「へぇ~。すごいわね」
ラナは感嘆していた。珍しい技量だって言ってたし驚くのも当たり前なのかもしれない。
「でも、私のとは違うのね?」
ラナは気になる言葉を続けた。
「えっ!? ラナも "鑑定" 持ってるの?」
"私の" とは……と言ったのだから、そういう事だろう。珍しい鑑定をラナも持っていたとは驚きだ。
「持ってるわよ?……あまり役に立たないけど……」
なんか残念そうに言った。人各々とは聞いてはいたが、やはり莉奈のとは見える物が違うらしい。
「何が視えるの?」
気になったので訊いてみる。他の人が何を視えるのかなんて知る機会もないだろうし。
「…………」
言いたくないのか困った様に笑い無言だ。
「……ラナさ~ん」
でも気になるので、もう一度訊いてみる。
「……え~と」
「え~と?」
「身長とか、体重とか……スリーサイズ……とか?」
末恐ろしい技量だった。




