7 鑑定球(クリスタル)
シュゼル皇子とタールに連れられて、鑑定をする部屋に向かう途中、王宮内を歩いてると色んな所に目がいく。
そこには、TVでしか見た事のない光景があったのだから……。
中世ヨーロッパ調の城、王宮そのものがここにある。しかも、ゴテゴテした感じではなく、上品さが滲み出ているのだ。無駄な調度品がない。
洗練された物だけが、絶妙な所に飾ってある。何もわからない莉奈でも、思わず"ほぉ"とため息がもれる。
「……えっと、ちなみに鑑定って、どの程度まで分かるものなんですかね?」
魔法や技能以外も見えたりするものなのか? 知っておいても損はない。
まさか、スリーサイズまでは分からないと思うが、いらん情報まで垂れ流し……じゃなくて開示されて恥を掻くのはゴメンだ。
「鑑定球で分かるのは、簡単な健康状態、魔法の素質と属性、後は技能ぐらいですよ。細かい事までは、鑑定魔法でもかけなければ、わかりませんから、安心して下さい」
タールが、優しく説明をしてくれた。
……鑑定魔法でもかけなければ? 鑑定って魔法あるのか。
……ん? なら、魔法で視ちゃえばよくない?
「なら、魔法で視ちゃえばよくないですか?」
莉奈は、思わず言った。
二人共、忙しいのにわざわざ鑑定球で視なくても……。
「……でも、人に視られるのって、気分的にイヤじゃないですか?」
シュゼル皇子は、ほのほのと言う。
「あ~。確かに……」
服を脱がされてる感じ?……って、違うか。
「それに、他の魔法もそうですけど、鑑定魔法も個人差がありましてね? 視なくてイイ情報も視えたり、視えなかったり?」
と、シュゼル皇子は意味深にふふっと笑う。
……あー。見せたくない物視えちゃうのか………。
配慮ありがとうございます。
………って、シュゼル皇子は何が視えるんだろう。思わず眉宇が寄る。
「大丈夫ですよ? 勝手に視たりしませんから」
莉奈の表情を見たシュゼル皇子が、ニコリと笑う。
………うん。オバチャン信じてるからね? ってオバチャンじゃないけど……。
◇◇◇
ーーーギィー。
訊いている間に着いたのか、とある扉の前に着くとタールがゆっくりと開けた。
シュゼル皇子に、促されて中に入ると一瞬ヒヤリとした。部屋が寒い訳ではないのだが、独特な冷気を肌に感じたのだ。
召喚された部屋程ではないが、ここも薄暗い。
………部屋の無駄遣いだな。
30畳程の広い部屋の奥、正面に黒い石で出来た様な台がポツンとある。
それだけの部屋。
………なにこの、贅沢な部屋の使い方。この広さ必要かな?
「では、リナ。その正面にある台の上、クリスタルに手を触れて下さい」
シュゼル皇子が、台から一歩離れた所から莉奈を促す。
台の上右側には、半分埋め込まれたクリスタル、これが鑑定球か…。正面には紙が一枚置けるくらいのスペースがある。
なんか物を置いたり、書いたりする用なのかな、と憶測した。
「………えっと………痛みとかあります?」
なんかビリっと静電気的なものが流れてきたら怖いんですけど?
「痛みはありませんよ。ただ少し温かくは感じるかもしれませんけどね?」
シュゼル皇子は、くすりと笑うと大丈夫だと安心させる。
「まぁ、でも初めてですから……私が試しにやって見せましょう」
そう言うと、タールは鑑定球に右手を充てた。
タールが鑑定球に触れると、一瞬柔らかい光りが、手のひらを包む。
台座の上には、うっすら光る様にポップ画面が……。
〈状態〉
健康
〈属性〉
光
闇
火
水
風
土
〈技能〉
鑑定etc
……すごっ。異世界すごっ。
なにこの、ゲームみたいな近未来的な世界。ちょっとテンション上がるんですけど!
………ってか。タールさん魔法の種類スゴくない?
え? 鑑定使えるの?
etcってついてるから、他にもありますよ? 的な?
莉奈は、表情には出さない様にしながらも、思わずニヤケそうな口先に力を入れる。
ご飯とのギャップが凄いな、この世界。
「………あ………でも、レベルとかはないんだ」
と莉奈は呟いた。
漫画や小説の読みすぎだろって、言われそうだけど。実際、こういう場合、属性の隣にLV50とか表示されたりしそうだ。
「………レベル……ですか?」
呟きが聞こえたのか、シュゼル皇子が不思議そうに訊いてきた。
「え?………あ、すみません。あっちの……私がいた世界には、そういう世界もあるって本……記述がありまして………」
莉奈は、あははと誤魔化す様に言った。
まさか、空想の世界ですけど……とか言ったら、痛い女だと思われかねない。
「………なるほど………確かにあると便利そうですね……でも、同レベルだとしても、技量や魔力の使い方次第で、どうとでもなりそうですけどね」
シュゼル皇子は、のんびりと言い、更に続ける。
「どちらかというと、重要なのは魔力と許容力、技量でしょうか?」
「魔力と許容力………」
「例えばですけど、莉奈の魔力が100あったとしても、それを活かせる技量がない。或いは、許容力が10しかなければ、キャパオーバーで心身に影響があるでしょうし………そもそも、同じ事をしたからといって、出来る人と出来ない人はいますし、レベルってのは基準値程度でしょうかね」
「………そうですね」
莉奈は、納得した。
確かにレベルの上がり方は、人それぞれだと思うし、そもそもスタート時点で既に才能という差がある。
基準値という名がしっくりきた。
魔力が視えたら視えたで、何であるのに使えないんだ! ってなりそうだ。
あっても使いこなせる素質、技量がなくてはダメって事だな…。
莉奈は一人でふむふむと納得するのであった。