684 切り拓いた未来
真珠姫は、脅威になりそうな魔物をあらかた片付けたのか、鼻唄交じりに帰って来た。久々に身体を動かせて、楽しかったらしい。
小竜はまだまだ遊び足りないらしく、一生懸命に閃光の練習をしている。王竜や真珠姫に比べたら、威力は激弱だけど、岩を粉砕出来るのだから中々だ。きっと竜はああやって、日々成長していくのだろう。
「後は巣に残っているのを、毒餌で殲滅させれば、あらかた終わりそうですね」
王竜達の本気をチラッと垣間見て、ローレン補佐官は満足そうだ。
これから先、こんな大規模な攻撃を見られるか分からない。やはり、視察に付いて来られて良かったなと、改めて思っているみたいである。
至極満足そうにしているローレン補佐官とは真逆に、アーリャは何とも言えない表情をしていた。
「……そう……だな」
あらかたどころか、この世の終わり……かとアーリャは感じたばかりだ。
どうにか出来ないかと願ってはいたが、これは願っていた結果とは違う。だが、町が無事なら受け入れるべきなのかと、アーリャは唸る。
「キラーアントの巣なら人も入れるし、地道に討伐するのもありじゃねぇの?」
俺ならやらねぇけどなと、フェリクス王は他人事の様に言う。
地上のキラーアントはあらかた片付いたので、残るは巣の中のみ。
その巣は、普通の蟻とは比べ物にならないくらいに巨大で、洞窟みたいに入れるそうだ。なら、フェリクス王の言う通りに、特攻もアリといえばアリである。
「いや、毒餌を検討する」
アーリャは即答した。
そんな戦い難い場所に、兵を率いて行くのはリスキー過ぎる。
毒餌が効果がなかった場合は、最終手段としてそれを検討するくらいだ。
「なぁ、毒餌って、重曹以外じゃダメなのか?」
その会話を聞いていたエギエディルス皇子が、疑問の声を上げる。
キラーアントが死滅するのであれば、別の毒でもイイのではと考えたらしい。
「"殲滅"に重点をおくのであれば、重曹である必要はありませんよ。ですが、強過ぎる毒は人にも有害でしょうし、あまりお勧め出来ませんね」
「あ、そうか」
毒性が強過ぎると、毒餌を作る段階で、まず人に害があるかもしれない。
上手く毒を餌の中に仕込んだとしても、魔物が綺麗に食べる訳はないので、食べ散らかった餌から、毒が風で舞うだろう。
さて、その舞った毒は風に乗りどこへ行くのか。
町にまで飛んでくれば、結果的に人の目や鼻、口に入る。飛んで来なかったとしても、土に残れば雨が降り地下に浸透する。そして、地下に浸透した毒は地下水に混ざり、川に流れ出すかもしれない。
そうなると結局、人が住める土地でなくなってしまうだろう。
エギエディルス皇子はシュゼル皇子にそう説明され、単純に毒を撒けばイイという問題でない事に気付いた様だった。
「ですが、その考えはイイですよ。エディ」
「え?」
「人には害がなくキラーアントには毒……という物が、他にもあるかもしれません」
シュゼル皇子に褒められたエギエディルス皇子は、満更でもなさそうな表情をした……がすぐに曇る事になった。
「まぁ、1番良さそうな案で言えば"ギリッシュチュネチロックコシピロ・ローリ・ロール"か"マビスラブラチュネチロックコシピロ・ローリ・ロール"を使う事ですけど」
そうシュゼル皇子が話を続けたからだ。
「「「……は?」」」
思わず眉根が寄り、頭が痛くなる名前、再びである。
「さっきのアレか?」
蜜玉を持っていたあの魔物かなと、エギエディルス皇子が唸りながら訊く。
「違いますよ。先程のアレは"チュネチロックコシピロ・ローリ・ロール"。私が今言っているのは、ギリッシュチュネチロックコシピロ・ローリ・ロールとマビスラブラチュネチロックコシピロ・ローリ・ロールですよ」
「はぁ?」
何が違うのかサッパリ分からないエギエディルス皇子は、気のない返事を返すだけ。
何度聞いても、考えを放棄したくなる名前を前に、フェリクス王もどこか遠い目をしている。
遊び疲れて戻って来た小竜に至っては、ピロピロ言いながらパタリと倒れていた。




