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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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682 王竜の実力



「「……っ!」」

 その隣では、莉奈と違った意味で身体を震わせている者達がいた。

 アーリャ達である。アーシェスは、歓喜の叫びでも上げそうな表情をしているし、アーリャは頭が追いつかないのか目を見開き固まっていた。

 自分達で何とかしようとしていたのだから、余計に話についていけないのだろう。

 離れた場所で控えていた護衛達は、驚愕の表情の中にチラッと嬉しさが滲んで見える。もうこれでモルテグルは大丈夫だと、確信でもした様だ。



「下がっておれ」

 言うが早いか、王竜は軽く地を蹴り浮上すれば、莉奈のテンションはさらに上がる。

 これからどうなるのか、莉奈にはまったく分からない。だが、莉奈の頭の中はすでにワクワク感でいっぱいだったし、胸はドキドキしっぱなしだった。

 なにせ、安心安全の王宮にいる莉奈は、戦闘シーンを見る事はほとんどない。それが、王竜であれば、尚の事である。

 莉奈でさえこうなのだから、アーシェス達はもっと興奮しているに違いない。



「マジかよ」

 王竜がやると想像していなかったのか、エギエディルス皇子が空を見上げてポカンとしている。

 兄達が参戦したとしても、ド派手な攻撃魔法は使わず、チマチマとキラーアントを倒すのだろうと思っていた。なのに、まさかの王竜である。

 エギエディルス皇子も驚きと高揚感で、ソワソワとし始めていた。



 一体これから何が始まるのだろうと、暗闇に向かって一生懸命に目を凝らしていれば、王竜の姿はもう数百メートル前方の上空にいる。

 夜の闇に紛れ込む漆黒の王竜を、目で確認するのは一苦労だ。

 だが、目を凝らして見れば、ゆっくり口を開けているのが見えた。

 ……何をする気だろうか? 

 皆が固唾を飲んで見守る中、王竜の黒い瞳が猫の様に縦長になり……赤く光った。




 ーーシュン!




 その瞬間、王竜の口から出た閃光が、地平線に向かって一直線に走る。

 その光はまるでビームの様に、遥か遠くの地平線をあっという間になぞっていく。

 なぞられた地平線は神々しく光り、ほおとため息が出るくらいに綺麗だった。感嘆しつつ地平線を眺めていれば、その光りは突如プシュンと消え、辺りは一転して真っ暗闇になったのである。




 ーー「え?」と莉奈が瞬きした次の瞬間。




 そのなぞり上げた地平線がパッと強く光り、一気に大爆発した。




「「「……な!?」」」

 地面は縦に1度ズシンと大きく揺れ、遠く離れたこの場所にまで、激しい爆風が容赦なく襲って来た。

 莉奈やエギエディルス皇子は、その場に踏ん張り、立っているのがやっとである。

 出したままのテーブルやイスは、一瞬浮き上がり後ろに飛ばされ倒れていく。

 こんな事なら、テーブルセットとかを片付けておけば良かったなと、莉奈は飛ばされて行く様を見ていた。

 しかし、超高い食器類は誰かが片付けてくれたらしく、どこにも散らばっている様子がない。きっとローレン補佐官だ。

 何故なら彼の右手には、回収が間に合わなかったスプーンが、握り締められていたのだから。



 トイレや洗面所は、壁沿いに置いていたおかげもあり、カタカタ揺れただけで済んだ様だ。

 しかし、ここまでド派手にやるなら、先に言って欲しかった。

 そうしたら、心の準備が出来たのにと、いろんな残骸が散らばっている大地を見ながら、莉奈はボンヤリと思う。



「……王竜って……やっぱりスゴいんですね」

 スプーンを握り締めていたローレン補佐官の声が、少し震えていた。

 竜の番を持っていても、竜の本気の力など知る者は少ない。

 何故なら、彼らは自身が本気を出せば、人など簡単に死ぬと理解しているので、基本的に力をセーブしてくれているのだ。

 そして、竜は強者であるが故に、人とは違いあまり力をひけらかさない。



 だから、竜の戦闘能力が高いのは、周知の事実ではあるものの、実際に体験した者は少なく、聞く話といえば眉唾物ばかりなのである。



 たとえ、竜の本気を奇跡的に見られたとして、見られた者が生存しているとは限らない。なにせ、軽いジャブ程度でアレなのだから、本気を出せば世界は終わりそうだ。

 あんな戦闘力を見ると、"竜を制する者は、世界を制する"と言われているのも納得である。冒険者など何人掛かっても歯が立たなそうだし、対抗出来るのは魔法くらいしかなさそうだった。



 はたして、アレに対抗出来るほどの魔力と魔法の使い手が、この世界に何人いるのだろうか。

 たとえいたとしても、ヴァルタール皇国にいるのは竜だけではないのが、恐ろしいところ。

 あの王竜より強い魔王様や、大賢者と謳われるシュゼル皇子がいるのだ。

 魔王一族と竜一族、この最強最悪のタッグを組んでいる国に、勝てる国があるとは莉奈には思えなかった。

 案外、この世界が世界として成り立っているのは、ヴァルタール皇国が好戦的な国ではないから……なのかもしれない。



 莉奈がそんな事をボンヤリと考えていると、空から何か落ちているのが見える。莉奈の側にも、何かの破片がパラパラと落ちていた。

 王竜の閃光で倒されたキラーアントや他の魔物、それに紛れ込まれた木々や岩などが粉々になり、空から降っていたのだ。

 あんなにいたキラーアントの姿は、もう地上にはほとんど見えない。だけど、色んなモノがあちらこちらにたくさん散らばっている。

 ミツツボアリがいたとして、これに巻き込まれていれば、跡形もなさそうだなと莉奈は肩を落とす。



「「「……」」」

 アーリャ達が目を見張ったまま、吹き飛ぶ様を眺めている中、防壁の上にいたモルテグル兵達は、突然の閃光と爆発に驚愕し石の様に固まっていた。

 フェリクス王と王竜の会話が、何も聞こえていなければ、どうして王竜が攻撃したのすら分からなそうだ。

 だが、王竜がキラーアントに向かって、何かしたのは見えたハズ。

 王竜が町を救ってくれると、歓喜に沸いた事だろう。

 しかし、それも一瞬だったに違いない。なにせ、次に見えたのは閃光や爆発、そして激しい爆風である。

 町が救われた喜びなど感じる間もなく、圧倒的過ぎる戦闘力を肌に感じ、言葉を失くしている様だ。



 遠くの方に見えるのは、何かが燃えている火柱や爆発の明かりと、飛び散ったキラーアントや魔物達の残骸。

 一瞬の出来事過ぎて、これが夢か現か頭が働かないらしい。誰もが黙ったまま……竦み上がったままだった。強過ぎる力は、時に畏怖を感じる様である。

 


 莉奈達が、王竜の攻撃力や破壊力の凄まじさに唖然とする中、可愛い声が夜空に響く。

「僕もやるーーっ!!」

 王竜の攻撃に触発された小竜が、大口を開けて一生懸命に真似をしている。

 しかし、小竜の口から出るのは弱々しい光のみで、足元にある小さな岩が、ポコンと弾け飛ぶだけだった。

 一生懸命にやる姿がまた、可愛くて仕方がない。こんな、荒れ地みたいな状態だというのに、思わず和み微笑んでしまう。



「「可愛い」」

 莉奈とアーリャの呟きがハモる。

 この小竜だけは、可愛いままでいて欲しいと、願わずにはいられない。

 それを見てニヨニヨしている莉奈の足元に、コロコロと焼け焦げた何かが転がって来た。



「え゛」

 莉奈は、思わず変な声が出る。

 焼け焦げているが、フォルムはどこか懐かしい感じがしたからだ。

 おかえりなさい、カカ王。

 それは、小竜の下顎に当たって、闇夜に消えたハズのカカ王であった。







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