681 お好きな様に
しかし、これはただの推測。
どんなに言葉を並べたところで、今はその域を越える事はないだろう。だが、それが何だか答えな様な気がして、誰も否定はしなかった。
アーリャ達が複雑そうな表情をしている中、のんびりした声がする。
「まぁ、それはともかくとしてーー」
「ともかくとして!?」
「今はキラーアントやこちらに向かっている魔物を、どうするかではありませんか?」
国の大事をサラッと躱されたが、シュゼル皇子の視線の先を見れば、納得せざるを得ない。
そこには、キラーアントとは違う魔物の気配があるからだ。
過ぎた過去より、これから迫り来る現実。
今のところ近づいて来る気配はないが、遠ざかって行く気配もない。何かキッカケさえあれば、襲いに来てもおかしくない距離にいるらしい。
「どうなさいますか、アーリャ様」
護衛の1人が判断を仰いだ。
そんな距離で魔物がたむろっているのであれば、町に向かって来る前に討伐しておいた方がイイ。
しかし、魔物と対峙すれば、武器の音や足音など人の気配が出るし、ケガをしたり魔物を倒せば、血の匂いもするだろう。
そして、それを嗅ぎつけたキラーアントや他の魔物が、集まって来る可能性がある。
町の防衛と魔物討伐、その2つのどちらに人員を多く割くか……その判断で、町の未来が変わりそうだった。
「フェリクス」
弱々しく縋る様な声を上げたアーシェス。
それは他国の王がやる"仕事"ではない事ぐらい、アーシェスでも分かっていた。だが、フェリクス王が動けば、一瞬で終わるのもまた然り。
なのに、簡単には動かせないもどかしさに、アーシェスはじれついていた。
対照的にアーリャはその隣で、難しい顔をしている。
その表情からは決して、フェリクス王に頼らないという強い意思が感じられた。
どうするのかなと、莉奈がフェリクス王をチラリと見れば、魔王の名に相応しい笑みを浮かべていた。
机に向かって何かするより、こんな状況下に身を投じている方が楽しいのだろう。そして、そんなフェリクス王を見て「大丈夫」だと安心してしまう自分がいる。
「フェル兄」
どうするんだ? と視線で促すエギエディルス皇子。
手を貸すのか貸さないのか、指示を仰いでいた。
そんなエギエディルス皇子の頭を、フェリクス王はグリグリしている。
「シュゼル」
「人の気配はなさそうですし、お好きな様に」
フェリクス王のお伺いに、シュゼル皇子はほのほのと笑う。
"お好きな様に"という言葉がこんなにも、安心する言葉だとは、莉奈は思わなかった。
「黒いの」
シュゼル皇子の言葉を受けて、フェリクス王は王竜に命じる。
「何だ」
「薙ぎ払え」
そうフェリクス王が視線を向け、右手で払って見せたのは、溢れんばかりにキラーアントがいる西側である。
「久しくやっていないから、加減が分からぬが……イイのか?」
「たまにはイイだろう。山は残しとけ」
という事は、地形が変わるどころか、山が吹き飛ぶ可能性があるのか。
フェリクス王の許可を得た王竜は、珍しく目を光らせ好戦的な表情をしていた。
その姿に莉奈は目を見張る。何故なら、王竜は王の名に相応しく、いつも穏やかで優しい竜だ。皆のやる事を見守る事はあっても、自ら行動を起こす事はない。莉奈はこんな王竜を、未だかつて見た事がなかった。
その様子に何だかゾクッとするのは、莉奈だけだろうか?




