680 見えてきた事実
しかし、莉奈の例えはド直球で、エギエディルス皇子にもよく分かった。
「要するに、グルテニアのオッサンは"バイツに向かう"と言ったけど、本当は行ってないって事なんだな?」
莉奈のたとえがツボッたのか、フェリクス王は末弟の質問には返事をせず、肩を震わせていた。
国の危機的状況を、浮気の口実にしていたとしたら、王族として……いや、人として終わりだ。
「何故、そんな嘘を……」
莉奈のおかげで、少し緊張感が解れたアーシェスは、段々と落ち着きを取り戻していた。
「……ホルン王を……失脚させるため……?」
まるで自分に言い聞かせるかの様に、アーリャが呟いていた。
大叔父がした事の輪郭が、ボンヤリと見えてきたらしく、その声はどこか震えている。信頼していた身内に裏切られた事実を、すんなり認めたくないのかもしれない。
どこか、嘘であって欲しいと願う気持ちが、残っているのだろう。
「"失脚"ってどういう事?」
顔色を失くす妹を見て、アーシェスは答えを探していた。
大叔父が苦手だったアーシェスは、なるべく関わらない様にしてきたため、彼の本質を知らない。
だが、そんな事を考える様な人物だとは、想像もしていなかったのである。
「そうだとしたら……合点がいく」
アーリャもまさかと思いながら、想像し呟いていた。
伯父ホルンと大叔父の仲は、アーリャとて上辺しか分からない。口論する姿を見た事もないが、仲が良いなと感じさせる姿も見た事はなかった。
しかし、それは表立って見せていないだけで、実はかなり険悪な関係だったとしたら?
「伯父のホルン王が消え、大叔父アドルフが王を名乗り始めた。それがすべてを物語っていたんだな」
「……」
アーシェスの疑問にアーリャが答えていた。
魔物暴走を隠れ蓑にし、ホルン王の叔父であるアドルフは、王座が欲しくてホルン王を……。
それはあくまでも想像だが、現状がすべての様な気がした。
「なぁ、それじゃあ、オッサンは王になりたくてそんな嘘を吐いたって事か?」
「そうみたいだね」
「え、今さらじゃね?」
その答えに疑問の声を上げたのは、エギエディルス皇子である。
アドルフがどんな人物か知らないが、年を重ねた今、王座を奪う意味が分からなかったらしい。
エギエディルス皇子がもし王になりたいのであれば、若いうちになりたいと思うのだろう。
「でもさ、若い時になれなかったから、今って事もあるんじゃない?」
大人買いなんて言葉がある様に、子供の頃に出来なかった夢を、大人になってから叶え様とする者は意外と多い。
ましてや、己の寿命が近くなればなる程、昔を思い出すもの。
アドルフも同じく、フと過去を思い返したとしたら?
あの時ああしたりこうしたりしておけば、今の自分とはまた違った未来があったハズとーー
ーーそれが、王座に座る事だった。
ただ、それだけの話……なのかもしれない。
「はぁぁ〜っ!?」
エギエディルス皇子には、1ミリも理解出来ないらしい。
それはエギエディルス皇子がまだ若いからか、それとも王座に興味がないからか……いや、その両方だなと莉奈は思う。
兄を尊敬しているエギエディルス皇子には、その兄の地位を奪ってやるという発想が、まず頭に浮かばない。だからこそ、アドルフの考えは理解出来ないのだろう。
「なら……ホルン王は行方不明ではなくて、暗殺されたかもしれないって事!?」
言葉を失くすアーリャの隣で、アーシェスが嘆きの声を上げる。
フェリクス王達の話を聞いていると、まるで大叔父アドルフは、若い頃に諦めていた王座が欲しくなり、ホルン王を殺害した。
……そんな風に聞こえたのだ。
「その可能性もある……という事ですよ」
シュゼル皇子は肯定も否定もしなかった。
何故なら、それは本人達しか知らない事。自分達の議論など、あくまでも想像でしかないのだ。
シュゼル皇子の言葉に、護衛達は驚愕したまま固まっている。
衝撃的過ぎて、反応の仕方すら忘れているのかもしれない。




