670 地道が1番、チートはほどほどに……
ーー結局、地道が1番である。
莉奈みたいにゴリ押しせず、地道にやったエギエディルス皇子達も、数分後にはしっかりと角が立ったメレンゲが完成した。たった数分を一瞬にするために、あの代償は……辛過ぎる。
莉奈はもう2度としないと、心に誓う。
「では、皆さん。メレンゲがーー」
莉奈が説明を始め様としたところで、遠くの方でガァーと何かの鳴き声が聞こえた。
そうだった。ここは魔物が蔓延る場所。あまりにも魔物が来ないので、ついつい忘れるところだった。本来なら、こんな場所で和気あいあいと、料理なんてしている場合ではないだろう。
現に、時折鳴き声やカサカサと音がすれば、モルテグルの兵や護衛達は警戒する素振りが見えた。それもそうだ。ここは防壁の外なのだし、警戒しない方がオカシイ。
兵達に言わせれば、「皆さんそろそろ安全な防壁内に入ってくれませんか?」に違いない。しかも、公王まで一緒に料理教室みたいな事をやっているしで、訳が分からなそうだ。
そんな兵達の心情など露知らず、莉奈達はシフォンケーキ作りを続ける。
「そのメレンゲを、次は先程の薄力粉と混ぜた卵黄と混ぜていきます」
「「なるほど?」」
「メレンゲの気泡を壊さない様に、木ベラでふんわり混ぜていくんですが、メレンゲを数回に分けて混ぜていくと、混ざりやすいのでやって見て下さい」
「数回だな。分かった」
たまに莉奈の手伝いをするエギエディルス皇子は、その説明でなんとなく理解したらしく、サクサクと進めていた。
しかし、何もかもが初めてのアーリャは、先に混ぜ始めたエギエディルス皇子の手元を、真剣に見ている。どうやら、自分がやる前に見て学ぶ事にしたらしい。
ーーパキッ。
何か聞いた音がしたなと思ったら、何故かアーシェスの足元が凍り付いていた。
「ちょっと! 何で今、私の足を凍らせたのよ!?」
「気合いを入れていたら……つい?」
「……」
何がどう"つい"なのか、アーシェスは盛大なため息を吐きながら、パキパキと凍り付いた足を、無言で地面から剥がしている。
莉奈とエギエディルス皇子はその様子を見て、巻き込まれない様にそっとその場から半歩離れた。今は魔物より、アーリャの方が危険だ。
「底を掬って、切る様にして」
エギエディルス皇子は、莉奈に言われた様に丁寧に混ぜていた。
泡立て器でやれば素早く簡単に混ざるが、せっかく泡立てたメレンゲの気泡も潰れて台無しになる。
とにかく、このふんわり感をなくさない様に混ぜるのが大事だ。
「エド、イイ感じ。混ざったから、このココット皿に入れて」
「分かった」
キレイに混ざれば、もう9割完成した様なもの。
ココット皿に入れたら、少し上を平らに整え、生焼け焼き過ぎに注意しつつ、鉄鍋で蒸し焼きにするだけだ。
「後は鉄鍋で、15分くらい蒸し焼きにすれば完成です」
入れ物の大きさにもよるけど、今生地を入れたココット皿は小さめだ。
なので、そんなに時間を掛けて焼く必要はないだろう。
莉奈は、誰が作った物なのか確認しつつ、鉄鍋の中にある小さな石の上にキレイに並べた。後は蓋をして、その上にも熱々の炭をのせて、焼けるのを待つだけ。
「卵白を泡立てるのは大変だけど、簡単ね」
アーシェスが後は焼くだけと聞いて、ホッとした様子だった。
もうアーリャが何かする事はないだろうと、思ったのかもしれない。
「焼けたらお持ちいたしますので、そちらでお待ち下さい」
焼けるまでずっと、皆で鉄鍋を囲っていても暇なだけだし、何だか気まずい。そう思った莉奈は、アーリャ達をイスへと促す。
エギエディルス皇子は中身が見えなくとも、焼いている様子を見たいのか莉奈の隣に残っていた。こうやってただただ、ぼぉっと眺めているのも、焚き火を見る様な感覚で、不思議と楽しいのかもしれない。
ーーエギエディルス皇子とホッコリする事、十数分。
蓋の上の炭をどけ、鉄鍋の中を覗いて見れば、焼けた香ばしい匂いと甘い匂いがした。この焼き立ての香りは、堪らない。
「イイ匂いがする」
隣にいたエギエディルス皇子も、思わず笑顔になっている。
一応念の為、自分用のシフォンケーキに串を刺せば、生地がくっついてこなかった。中までしっかりと火が通っている証拠だ。
「さぁ、シフォンケーキが完成しましたよー!」
莉奈がそう声を掛ければ、パッと皆の顔に笑顔が咲いた。
まぁ、若干1名渋面顔だけど。
そんなフェリクス王には悪いけど、アーリャ達と楽しい? お茶会開催である。




