663 聖女ならぬ"聖物"
「あの?」
「何でしょう?」
「赤い玉とか黄色い玉は、魔法? 魔力が溜まっている玉なんですよね?」
「そうですね」
「なのに、この玉だけは蜜玉なんですか?」
魔力酔いを起こしたのは、この魔物の背中にある玉のせいか、魔物自身が持つ不思議な力故だろう。
いつもなら、自分で【鑑定】して視ているのだが、この魔物を【鑑定】すると魔力酔いを起こすので、なるべくしたくない。
シュゼル皇子でさえ渋い顔をしたのだから、無理にやらない方がイイに決まっている。ならば、【鑑定】したシュゼル皇子に訊いた方が早い。
普段、自分で【鑑定】しているから何だか不安だったし、これは虹色に光っているしで、口にするのは中々勇気がいる。
シュゼル皇子が嘘を吐くとは思わないが、念のために確認は大事だ。
「みたいですね。果実や花の蜜を蓄える玉は、上手く分けているみたいですよ?」
「なるほど?」
こんなランダムに付いている玉なのに、魔力を溜める玉と、蜜を溜める玉があるらしい。どういう仕組みか分からないが、ものスゴい器用な魔物である。
「しかもこれ、治癒魔法が付与された蜜玉らしいですね」
「「「"治癒"!?」」」
莉奈とエギエディルス皇子の声だけでなく、アーシェスやアーリャの驚く声も聞こえた。
まさか、自分で自分を回復する魔物がいるとは、驚愕である。それはもはや、生物ならぬ"聖物"ではないか。
これが強い魔物だとしたら、最悪ではないか……と考えた莉奈は、チラッとフェリクス王を見て、すぐに訂正する。
まぁ回復する間もなくやられたら、何の意味もないなと。
とりあえず、小竜でも倒せたのだから、そこまで強くないのだろう。
「なんでも、果実や花から摂取した蜜をこの玉に蓄え、それを自らの魔力で回復薬にしているみたいですね」
「マジか!」
エギエディルス皇子が目を丸くさせていた。
何故虹色になるかは知らないが、食べた果実や花の蜜を蓄えた玉だから、甘い蜜になるらしい。虹色なのは、回復系の魔力が溜まっているからなのかもしれない。
こんな珍しくて貴重な魔物を、小竜が捕まえて来るとは思わなかった。
面白い物を捕まえて来ると言われた時には、どうなる事かと思ったが、結果オーライではなかろうか?
「チビ、お前、スゴいじゃん!」
エギエディルス皇子が小竜を褒めれば、小竜も満更でもなさそうな顔をした後、ご機嫌な様子で鼻歌を唄う。
「赤いたまはボウボウボ〜、青いたまはジョウジョウジョ〜」
鼻歌を聴いたエギエディルス皇子は、その歌詞から小竜が、この魔物が何なのか知っていると確信した。
キレイな物と面白い事や楽しい事が好きな竜だ。きっとコレでも遊んでいたに違いない。
「お前、コレが何か知ってたのか?」
と小竜を見れば、先程まで鼻歌を歌っていた小竜は、ご機嫌のまま地を蹴っていた。
「って、俺の話を訊けーーっ!!」
空へ小さくなる小竜の背に向かい、エギエディルス皇子の可愛い声が、虚しく響く。
竜はとにかく自由だ。
誰かの番になろうとも、その本質は変わらない。
人が人をやめられない様に、竜も竜である事をやめないのである。
「さぁ、兄上、今度はこの玉の上部を斬って下さい」
竜が自由な様に、シュゼル皇子もまた自由人。
真珠姫も去った今、シュゼル皇子は回収した虹色の玉を、フェリクス王に差し出していた。
「……」
フェリクス王は人使いの荒い長弟を、無言で睨む。
だが、マイペースで自由な者は、別にシュゼル皇子だけではない。
「あ、ボウルに入れておいた方がイイですよ? 切り口から蜜が溢れそうですし」
その傍から、スッとボウルを差し出したのは莉奈だった。
玉の上部を斬ったらきっと、蜜が溢れそうだ。そう思った莉奈は、その貴重な蜜を一滴も逃すまいと、受けるボウルを素早く用意した。
「「はい!」」
「お前ら」
そのボウルを差し出し、満面の笑みでやれと言うシュゼル皇子と莉奈に、フェリクス王の額に青筋が立つ。
シュゼル皇子は言わずもがなだが、莉奈とてナックルダスターがあるのだから、やろうと思えば自分で出来るのだ。なのに、自分に頼むのだから呆れる。
何か文句を言い掛けたフェリクス王に、莉奈はニコリと笑って頭を下げた。
「私じゃ、握り潰しちゃいそうでお願いします!!」
それはそれでどうかと思うぞ? と皆は思ったが、その言葉にフェリクス王は怒りが収まったらしい。
腰に付けていた長い鞘から、刀をゆっくりと引き抜いた。
対魔物用のキレイな三日月刀である。刃が月明かりを受けて、キラリと光っていた。美形で長身のフェリクス王が持つと、カッコ良過ぎて思わず見惚れる。
「以前から思っていたんですけど、それ鞘に対して刃の長さが、全然合いませんよね?」
フェリクス王は長身痩躯。だから、長い刀を腰から下げていてもさほど気にならない。しかし、取り出した刀と並べると、収める鞘と長さが合わない気がした。
どう考えても、腰から下げている鞘より、刀の方が数十センチさらに長く感じる。並べて見ればきっと、さらに長さがオカシイ事に気付くだろう。
「あぁ、フェル兄の鞘には、魔法鞄と同じ空間魔法が付与されてるからな」
と説明してくれたのは、エギエディルス皇子だった。
鞘の内側には、魔法鞄同様に空間魔法が付与されているらしく、長い剣がスッポリ入るそうだ。
なら、短剣みたいな鞘でも良さそうだが、見た目が悪いのでこの長さにしてあるとの事だった。
魔法鞄と同じ原理かと、納得した莉奈はフと思う。
「あ、なら、そこに肉とかも入れられます?」
「「鞘に肉を突っ込むんじゃねぇよ!!」」
即座に、フェリクス王とエギエディルス皇子のツッコミが入った。
長い剣を収める様に、鞘に魔法が付与がされているのであって、食べ物を入れるためではない。鞘に食料を突っ込もうと考えるのは、後にも先にも莉奈だけだろう。
ちなみに、後から聞いた話によれば、何でも入れられる様に出来る事は出来るが、そこまで複雑仕様にはしておらず、刀オンリーだそうである。
まぁ、鞘から食べ物が出て来たら、カッコ悪いよね?
莉奈達のやり取りに、アーリャは笑うのであった。




