66 私はアイスクリーム、どうでもいいんですけど?
莉奈は、突き刺さる程の痛い視線を受け、深いため息と共に口を開いた。
「どうでもいいから、早く作って下さい」
「…………あ゛?」
フェリクス王の睨みが莉奈を刺す。
だが、へこたれない。なぜならネコは新しい飼い主に渡したし、被り物のネコも破って捨てた。ネジもさっきから外したままだ。
「さっきも言ったけど、邪魔なのよ」
「………………」
「小一時間も厨房を占拠して、邪・魔・な・の・よ!!」
「………………」
睨んでいたフェリクス王も、睨んでも怯まないどころか、予想外の剣幕に驚愕し押し黙った。そして、そのまま莉奈は横を見た。
「大体、なんで "豪腕" な人で王様なんか連れてくるのよ。バカじゃないの?」
「………………」
「兄である前に、国・王・様でしょうが!! 仕事のサポートしてなんぼの宰相様が邪魔してんじゃないわよ!!」
「…………はい」
あまりの剣幕に、シュゼル皇子はしゅんとなり謝っていた。
…………お前……すごい……な。
リック料理長達どころか、イベール、タールもその度胸に感服していた。どうにかしてくれ……と願ってはみたが、あのシュゼル皇子を謝らせるとは思わなかったのだ。
ーーーガッシャン。
シン……とした中で、出入口から何かが床に落ちる音が響いた。
昼食を食べに来ていた警備兵達が、驚愕したまま膝をガクガクさせていた。落としたのは剣の様だった。
初めは不敬を働いていた莉奈を、諌めるつもりで抜いたのかもしれない。だが、いざ抜いてみたら
……莉奈の非常識どころか恐ろしい言動に、畏れを感じて足が止まっていたのだ。
「さぁ!! リックさん達はそこの方々に昼食を!!」
莉奈は仕切る様に、目を醒まさせる様にパンパンと手を叩いた。
「「「…………は、はい!!」」」
その音で意識と魂が戻ったのか、リック達はいつもの活気を戻し始め各々持ち場に着く。
「すぐにお持ちしますので、警備の方々は、そこでお待ち下さい」
警備兵達には、食堂のイスに座って待つよう促した。
「「「…………は……はい」」」
この光景をみて、莉奈に逆らえる者はいない。いそいそとフェリクス王達を気にしながらも大人しく席についた。というか、つかざる得ない。
「イベールさん、タールさんは寸胴を……」
「「……はい」」
「シュゼル殿下は、先程通りにゆっくり冷やし固めて下さい」
「……はい」
「フェリクス陛下は、木べラでゆっくり撹拌して下さいね?」
と皆に指示し、最後フェリクス王にニッコリ微笑んだ。
「…………」
「か・く・は・ん・して下さいね?」
「…………お前……女にしとくの勿体ねぇな」
木べラを素直に受け取りながら、面白そうに言った。
「お誉めに預かり光栄にございます」
莉奈は、内心ぐったりしつつも深い深い笑顔で返したのであった。