64 舌打ちしたいのは私ですが?
「…………」
あの優しい微笑みは気のせいか、幻か、そこにはいつもの……いや、それ以上の不機嫌な王がいらっしゃいました。
「リナを咎めたフリをして、逃げるなんてダメですよ?」
「……チッ」
と、舌打ちしたフェリクス王。
ん?
じゃあ、ナニかね?
さっきの "アレ" は、私をだしにここから逃げる口実に使った……と?
おい!!こら!!
私の萌えを返しやがれ、こんちきしょう!!
「……どうぞ?」
莉奈はにっこり微笑み、わざとらしく両手で恭しく、フェリクス王の前にヘラを差し出した。
「………………」
「………………」
「……チッ」
舌打ちをして、今度こそフェリクス王は木べラを受け取った。
第二回、莉奈VSフェリクス王の無言の攻防、莉奈が勝った瞬間だった。
よっしゃ~~~ぁ~~!!
莉奈はガッツポーズをした。
ーーーコツン。
ん? 莉奈の頭に、また優しいげんこつが。
振り返って見たが、誰のげんこつかはわからなかった。
「さぁ!! 念願のアイスクリームを作りましょう!!」
だってそこには、そんな事を飛ばすくらいの、シュゼル皇子の満面の笑みがあったのだから……。
「……ぶれないですね」
莉奈はため息混じりにボソリと呟いた。ここまでくると感心する。
「ぶれる必要が?」
ニッコリ微笑むシュゼル皇子。
「………………」
ないんですね。
またもや呟きを拾うシュゼル皇子に、莉奈は力が削げた。
「……で、寸胴鍋の表面……縁を冷やすのでしたよね?」
シュゼル皇子は、あの1回で要領を掴んだのか、キレイにうっすらだが縁を冷やし固めた。
「……そうですね……その少し冷え固まったアイスクリームを……フェリクス陛下……その木のヘラで落とす様に撹拌して下さい」
「……チッ」
またもや不機嫌そうに舌打ちをしたフェリクス王。
だが、今回は言われた通り木べラを使い、丁寧に固まったアイスクリームを削げ落とした。
「ん、上手いですよ、陛下」
莉奈は、褒めたのだが……睨まれた。
「ここから、どうすれば?」
「この工程を……固めのクリーム状になるまでやって下さい」
本来、道具か機械でやる単純で大変な作業だ。
「……あ゛?」
「「「…………え?」」」
フェリクス王、シュゼル皇子はアイスの様に固まった。この液体がクリーム状になるまでが、どのくらいかかるか想像して固まったのかもしれない。
「……えっと……それは、時間にしてどのくらい…?」
不安を感じたタールが訊いてきた。
「……存じません」
莉奈はサラリと言った。
「……あ゛ぁ!?」
「「「…………え!?」」」
フェリクス王は睨み、シュゼル皇子達はさらに固まった。
「だって、知るわけないじゃないですか?魔法で作った事ないんですから」
莉奈はあっけらかんと言った。そもそも "魔法" で作る物じゃないと思うし、根本的な事から云うなら "人力" でこの量なんてありえない。逆に、ナゼ魔法で作らなければならないのか、教えて下さい。
「「「「………………」」」」
全員黙った。




