624 逃げ場なし
「ど、どうにかしてよ!!」
とアーシェスがさらに騒ぎ始めれば、フェリクス王は面倒くさそうな表情をしていた。
フェリクス王に言わせれば、まさに知らねぇだろう。
「滅んだら滅んだだろ」
「なっ!? 酷過ぎるわ!!」
先程からずっと、2人は揉めていた。
もはや、この時間すら無駄な気がする。フェリクス王がNOと言えば、余程の事でもない限り覆る事はない。
フェリクス王に何か言うより、早く歩いた方が効率的だと莉奈は思う。
だって、どの道、あそこは通るのだから、出くわせば頭数くらいは減らしてくれる気がする……たぶん?
堂々巡りだなと莉奈が見ていれば、フェリクス王は何かに気付いたのか、目を眇め空を見上げた。
「あ」
何だろうと釣られて見れば、遠方の空に豆みたいに小さくだが、見覚えのあるモノが飛んでいる。
「フェル兄、待った待った!!」
それを見て慌てたのはエギエディルス皇子だ。
それに向かって、小石を指で弾こうとしているフェリクス王を、必死で止めている。
ーーそう、飛んでいたのは薄紫色の小竜。
エギエディルス皇子の番である。
まだ小さな竜の為、意味もなく国境を越えるなと、あれ程注意しているのに飛行していた。
アーシェスにアレコレ言われ、少々機嫌の悪いフェリクス王は、その小竜に小石を弾き飛ばそうとしている。
普通なら、あの距離で当たる訳ないだろうと笑うところだが、フェリクス王なら確実に当てる。なんなら、撃ち落とすに違いない。
だからこそ、エギエディルス皇子が必死に止めているのだ。
「あれ、子供の竜じゃない?」
「初めて見た」
「カッコ可愛いな」
こちらに向かって来ている竜を見て、ランデル達はかなりテンション高めだった。
竜など見る機会がないから、余計なのかもしれない。
それが、まさかエギエディルス皇子の番だとは、チラッとも思っていないのだろう。
「何してるんだろう?」
一瞬、伝言? かと思ったが、何か違う気がする。
竜は好奇心の塊だから、エギエディルス皇子の小竜は、ここに遊びに来ているのかもしれない。
ここに、魔王がいるのすら気付かずに……。
「前方に、鳥が飛んでいるのが見えますし……」
「遊んでいるんでしょうね」
ローレンが言う様に、小竜の前方を見れば、鳥か魔物か分からないが、何羽か飛んでいる。
それを追いかけ回して、遊んでいるみたいだった。
エギエディルス皇子の竜は、体の大きさは幼竜から小竜と成長したものの、まだまだ子供なので誰よりもどこまでも自由だ。
しかし、時と場所が悪い。
「チビーーッ!! お前はそこで何やってんだよーー!?」
見つけてしまった以上、放っておくのは悪手。
エギエディルス皇子だけなら、この場は注意くらいで済むが、兄王がいるのだから見逃せない。
ひょっとしたら、小竜はパッと見は何も考えていなさそうだが、王宮で何かあって伝言を伝えに来たのかも……と一縷の望みに掛けたエギエディルス皇子は、小竜に向かって大きな声を出した。
「きゅる?」
遊ぶのに夢中だった小竜は、エギエディルス皇子の声に一瞬、首を傾げていたが、彼の存在に気付くと嬉しそうな声を上げた。
ーーが、すぐにその隣にいるフェリクス王に気付き、時を止めている様子が見える。
さすがに、ヤバイと悟ったらしい。
だが、時すでに遅し。今さらオロオロしようが、見つかった時点で終わりだ。
こうなれば、平謝り一択しかない。
謝罪が遅れれば遅れるだけ、命の危機だ。なので、莉奈的には悩むだけ無駄だと思うのだが、小竜は言い訳でも考えているのかクルクルと旋回している。
だが、しばらくその場で旋回したものの、どうにもならないと観念した小竜は、時間を掛ける様にゆっくりと降りて来た。
「てめぇは何してやがる」
誰がどう見ても遊んでいただろう。
しかし、フェリクス王は、一応言い訳を訊いてあげる様だ。
「えっと……?」
フェリクス王とは怖くて目線が合わせられない小竜は、エギエディルス皇子をチラチラと見ている。
代弁するならば、"助けて"だろう。
「お前、あれほど他国には行くなって言っただろ?」
仕方ない子を見る様な目で、エギエディルス皇子は見ていた。
本来なら、別に行っても構わないのだが、それは成体になってからの話だ。
ヴァルタール皇国は、竜は国を護る生き物として神聖化されている。
なので、魔堕ちした竜はともかく、人と同じく傷付ける事は普通に違法だ。しかし、他国では竜を狩る事は基本的に違法ではない。
他の動物や魔物と違い、竜は意味もなく襲ったりしないし、意志疎通が出来るから、ランデル達みたいな常識人は狩らないだけで、殺人を犯す者がいる様に竜を狩る者もいる。
しかも、素材が超高額で売買されているのだから、一攫千金を狙ったヤツらには恰好の餌食である。
ただでさえ、竜は好奇心旺盛。特に幼い竜は旺盛で、今みたいに周りが見えなくなる事もしばしば。小竜でも相当に強いから、滅多にやられる事はないが、危機感は持っていた方がイイ。
「でも、せかいは1つだよ?」
ーードカ!!
「キャン!」
そんな話はしていない。
キョトンとした小竜の頭に、フェリクス王の特大ゲンコツが落ちていた。
さすがはフェリクス王だ。莉奈にも竜にも容赦がない。
誤字脱字の報告、ありがとうございます。
勘違いも多々ありますが、大抵の場合はそう書いていたつもり…
で書いていないパターンが多いです。( ・∇・)恥ずかしい
頭と指がしっかり連動していない。_| ̄|○




