622 アーシェス咆える
「た、大変じゃない! そうよ、フェリクス! 来たついでに討伐して行ってあげなさいよ!!」
モルテグルの置かれた現状を察したアーシェスが、フェリクス王に詰め寄っていた。
このままではキラーアントによって、モルテグルは壊滅するのではと危機を感じ取ったらしい。
「あ゛?」
「モルテグルの危機なのよ!?」
「だから?」
「隣国のよしみでーー」
「知らねぇな」
「知らないって、可哀想だと思わないの!?」
「思わねぇよ」
「な!? 知らぬ仲じゃないのに、薄情過ぎるでしょう!?」
「うるせぇ。なら、お前が倒せばイイだろうが」
「こ、この人でなし!!」
面倒くさそうなフェリクス王と、アーシェスが揉めていた。
というか、アーシェスが一方的にフェリクス王に突っかかっている。これから行く町の危機ともなれば、アーシェスの気持ちは分からなくもないが、フェリクス王に言わせれば、助ける義務も義理もない。
精々フェリクス王のする事といえば、自国に降りかからない様、注視するくらいだろう。
「なぁ、町はまだあるのかよ?」
「縁起でもない事、言わないでくれる!?」
エギエディルス皇子が、ジンとレイに訊いていたら、アーシェスが反射的に返していた。
エギエディルス皇子的には、モルテグルがまだ存続しているのか、素直に疑問としただけ。しかし、アーシェスにはそれがフラグみたいで、ゾッとしたみたいだ。
フェリクス王達が話をしている間に、ジンとレイは不安を煽られたのか、魔馬にヒラリと乗っていた。
もはや、こちらと話をしている時間すらも惜しい感じである。
「悪いが先に行く!!」
と言うが早いか魔馬を蹴って、ドカドカと凄まじい音と土煙を上げながら、モルテグル方面へ走り去って行くのだった。
「間に合うのか?」
「だから、縁起でもない事は言わないでくれる!?」
エギエディルス皇子が半ば本気の様な声で言えば、再びアーシェスが言葉に出さないでと怒っていた。
キラーアントが、モルテグルを襲うつもりがあるかないかはともかくとして、近くに棲息しているのは確かみたいである。
利用しているつもりで放置していた様だが、いつ町の存在に気付かれてもおかしくない状況。あの2人がモルテグルから出た後の事は、誰も知らないのだから、旅をし終え帰還したらありませんでした……という事態もありえそうだった。
「あぁもう、こんな所をチマチマ歩いてないで、竜で行きましょうよ!!」
「あ゛ぁ?」
「一晩だって待ってられないのよ!!」
モルテグルが心配なのか、アーシェスはウロウロしていた。
野宿は確定だが、モルテグルに着いてからにするか、この辺りでするかも決めてない。その数時間すらもったいないと、アーシェスはフェリクス王に訴えていた。
「「「"竜"??」」」
その会話を聞いていたランデル達は、目をパチクリさせている。
まさか、"竜"で行こうと話が出るなんて、想像していなかったのだろう。聞き間違いだよな? という表情をしている。
「キラーアントの存在を知っていて、ずっと放置をしていたのはアイツらだろうが」
「だけど、それは仕方ないじゃない!」
フェリクス王とアーシェスはまだ揉めていた。
今すぐ助けに行きたいアーシェスと、急ぐ必要性を見出せないフェリクス王。水と油みたいな2人の話は、決して交わる事はなく平行線である。
「モルテグルの兵力って、そんなにない感じなのかな?」
世界最強で最恐のフェリクス王が率いる、ヴァルタール皇国しか知らない莉奈は、そもそも基準が分からない。
アーシェスが騒ぐ程、モルテグルはヤバいのかなと疑問に思ったのだ。
「一応、首都だし、それなりの兵力はあるんじゃね?」
「ただ、万が一でもキラーアントに似た、モルトルアントならヤバそうですけどね」
エギエディルス皇子の言葉より、ローレンの言葉が気になる。
"モルトルアント"とは何だろう?




