62 ぶっちゃけすぎ
「まっ、もっと欲しかったらお兄ちゃんに頼みなよ」
3個しかない からあげを、莉奈は皆から逃げる様に持ち出し食堂に戻った。
「えーーーっ!!」
とブーイングをしながら、エギエディルス皇子も後について来る。
「イベールさん、タールさんも1個ずつですが、どうぞ?」
覗き込んでいた二人に、莉奈はからあげののった小皿を差し出した。もちろん小さなフォークも手渡す。
「……い、いいんですかね?」
と、おずおず訊いてきたのはタールだ。国王陛下の御前で、先に口にしていいものなのかと訊いたのだ。
「毒見?」
と、莉奈はいたずらっぽい笑顔で言った。すでに皇子二人が口にしておいて、毒見も何もないのだが、わざとらしそうに言ってみた。なんだったら、賄賂的な意味もこめている。
「すでに、御二人の殿下が御賞味なされた後にですか?」
莉奈の言動に呆れつつ、見たこともない "からあげ" の魅力にイベールは敗けた。渡されたフォークを手に取りサクリとからあげに刺した。
「ぁ~」
どこからともなく、意気消沈する声がした。ひょっとしたらイベールが食べず、自分達の口に入るかも…と思っていたのかもしれない。
「では、いただきます」
「ぁ~」
タールが同じく刺せば、同じ様に悲壮感が漂った。
「「…………!!」」
からあげを口にした瞬間、あの氷のイベールがわずかにだが、瞠目した。
よしっ!!
莉奈は人知れずガッツポーズをした。
プリンより、こっちの方が好みらしい。
「美味しい……!! これが…からあげ」
タールは、あまりの美味しさに感嘆の声を上げた。その後は、からあげの余韻を堪能している様だった。
「陛下?……皆様の毒見が済みましたので……どうぞ?」
最後のからあげがのった小皿を差し出した。
「その毒見の一部に、弟が二人もいた様だが?」
呆れながらも、莉奈の言動を面白がっている。
「気のせいにございますよ」
ホホホ……と空々しく笑う。見てもいたし、なんだったら会話も筒抜け、誰がなんと云おうがウソであるのは瞭然だ。
「ネコはいつ帰ってくるんだか……」
くつくつと笑いながら、フェリクス王はからあげをフォークで刺し口に入れた。
「…………っ」
サクサクと心地よい音をたてながら、フェリクス王はからあげを食べた。
「いかがでしょうか?」
「…………んな」
「はい?」
「足りんな」
「……でしょうねぇ?」
だって、わざとだ。わざと少なくして、撒き餌さ……ゴホン。
アイスクリーム作りの参加を、促そうとしているのだ。
「……お前……本当にネコはどうした?」
と面白そうに訊いた。
「残念ながら…先程、新しい飼い主が見つかったそうです」
「くくっ……。そうか、お前じゃさぞかし居心地が悪かったんだろう」
笑いを堪えながら、フェリクス王は言った。
……ん? どういう事かな?
「……もっと、からあげが欲しかったら、はい、どうぞ!!」
まぁいいか……と莉奈はなにもなかった様に流し、先程の木へラをフェリクス王に差し出した。
「……お前……いろんな意味ですげぇな」
この行動に、エギエディルス皇子が呆れていた。王に拒否されてへこたれないだけでなく、再挑戦をした莉奈にはある意味感服する。
「はい!!」
改めて渡そうとするが、ニヤニヤと笑うだけで、いっこうに取る気のない。
…………ちっ。
からあげじゃ、釣れなかったか……。
「…………」
「…………」
皆が見守るなか、無言な攻防が繰り広げられていた。
「…………」
いつまで、こうしてればいいのかな?
大体、あのアホ宰相が原因なんだから、ほのほのと見てないで自分でどうにかしてくれないかな?
一向に何もアクションを起こさないフェリクス王とシュゼル皇子に、次第にイラッとしてきた莉奈は頭のネジを外した。キレたのではない…自ら外したのだ。
「もう、とっとと作って下さい!! この際ぶっちゃけるけど。昼のこのクソ忙しい時に、あなた方がいると迷惑なのよ!! リックさん達は怯えて職務に戻れないし、なんだったら、これから昼食をみんなが食べに来るのに邪魔でしょうがない!!」
…………リナーーー!!?
皆の心が一つになった瞬間であった。
ぶっちゃけ過ぎだ……と、誰もが思った。
不敬を通り越して、莉奈に畏怖さえ感じる。
リック達は、顔面蒼白どころか魂が抜けていた。
「……リナ……お前……マジすげぇわ」
自分だってそんな風に兄達に、ぶっちゃけた事がないのに、なんの後ろ楯もないただの平民が、この兄に好き勝手に言う……これが凄くなくて何が凄いって話だった。
……あれれ?
言い過ぎ……た……かな……?