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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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619 のんびりした空気が一転



 莉奈がこんな調子では、夜通しだろうがなんだろうが心配なさそうだ。むしろ、末弟エギエディルスの体力面を心配すべきかと、フェリクス王が考えていれば、段々と蹄の音が近くに聞こえてきた。

「お〜い!!」

 先程の旅人2人である。

 この後の話し合いをしている間に、逃げていた魔馬を見つけ、こちらに追いついた様だ。



「でっか!!」

 以前、何となく耳にした魔馬が、今、目の前にドカンといる。

 莉奈の知っている馬とはまったく違い、脚も太く体格もイイ。何もかもがやたらと大きな馬だった。

 北海道のばん馬やフランスのペルシュロンは、サラブレッドより遥かに大きく、体重も1トンくらいあると訊いた事がある。

 まさに、この魔馬くらいではなかろうか。

 やたらと太い脚は、エギエディルス皇子の背丈と変わらないくらいに長い。体高なんて、身長180cm越えのフェリクス王が並んでも、魔馬の頭の方が高いくらいだ。

 2m超えのゲオルグ師団長となら、イイ勝負だろう。



 スゴいスゴいと莉奈が魔馬をマジマジ見ていると、何故か魔馬がスッと莉奈から視線を逸らせた。

「ん?」

 と莉奈が首を傾げていれば、鼻で笑う声が聞こえる。

「食われると思ってんじゃねぇの?」

 エギエディルス皇子だ。

 実際のところ魔馬が何を思って、莉奈から視線を逸らせたか知らないが、危険を察知したのではと、エギエディルス皇子は感じた。

「え? 食べられるの?」

「「ヒィン!」」

 莉奈が純粋? に訊き返せば、言葉を理解しているのか、魔馬2頭が小さく鳴いた。

 エギエディルス皇子は、食べられるだなんてひと言も言ってはいない。

 だが、日本や海外の一部の地域では、馬は食用もあり普通に食べられる。だから、魔馬を食う食わないはともかくとして、この世界も馬は食用とされているのかなと、莉奈は思ったのだ。



「「……」」

 エギエディルス皇子はジト目だったが、アーシェスと旅人2人はドン引きしている。

 フェリクス王に至っては、何が可笑しいのかクツクツと肩を振るわせていた。

「馬は食べる地域もありますけど……魔馬は」

 どうやら、馬を食べる国や地域はあるらしい。

 ローレン補佐官だけは、顎に手をあて莉奈に教えてくれた。



「臭みとかあるんですかね?」

「さぁ? "魔"馬と呼ばれていますし、何となく名前から忌避されてきたのかもしれませんね」

 魔物は食べられない、食べてはいけないとこれまでされてきた。

 だが、この馬は魔物だから"魔馬"ではなく、魔物にも恐れない馬だから、魔馬と呼ばれているだけ。いわば、品種か別名みたいなもの。

 ただ何となく食べられてこなかっただけで、実は食べられるかもしれない。

 そうローレンが説明してくれれば、莉奈もなるほどと納得した。



「私の世界でも、この魔馬に似たペルシュロンって品種の馬は、食用とされていましたし……」

 魔馬もひょっとしたら食べられるのかもしれない。

 莉奈は言葉を濁しつつチラッと見れば、魔馬はさらにブルリと震え上がっていた。



「魔馬の前でよく言えた会話よね」

「いいか? 魔馬は食うな」

 本人ならず魔馬を目の前に、なんて会話をしているのだ。

 もはや莉奈に呆れるより、魔馬に同情しかないアーシェスとエギエディルス皇子。

 そんな会話を訊いていた旅人2人は、何か妙な人達と関わってしまったなと後悔しつつ、震え上がる魔馬を優しく撫でていた。

 フェリクス王は終始笑っていたけれど。




 ◇◇◇




「で?」

 肩を震わせていたフェリクス王が、旅人2人をチラリと見た。

 何か用があるのかと。

「キミ達、ひょっとしてモルテグルに行くつもりか?」

 莉奈達は、ここから見える山間を目指している感じに見えた。

 山間を抜け、あまり草木の生えていない砂地を歩いていけば、ウクスナ公国の首都モルテグルとなる。

 なので、莉奈達がモルテグルに向かっているのだと、旅人2人は思ったのだ。



「そうね」

「「なら……っ!?」」

 頷くアーシェスを見た旅人2人は、何か言い掛けて瞠目していた。

 アーシェスの奇抜なセンスに驚く人はいるが、2人の驚き方はそんな感じとは違って見える。

「え、アーリャ……様」

「いや、雰囲気とかスゴく似ているが、まさかこんな所にいる訳がないし」

「だよな。髪色だって全然違うし」

 何だかコソコソと小声で話していた。

 その会話を聞いて、フェリクス王とアーシェスはチラッと視線を合わせている。



「あなた達、アーリャの知り合いなの?」

「ウクスナ公国の兵か、直属の部下ってところか」

 アーシェスが旅人2人に訊いていれば、フェリクス王はすでに彼らの身分を推測していた様だった。

 どちらの言葉を聴いて驚いたのかは分からないが、一瞬身構えて見せる。自分達の身元がすぐにバレ、フェリクス王達が只者ではないと察したのだろう。



「剣には触れない方がイイですよ?」

 半歩下がるまではともかくとして、万が一にでも旅人2人が、腰に下げている剣に指を触れたりしたら……何が起きるかなんて、ローレンでさえ想像したくない。

「アンタ達、何者なんだ?」

 "キミ"達から"アンタ"達に言い方を変えたのだから、彼らの警戒心が強くなった証拠。

 ランデル達も、いつでも武器に手を掛けられる様にして、莉奈の近くに寄って来た。莉奈を守るという約束を、しっかりと覚えているらしい。

 魔物と対峙した時より、嫌な空気だ。莉奈でさえ、肌にヒリつく様な妙な緊張感を感じる。



「知りたいなら、先に言うのが筋だろ?」

 こんな事態でも、エギエディルス皇子は余裕があるのか、兄王そっくりの笑みを浮かべていた。

 こんな状況なのに、フェリクス王同様に余裕なのだから、莉奈は感心しきりだ。



 旅人2人は目配せした後、諦めた様子で肩の力を抜いた。

 莉奈を頭数に入れれば、2対8。しかも、フェリクス王のなりと隠しきれない威光オーラを察すれば、もはや諦めざるをえない。どう考えても劣勢である。



「ウクスナ公国……近衛兵ジンと」

「レイだ」

 近衛兵と言うのを一瞬躊躇っていたが、今さら隠しても意味はないと観念した様だった。











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