570 疲れた身体に甘さが沁みる
「よろしければ、紅茶と生キャラメルをどうぞ」
疲れた身体には甘い物だよね。
そう思った莉奈は、ランデル達に温かい紅茶と、紙に包んである生キャラメルを小皿に置いた。
お腹がいっぱいでも、そのくらいなら入るだろう。
「「「生キャラメル?」」」
「甘いお菓子です。もし甘い物が苦手なら、糠漬けやピクルスもあるんで言って下さいね?」
「「「……」」」
ランデル達は、もう何度目か分からないくらいに、唖然としていた。
至れり尽せりという言葉は、この事ではないのか?
莉奈といると、ここが魔物の蔓延る場所だという事を忘れそうだ。
「「「生キャラメル」」」
「え?」
夕食の説明に取り掛かろうとしていた莉奈に、微復活したエギエディルス皇子を含め、アーシェスとローレン補佐官の熱い眼差しが突き刺さっていた。
どうやら、生キャラメルが欲しい様である。
「すぐに晩ご飯だよ?」
「その前に一つくれ」
「うん? まぁイイけど」
口が甘い物を欲していたみたいで、莉奈がランデル達に出しているのを見たら欲しくなったらしい。
エギエディルス皇子達にも一つずつ生キャラメルを、フェリクス王には糠漬けを差し出した。
生キャラメルを食べるならと、紅茶も出す事にした。
「あぁ、そうよコレコレ。やっぱり美味しいわぁ」
早速とばかりに口にしたアーシェスが、大きく頷きながら笑みを浮かべていた。
以前あげた時に気に入り、王宮に来るたびに莉奈に作ってもらおうと考えていたらしい。だが、来るたびに色々な料理に出会い、忘れて今に至ったとか。
念願の生キャラメルに、アーシェスは満足そうだった。
「疲れてるからか、すげぇウマい」
エギエディルス皇子も頬を綻ばせながら、堪能していた。
皆が生キャラメルを口にしているのを見ながら、莉奈はフと思い出した。
以前、生キャラメルの"生"は、柔らかいからだと、適当に言った覚えがある。それもあながち間違いではないが、生キャラメルの"生"は、生クリームの生とも言われている。
確か……普通のキャラメルより、生クリームが多く使われているからとか何とか。生チョコの生もそうだ。
だけど、生春巻きの生は生クリームの生ではなく、すでに焼いてあるので、そのまま食べられるから"生"だ。
生の幅が広くて深過ぎる。そこに生食感、生風味とか色々加わる訳で、日本語って難しい。
莉奈がそんな事を考えていれば、ランデル達も生キャラメルを口にした様だった。
初めは生キャラメルが何だか分からず、紅茶を飲んで様子を見ていたランデル達。だが、エギエディルス皇子達が食べたその表情に、好奇心が沸いたらしい。
「「「んんんんん〜〜っ!?」」」
元より柔らかい生キャラメルが、先に飲んだ温かい紅茶のおかげで、さらに溶けやすくなっていた。
あまりの柔らかさに、思わず口を両手で押さえている。
初めての食感。口いっぱいに広がる不思議な甘さ。しかし、その中に感じるほのかに香ばしい香り。
ランデル達の口の中は、初めての砂糖菓子に蕩けに蕩けていた。
「何コレ、何コレ、何コレ!!」
マリサは興奮しまくっていた。
ゆっくり堪能したかったが、あっという間に口から消えた生キャラメル。
口の中に、余韻として残る生キャラメルの味がまた儚げで、紅茶が飲めない。今飲んだら、絶対この幸せな余韻が消されてしまいそうだ。
「……っ!」
リーダーであるランデルは、カッと一瞬目を見開いた後、口端を緩めてゆっくりと味わっている。
疲れた身体に、この甘くてほろ苦い生キャラメルが染み渡っていた。
初めての味と食感に、ランデルはニヤニヤが止まらない。
「……あぁぁ〜」
その蕩ける食感にハービスも、表情が蕩けまくっていた。
頬が緩んだまま、元に戻らない。恍惚とした表情で、キラキラ輝く星空を見上げていた。
◇◇◇
「で、この焼き台は何なんだ?」
生キャラメルを堪能したエギエディルス皇子の目は、すでに目の前にデンと鎮座する小さな焼き台に釘付けだ。
以前、王宮の中庭で食べた焼き鳥。その時に、莉奈が使っていたバーベキューコンロに似ている。そう、それをそのまま小さくしたみたいだった。
「焼き肉コンロ」
バーベキューコンロでも間違いではないが、焼き肉屋で、よく見かけるおひとり様用コンロである。
白竜宮の人と相談して、急遽特注で作ってもらった物。
バーベキューコンロでもイイが、おひとり様焼き台って楽しいんだよね。
「「「焼き肉コンロ?」」」
フェリクス王以外の3人が、声を上げた。
おひとり様用コンロなんて、初めて見たから不思議なのだろう。
「晩ご飯は"焼き肉"なんですけど、今日は皆さん初めての焼き肉ですので、1人1人肉と向き合ってもらいたいなぁと?」
「「「……」」」
大きなバーベキューコンロを囲んで、皆でワイワイ焼くのも楽しい。
楽しいが……誰の肉か分からなくなるとか、人の焼いている肉を勝手に食べるとか。焼く位置とか、人の肉を触るなど、鍋並みにちょっと気を遣う。
せっかくの美味しい肉だ。ならば、個々に向き合って欲しいと、莉奈は用意したのであった。




